カンガルーの逃走劇【ショートショート】
動物園でカンガルーが脱走した。
そんな緊張連絡を受けた動物園の職員たちは、必死にカンガルーを捕まえようとしていた。
だが、そう簡単には捕まらない。
カンガルーはあっちにヒラリ、こっちにヒラリと逃げ回る。
足はカンガルーのほうが早い。
正面から立ち向かえば、強烈なパンチをもらう可能性もある。
逃げ回るカンガルーを捕まえるのは、思っている以上に大変だ。
そんな中、1人の職員がカンガルーに追いついた。
絶対に逃さない!
そんな顔で職員は、カンガルーをジリジリ追い詰めていく。
正面から突っ込んだりはしない。
カンガルーのステップを予測し、逃げ道を塞ぐように追い詰めていく。
この調子で追い詰めれば、捕まえることができるだろう。
だか、カンガルーも負けてはいない。
職員の動きを見きったのか、カンガルーはヒラリと身をかわした。
そして……いつの間にか職員の背後に回り込んだ!
慌てて振り返る職員。
すると、カンガルーは職員のスマホを手に持ち、自撮りを始めた。
ポカンとする職員。
思わず「自撮りしてどうする!」と、ツッコミを入れた。
「カンガルーは自撮りをしちゃダメなのか?」
「え?」
どこからか聞こえた声に、驚きを隠せない職員。
思わず辺りを見回す。
「だれだ!?」
「ふふふ。さぁ、誰でしょう」
「まさか……」
職員はジッと、カンガルーを見つめる。
「喋ったのはカンガルーか?」
「プッ! クスクス」
笑い声は職員の後ろから聞こえてきた。
「だれだ!」
勢いよく振り向く職員。
その隙に、カンガルーは笑うように逃げていった。
〈了〉