脅してどうする|ショートショート
トラックが壊れた。
先日の大寒波で軽油が凍り、そのままエンジンをかけたことで部品が壊れたらしい。
意外と知られていないことだが、軽油には特1号・1号・2号・3号・特3号までの種類がある。この5種類の大きな違いは凍結温度だ。
特1号は+5℃、特3号は-30℃まで流動性が確保できるらしい。
つまり、寒冷地では3号か特3号の軽油を使わないと、トラックは走ることもできない、というわけだ。
このことを知らないドライバーは、2号の軽油を入れたまま寒冷地に行き、軽油が凍るという恐ろしい状態に見舞われることになる。
ちなみに、軽油が凍ってもエンジンをかけなければ問題ない。問題は、軽油が凍っているのにエンジンをかけることだ。
でだ。
会社でも先日の大寒波で軽油が凍ってしまった。しかも、エンジンをかけてしまい、移動までしてしまったのだ。
凍った軽油ではエンジンが正常に動くことはない。
ほんの数キロ走ったところでエンジンが動かなくなり、運転手は寒空の下でレッカー車を待つことになった。
まぁ、ここまではよくある(?)話だろう。
問題はこの後だ。
トラックが壊れたのは、軽油が凍ったから。これを避けるのは、できるだけ近いガソリンスタンドで軽油を入れる必要がある。
というのも、地域によって扱っている軽油の種類が異なるためだ。
だから「冬場トラックに乗るときは、近場のスタンドで満タンにしてから移動して下さい」ということになるのだが……。
会社でトラックを管理している奴の言い分は違った。
給油は絶対に地元でやること。
もし移動先で給油するなら、距離数を計算して使い切る量を入れること。
入れすぎたら、その分を消費するまで走り続けること。
これを守らずにトラックが壊れたら、修理費を全額請求する。
ということを全従業員に伝えたのだ。
言っていることは正しいのかもしれない。だが、言い方が悪ければ当然反発が起こる。
特に問題視されたのは「修理費を全額請求する」の部分だ。
実際問題、ガソリンスタンドが扱っている軽油の種類を知る術はない。なぜならどのガソリンスタンドも、どの等級の軽油を扱っているのか公開していないからだ。
おそらく、売れ残りを危惧してのことだと思う。
夏場は1号を扱い、冬場は3号を扱う。ただ、万が一1号が売れ残ったとしたら。そして、それを公開したとしたら……。
冬の間軽油は売れなくなるだろう。
凍結の可能性がある軽油を、わざわざ買おうと思う人はいないはずだ。
だから、ガソリンスタンドでどの軽油を扱っているのかは、ものすごくわかりづらくなっている。
つまり、従業員がどんなに気を付けていても、寒冷地に適さない軽油を窮してしまうリスクがある、ということになる。
であれば、問題が起こったら修理費を請求する、というのは間違いでしかない。いや、むしろそんなことはできないはずだ。
それなのに!
わざわざ「修理費全額請求」を前面に出してきた。これはつまり、「お前ら、私の言うことを聞かないなら、どうなるかわかっているだろうな?」と、ヤンキー張りに脅しているのと同じことだ。
だから反発が起こる。
丁寧に説明すれば理解を得られることも、説明を省けば理解してもらえない。ましてや、脅すようなことを言えばなおさら理解を得られないのは、当たり前の話だ。
それなのに……。
面倒なのか何なのか知らないが、脅し文句を言うから面倒くらいことになる。
人を脅しても何の解決にもならない。それよりも、分かるように話をして、理解を求めたほうがよっぽど建設的だと思うのだが。
まぁ、脅して人を動かそうという奴は、その程度でしかない、ということ。ただ思うに……。
……脅してどうする。
(了)