「悪の花」ネタバレ感想③ このドラマのメッセージ
*この記事は韓国ドラマ「悪の花」についてネタバレしています。未見の方はここから先はお読みにならないことをお勧めします。ブルーレイは2021年12月3日に第1集が発売され、レンタルも開始します。第2集は12月24日発売です。https://www.cinemart.co.jp/dc/k/akunohana/
2022年12月追記: 2022年12月25日よりNetflixで配信が始まります。
【「悪の花」は全16話です。文中の話数はこのオリジナル版に準拠します。もっと細かく分けたりカットした配信や放映を見た方は、是非オリジナルの16話バージョンもご覧ください!】
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このドラマは犯罪加害者の家族の物語でもある。連続殺人犯を父に持つ子どもたち、サイコパスを子に持つ親。彼らはそれゆえに苦しみ、代償を払う。
少年時代のヒョンスは問題行動を起こすことがあった。児童相談所では専門家に統合失調症の疑いがあるとされる。彼はよく学校をさぼっては父・ト・ミンソクの工房で過ごしていたこともあって、父の事件発覚後、周囲の人たちが息子もいずれ同じようになるだろう、と言い出す。そして、彼自身もそれを信じるようになる。
しかし、「悪の花ネタバレ感想①」でも書いたように、彼は人を殺すことはできない。殺人に快楽を覚えるト・ミンソクの性質はヒョンスにもヘスにも遺伝していない。
ペク・ヒソンはどうだろう。父ペク・マヌは、第6話でヒョンスにパク・ギョンチュンの間接殺人を提案する。医師としてあるまじきことだが、院長に罪の意識はなさそうだ。だがそれはあくまでも保身のためであり、スポーツを楽しむように人を殺すサイコパスだからではない。
「サイコパスは遺伝するのか?」と、ムジンのオンライン記事に書き込んだ読者がいる。長年、ヒョンスを苦しめた問いだ。ジウォンもヨンジュ市の事件の捜査記録を読みながら、この問いを無邪気に夫に投げかける。
「悪の花」脚本家ユ・ジュンヒはこの作品のタイトルについて、「悪に満ちたところでも花は咲く」と述べた。彼女は次のように言いたいのではないか。「サイコパスは遺伝しない。少なくともこの作品の中では」
もうひとつ重要なメッセージはジウォンに託されている。
「殺人は、殺人でしかありません」
第15話の彼女の台詞だ。
大方の人はチャン・ミスク同様、あの状況でヒョンスがヒソンを殺しても仕方がない、と思うだろう。
でもジウォンは違う。
彼女の正義感の強さ、殺人を憎む強い気持ちは、第2話で老婆を殺害した犯人に対する毅然を通り越した強硬な態度からも明らかだ。
彼女の信念は同時にこの作品の核ともなっているように思える。
「素性を隠している夫と、刑事として夫を追う妻」という設定の下、殺人容疑で指名手配されているヒョンスが本当に殺人者なのか?という疑問は物語序盤の焦点となっている。第2話でヒョンス自身がムジンに、自治体長は「俺が殺した」と言うことから、「殺してはいるんだろうけど、正当防衛か何か事情があったのだろう」と思った視聴者は多かったに違いない(私もその一人)。後になって振り返って見ると、ヒョンスは、他の人には自分の無実を訴えることができても、姉をよく知るムジンにだけは偽り続けなければならなかったのだ、ということが分かる。
この辺り、本当によく練られたドラマだ。
もし、ヒョンスが十分に情状酌量となる状況で人を殺していたら、ジウォンはどうしただろうか、などと想像をめぐらせたこともあったけれど、彼女はその鋭い洞察力で、ヒョンスが人を殺せる人間ではないことを、本能的に察知しているように思える。第6話、地下室で血痕を見つけ、それまでの夫に対する信頼が根底から揺らいだときでさえ、辺りを見回し、歩行器に気づくことのできる強さが彼女にはある。あの場面のジウォンは、夫の無実を信じるために藁をも縋る思いだった、というより、目の前にある誰のものか分からない血痕と、自分もよく知る歩行器を見比べて、何を追求し、信じるべきか決断したのだと思う。殺人は裁かれなければならないし、誤った殺人の嫌疑は晴らされなければならない。真実を知るための道がどんなに困難であっても。ナム・ズンギルの妻にサイコパスについて、ト・ヒョンスについて語るジウォンは、そんな刑事の顔をしていた。
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