まだ早い【ショートショート】
俺は、娘の成長を見届けたかった。
成人した日に、一緒にお酒を呑みたかった。
彼氏を紹介され、ちょっと不貞腐れてみたかった。
「君にお父さんなんて言われたくない!」
そんなセリフを言ってみたかった。
娘とバージンロードを歩きたかった。
親への手紙を読む娘を、泣きながら見たかった。
初孫を抱きたかった。
「娘によく似ている」
そんなことを言いたかった。
沢山甘やかして、沢山手をかけて。
おじいちゃんと呼ばれたかった。
それはもう、叶わないと分かっている。
だからこそ、俺ができなかったことをお前に叶えてほしい。
俺はここで、お前が来るのを待っている。
娘や孫との思い出を沢山抱えて「あなた話したいことがたくさんあるの」と言って、笑いながら来る日を、ずっと待っている。
だから、急いでこっちに来るな。
もっと娘と、孫と、家族と過ごす日を楽しんでこい。
そして、抱えられないくらいの思い出を作ってくれ。
俺はここにいる。
ずっとここで、待っているから……。
……。
…………。
…………………。
「お母さん!お母さん!」
……ん?
……呼ばれ……てる?
「お母さん! 良かった、気がついたのね」
あれ?
ここ……は?
いったい……何が……。
確か……バスに乗っていて……それから……体がフワッと……。
そう言えば……あの人に振られたような。
せっかく、会えたのに……。
帰れって、言われた気がする……な。
なんでだっけ。
……思い出せないな。
「お母さん?」
ちゃんと、しないと。
娘を、ちゃんと見ないと。
土産話は、多いほうがいい……だっけ。
そうよね、あなた。