過去の活動紹介)2021.7.13Ⅱ
「小ケース展示『彫塑の道具』」
2021年の長沼孝三彫塑館第1期収蔵品展では、長沼孝三が彫塑制作に用いた道具類を展示しました。
木べら、鉄ベラ、かきベラなど、制作では多種多様な道具を用いますが、それぞれの種類の中でもさらに多様な形状があり、まさに手指のように道具を細かく使い分けていたことが見て取れます。
本展では、山形県在住の彫刻家で中学校教諭をされている鈴木翔太さんにそれらの道具類を調査していただき、それぞれの特徴や実際の使用方法などについてお話を伺いました。展覧会は終了しましたが、この場でその内容をご紹介したいと思います。
【冒頭あいさつ】
彫塑館では長沼孝三が使用していた様々な道具類を保管しています。木ベラだけでも大小合わせて54本あり、ほか鉄ベラやかきベラといったヘラ類、のみ類、工具類、着彩に用いていた筆類など多種多様な用具を使い分けていたことがわかります。また、その状態や形の美しさから道具一つ一つを大切に扱っていたことがうかがえます。
今回は保管している道具の中から一部を抜粋しご紹介するとともに、人体塑像を専門に制作を続けてきた彫刻家の鈴木翔太さんに道具の種類や使用法についてのお話を伺いながら、彫刻家と道具の関係について想像を巡らせ、長沼芸術への理解を深めます。
【翔太さんコメント】
粘土造形では手や指と同じように道具もたくさん使います。締まりや張りのある造形を施す出す際は、道具を使って硬い指のような感覚で使用します。また身の回りにあるものを道具として活用することもあります。
今回は長沼孝三さんの多種多様な道具を見ていきながら、彫刻表現の技法や行程などについても考えたいと思います。
【木べら】
粘土を造形する際に使用する道具です。鉄ベラも使いやすいのですが、木ベラはナイフで削って、より自分の手に馴染むものを作ることもできます。これだけ多くの作品がある方なので、作品に応じて必要な道具を自分で作っていたのではないでしょうか。
一定量の粘土を取り除くときにはギザギザとした凹凸がついているものを使います。なにもないと滑りが悪く均一に取れません。
大きいヘラは大作を作るときに使用します。
全体を把握するために作品からある程度距離をとる必要があるので、離れて見ながらしるしをつけたりして使っていたのではないでしょうか。おそらく自分で切り込みを入れたりして自作したものだと思います。
木ベラの多くはツゲ(柘植)のようです。ツゲは水に強くて硬いので粘土造形に適しています。またスベスベして手触りが良く、昔からかんざしなどに使われています。
やはり道具も美しいですね。変わった形のヘラもありますが、この形が必要だったんでしょうね。
【鉄ベラ】
鉄ベラも木ベラと同じように粘土で造形する際に使用しますが、石膏での造形にも使用します。
粘土での造形が済んだら、そこに石膏を盛りつけて型を作ります。型から粘土を取り出してそこに石膏を流し込むと、粘土で作った形が石膏に置き換わります。そこに石膏を直付けして更に造形を施す際に、この金属ベラが使われます。
潰れたスプーンのようなものは、型を作る際に石膏を盛り付けるために使用するのです。長沼さんもまさに自分でスプーンを潰して使っているようですが、私も自分で作るのだと教わりました。最近はゴム製のヘラを使ったりもします。
【かきベラ】
石膏型から粘土を取り出す際に使用するヘラです。型が破損しないようこれを使って慎重に粘土を掻き出します。巻き方や柄を見ると自分で作ったものもあるようです。長いものは奥まった箇所に使用するために自作したものではないかと思います。太く大きなものは大作を作る際に使用します。もしかしたら特注で作ってもらったものかもしれません。
【針金】
この針金はエスキスの芯材に使用したか、型から粘土を取り出す際に開ける窓の補強に使用したのかもしれません。
【木槌】
様々な用途がありますが、粘土を芯棒に固定するためにも使用します。人体像などを作る際に、はじめに角材などで芯棒と呼ばれる骨組みを作り、その後で粘土をつけていくのですが、粘土を芯棒にしっかりとくっつけないと制作途中でズルっと落ちたりするので、木槌などで叩いて固く締めて定着させます。
【小刀】
石膏のようなものがついているので、ガシガシ削って石膏での造形に使用していたのだと思います。
【のみ類】
石膏を割り出したり、石膏での造形に使用したりもします。
彫塑の道具は今後も一部を常設いたしますので、ぜひ作品と一緒にご覧ください。