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コミュニケーション・クリーンサー

私は毎日、上司に振り回されていました。
上司からの細かな指示や監視が、私のモチベーションを低下させるのです。

上司の指示は、それはそれは細かなものでした。

クリップが曲がってついているとか。
ホチキスは紙に対して垂直じゃないとダメだとか。
書類のフォントは11、タイトルは14、ゴシック体は使うなとか。
返事は「はい」で、「は」を強めに言えとか。

他にも、まだ結婚しないのかとか。
そんなんだから彼女かできないんだとか。

余計なことまで干渉してきます。

もっと言えば、このプロジェクトの進捗はどうだと、毎日聞かれ。
それじゃダメだ、こうやれ、ああやれと言われ続けます。
意見を言おうものなら、お前は経験が浅いから言われた通りにやれ、と言われるだけ。
10時に〇〇会社に電話しろ、11時にこの書類を作れ……。

と、まぁ、メチャクチャ干渉されるわけです。

こんな状態なので、いつしか退職を考えるようになりました。

そんなある日、経営陣から驚きの提案がありました。

コミュニケーションの強化と共感を促進するために、特別な掃除機を導入することに決定したのです。

この掃除機には、魔法のような力が宿っているとかなんとか。
それは、過干渉や不必要な干渉を吸い取り、職場のコミュニケーションをクリーンにする力だとか。

経営陣はこの掃除機を「コミュニケーション・クリーンサー」と名付け、私たちに使うよう奨励しました。


最初は、経営陣がついに狂った? と、思っていました。

掃除機ですよ?
掃除機。

ありえませんよね。

ただ、上司の過干渉にウンザリしていたのも事実。なので、コミュニケーション・クリーンサーを試すことにしました。

上司との打ち合わせで、コミュニケーション・
クリーンサーの電源を入れてみたのです。

「なぁトム、このプレゼンテーションの資料、おかしくないか?」
「おかしなところがありますか?」
「いいか、まずフォントが……」

フィーン。
掃除機が勢いよく何かを吸い込み始めた。

「……ってことなんだよ、分かるか?」
「あ、いえ。掃除機がうるさくて聞こえませんでした」
「ん……そうか……掃除機か……。いや、すまなかった。聞かなかったことにしてくれ」
「あ、はい」

コミュニケーション・クリーンサーの効果は素晴らしかった。
上司が過干渉をしようとすると、その声を全部吸い取ってくれたんてす。

それから私は、上司との打ち合わせで必ずコミュニケーション・クリーンサーを使いました。

その結果、上司とのコミュニケーションが改善され、よりオープンで建設的な対話を実現しました。

掃除機は私の周りから過度な干渉を取り除き、新しいアイデアと協力の機会を生み出したのです。

私は同僚たちにもコミュニケーション・クリーンサーの力を紹介しました。
すると僅かな期間で、職場全体のコミュニケーションが改善しました。

ただ……1つだけ問題があったのです。

それは、コミュニケーション・クリーンサーが側にないと、なんの意味もないってこと。

ねちっこい上司は、わざわざコミュニケーション・クリーンサーを持っていないタイミングを狙って……。

〈了〉

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