あおぞらの憂い8
おばさんが市内の病院へ移ったと母から聞いた。母はしばらくお店は開けられなさそうね。と言っていた。私はもうおばさんが戻ってこないかもしれない。仕事がなくなってしまうかもしれない。と思うととても憂鬱になった。しかし、キリがないことは考えない。彼女が生きている中で心得た教訓である。彼女は絵を描きためる期間ということにして、なにも考えなかった。そんな彼女を母親は放っておいてくれた。
彼女はその日も海へ自転車を走らせた。土曜日ではあったが少年と明日も来ようと約束したからだ。早めに着いたので防波堤に座っていると「マユさーん」と少年の声がした。振り返ると少年がよく一緒にいる女友達を2人つれていた。
「ごめんね、マユさん。どうしても会いたいって。」
「こんにちは。いつもソラがお世話になってます。私アミです。あとこの子はフウカです。」
「あの私たちお姉さんのこといつも可愛い〜って見てて。ソラが仲良しっていうからつい私たちもお話したくって!」
「そうなの、ありがとう。」と私はおどおどしながら答えた。彼女たちの能天気さを見るに、少年はあの男がここで死なないように見張っているということは言っていないのだろう。
それでもお喋りが大好きな女の子たちのおかげですぐに打ち解けることができた。そして学校の話、テストの話、恋愛の話。そんなふうに自然な流れでたくさん話していた。彼女はその中で自分の学生時代にアミとフウカとソラに出会えていたらどんなに学校が楽しかっただろうかと何度か思った。話すことを考えず、ただ話したいことを話して会話が成立するのだと彼女は初めてわかった。同時に、それがとても楽しいことであると、アミとフウカとソラのおかげで知ることができたのだった。
「マユさん、連絡先教えてください!またお話ししたいです〜」
「アミ、うるさいなあ」
「え〜いいじゃん、あ〜ソラ、まさかマユさんのこと好き?」
私はふと我に返った。中学生同士のそんなやり取りがキラキラしていて眩しかった。学生時代に感じたあの疎外感がフッと戻ってきたような気がして寂しくなった。
「じゃあそろそろ帰らなきゃ。またね。」というと私は初めて自分からその場を立ち去った。そして自転車を漕ぎながら溢れそうな涙を堪えた。アミとフウカはそんなマユの後ろ姿を憧れの眼差しで見つめていた。