春雨サラダ【ショートショート】
春雨サラダを一口、パクっと食べる。
うん。
爽やかな辛さが心地良い。
もう一口。
んー、ちょっと薄味かな。
そこに溜まったスープをしっかりつけて、もう一口。
んぶっ!
!?
か、辛い。
辛子か!?
のどが辛子を吐き出そうとする。
肺から空気が逆流してくる!
ヤバい。
このままだと吐き出してしまう。
私は動くのをやめ、呼吸を止めることに全力を注いた。
む、む、ぐ、む……。
何とか吐き出さずに済んだ。
今のうちに、洗面所へ行って口から出そう。
そう思って少し動くと……。
むぐぁ!?
また辛さが来た!
んぶっぶっ。
で……でる。
必死の形相で口を閉じ、息を止める。
だが、体が辛子を拒絶する。
『こんなの食べ物じゃない! 出さなきゃ!出さなきゃ! それー、吐き出せー!』
そう言いながら、体の内側から全力で押されている気がする。
少しでも気を緩めたら、春雨をぶちまけるだろう。
それだけは……それだけは嫌だ!
私は顔を真っ赤にして耐えた。
必死の形相で耐える私を、子供がゆびを指して笑っている。
ここで春雨をぶちまけたら、この子から笑顔が消えるだろう。
そして、泣き顔になるのは間違いない。
だから耐えないと!
私はさらに唇に力を入れた。
顔がどんどん真っ赤になる。
それでも辛子は、容赦なく私の喉を焼く。
苦しい。
むせる。
全部出てしまう!
そんなギリギリのところで、私は春雨を飲み込んだ!
と同時に口が開く!
だが……飛び出るはずだった春雨は胃の中だ。
私は辛子に勝ったのだ。
〈了〉