コピーと割印と書類の山と
深夜のオフィスで、私は入院中の同僚の代わりに仕事をしていた。
コピー機のランプが眩しく光る。
大きく開いた口に種類を置き、枚数を指定してスタートを押す。
ガタン! と、音を立てながら、次々と書類が印刷される。
それを数十回繰り返す。
コピーした書類を種類ごとに並べ、上を1センチだけずらす。
その上に原本を重ねて、1枚ずつ割印を押す。
割印が押された書類に、配布先の場所名を記入。
7枚を1セットニシテホチキスで止める。
それから、各部署のレターケースに入れていく。
そんな作業を永遠と繰り返していた。
時間は23時18分。
もぅ、7時間もこんなことを繰り返している。
コピーして、割印を押して、部署名を書いて、ホチキスで止める。
クソ単調で、クソみたいにつまらない。
誰がこんな仕事を考えたのか。
考えた奴が目の前にいたら、思いっきり「バーカ!」と言ってやりたい。
自分の仕事なら、やり方を変えられる。
けど……入院中の同僚の代わりにやっている仕事だ。
本人が帰って来るなら、やり方を変えるわけにも行かない。
「クソくだらねぇ」
私は誰もいないオフィスで、吐き捨てるように文句を言いながら、ひたすら割印を押した。
あれから2週間が経ち、入院していた同僚が戻るという日がやってきた。
マジで嬉しかった。
何しろ2週間毎日23時過ぎまで残業。
ひたすらコピーを取り、割印を押す作業に飽き飽きしていたからだ。
やっと……。
やっとこの、くだらない仕事から開放される。
そう思うと、涙が出そうなほど嬉しかった。
私は同僚が出社するのを待った。
けど……。
何故か出勤してこない。
不安な気持ちが広がっていく。
しばらくすると、上司の机の電話が鳴り響いた。
上司が電話に出ると、なにやら神妙な顔つきで話している。
オフィスに広がる不穏な空気。
私はソワソワしながら待った。
上司は電話を終え、真剣な表情でこう告げた。
「あー、言いづらいんだけどな」
ゴクリとつばを飲み込む。
「退院したけどコロナになったらしい。だから、あと1週間休ませることにした」
「は?」
「引き続きあいつの仕事をやってくれ」
「……え?」
「じゃ、そういうことだから」
こうして、私の割印とコピー地獄が続くことになった。
〈了〉
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