【まずはこちら】小日向台町小学校改築をめぐる問題について(12月12日時点)
この記事でご紹介すること
今、LINEオープンチャット「文京区議会を見守る会」で大きな議論になっている小日向台町小学校改築をめぐる問題は、「小日向台町小学校改築」という教育委員会(学務課)が所管する問題と、「財務省住宅跡地の活用」という区長部局(企画課、ならびに実務部分で介護保険課)が所管する問題とが密接に絡み合った問題です。そのため、途中からオープンチャットに参加された方にとっては、経緯や問題点、またこの先どのような解決策があるのかを見出すのが容易ではないと思われます。
この記事では、「この議論に興味を持った方が、これまでの経緯と問題点の概略をつかめること」を目的として、これまでオープンチャット上で共有された情報を整理していきます。
(それぞれの問題の詳細については別の記事に譲りたいと思いますが、わかりにくい点などがあれば、可能な限り改善していきたいと思いますのでコメントをお寄せいただけると幸いです。)
小日向台町小学校改築に関する問題
文京区では、小学校の改築に関して学校関係者、PTA、自治会等の関係者から構成される「改築基本構想検討委員会」を設置し、そこでの検討を踏まえて具体的な改築に向けた手続き(基本設計や実施設計にかかる委託事業者の公募等)が進められることになっています。
小日向台町小学校に関しては、令和3年11月に第1回「小日向台町小学校等改築基本構想検討委員会(以下、小学校改築検討委員会とします)」が開催されました(詳しくは、文京区のHPへ)。以降、7回の委員会開催を経て、令和5年3月には「文京区立小日向台町小学校等改築基本構想検討委員会 報告書」が公開されています。
※小学校「等」となっているのは、小学校と合わせて幼稚園(今後、認定こども園への移行を予定)や児童館、育成室も改築の対象となっているためです。
一見して問題ない手続きが行われているように思えますが、2023年11月17日に「小日向台町小学校の改築を考える会」から、この報告書で示された内容に対する異議とともに、学区内での改めての説明会開催を求める署名活動が公開されました。
この署名の中で挙げられている問題点は、以下の3つです。(以下、引用が続きます)
① 児童や地域住民の負担軽減および文化財保存の観点から、現行校舎の修繕案への方針転換や代替地活用の道を検討すること(=自校方式による新築校舎案ありきなのはなぜか)
区内の他の小学校の改築では通常、工期は3~4年と計画することが多い一方、小日向台町小学校は8年という異例の長期が設定されています。校庭に仮設校舎を建て、すぐ隣で解体・建設を順次繰り返す「自校方式」による新築校舎の建替え案に固執していることが、工期を8年もの長期にする主な要因の1つです。騒音や振動が鳴り響く環境で8年も学校生活、日常生活を送ることになれば、児童や地域住民の負担はあまりに大きいため、基本構想を抜本的に見直すことで工事の簡素化や工期短縮を図るべきと考えます。
(中略)
また、至近の財務省住宅跡地(7,182㎡)の活用(仮設校舎建設など)が従前より多方面から提言されていました。この財務省跡地をはじめとする代替用地の活用により工事の簡素化や工期短縮を図ることも検討するべきです。
② 工事期間中の児童や地域住民への影響を軽減するための具体的施策を立案すること
工期の長さに関わらず、児童の学校生活や地域住民の生活については一定の質を保つための方策の目処を立て、計画を進める必要がありますが、現状では一切の目処が立っていません。このままでは児童の学校生活や地位住民の生活を犠牲にして改築を進めることとなります。文京区は、前例主義や縦割主義にとらわれることなく、より柔軟で深い検討を行い、児童や地域住民への影響を軽減する具体的な施策を早急に立案するべきです。
③ 学区内地域で早急に公式説明会を開催すること
文京区は、改築計画の内容を「改築だより」の掲示、配布による事後説明のみで済まそうとしています。工事期間中は、子育て世代を中心に地域住民に極めて深刻な影響が予想されますが、文京区はこれまで小日向台町小学校の児童保護者や子育て世代、工事予定地の近隣住民に一切説明をすることのないまま報告書をまとめてしまいました。これを重く見た近隣12町会が、広く地域住民に対して説明会を実施することを連名にて文京区に要請していますが、それすらも文京区は頑なに拒否しています。文京区はこのような姿勢を改め、地域に対して広く開かれた公式説明会を開催するべきです。
検討委員会にはPTAや地域関係者も委員として参加している中で、なぜこのような深刻なミスコミュニケーションが生じているのかは、具体的な情報を得られておらずわかりません(今後情報があれば、追記したいと思います)。しかし、関係者の方々からこれだけの批判が出されるということは、事業を進める行政プロセスにおいて問題が全くなかったとは言えないように思います。
12月12日の現時点で、このオンライン署名のページで提出されている意見・要望について、区からは正式な回答がないようです。
自校方式を避けるため、財務省跡地を活用できないか
自校方式を採用すると、8年という長い期間、子どもたちや周辺の住民は騒音や振動等、工事に伴う影響を受けることになります。特に小日向台町小学校周辺は道路が狭く、道幅が4mに満たない道路も少なくありません。そうした環境下で工事車両が頻繁に、しかも8年間も通り続けるということは、小学校に通う子どもたちの学びの環境だけでなく、近隣に居住する住民の生活さえも脅かす可能性があります。
そうした中で、小学校改築検討委員会や地元町会が文京区に対して繰り返し検討を要望してきたのが、「財務省住宅跡地国家公務員小日向住宅跡地(小日向二丁目国有地)」への仮校舎建設の可能性についてでした。(以降、「財務省住宅跡地」と言います)
財務省住宅跡地とは
財務省住宅跡地は、下の地図からわかるように、東京メトロ江戸川橋駅至近にあり、その面積は約7,000㎡と都内の一等地としてとても希少な土地であることがわかると思います。
財務省住宅跡地は2015年2月に「処分予定国有財産」に指定され、以降国の方で土地の有効活用方策について検討が行われてきました。土地を直接所管しているのは財務省関東財務局です。
都心の一等地ならではの希少性から、この土地は2021年6月には国の留保財産(将来世代におけるニーズへの対応のため、留保財産として国が所有権を留保しつつ、地域・社会のニーズを踏まえ、定期借地権による貸付けを行う土地)に指定されています。
小日向台町小学校は、左側の地図中の「対象財産」の文字の右上あたりに立地しています。財務省住宅跡地は小学校から非常に近い場所にあります。
こうした国有地は、地元の地方公共団体や民間事業者に対するニーズ調査を踏まえて活用方針が定められることになっています。文京区は、2015年5月に「特別養護老人ホーム(特養)の開設」を用途として国に財務省住宅跡地活用の要望書を提出、国との協議を開始しました。
文京区が国に提出したのは「特養での活用」
文京区の特養を前提とした財務省住宅跡地の活用に対しては、地元町会や小学校改築検討委員会から度々異論・意見が提出されてきました。今回、オープンチャットの中で多くの方が問題だと感じているのは、これらの意見に対して文京区が真摯かつ適切な対応をとってきたとは、どうしても思えないことにあります。
なぜ文京区は特養を全体に土地の活用を進めているのか?12月8日(金)に、日本共産党文京区議会議員団が提出した見解の整理がわかりやすかったため、こちらでも引用したいと思います。(共産党文京区議会議員団には、小日向台町小学校区が地元の小林れいこ議員も所属しています)
国が「更なる有効活用」として「介護・保育施設以外の用途に活用できる定期借地権の範囲の拡大」を行っているにも関わらず、文京区は7,000㎡という広大な土地に、107名定員の特養と、それに併設する地域密着型サービス(認知症高齢者グループホームまたは看護小規模多機能型居宅介護事業者)、育成室を整備する以外に、区民に見える形での土地の活用方策の検討を行っていません。
財務省住宅跡地には一部崖面が含まれているため、恒久的な建物の建設に利用できるのは4,500㎡くらいとのことですが、他区で同様に活用予定の国有地と比べても、希少性の高い土地の有効活用として果たして十分なのかは疑問が残るところです。
関東財務局のホームページで公開されている情報をもとに、以下に他区の国有地の活用方針(一部)をまとめてみました。用途地域や容積率などの土地利用条件が異なるため、単純な比較はできませんが、同様に広大な敷地のある目黒区では公共性の高い二段階競争入札方式のもと、多岐にわたる機能の整備が進められています。
こうした土地の希少性を踏まえ、地元町会や小学校改築検討委員会では、「すでに国との間で合意のとれている特養他施設の整備と共存する形で、広大な土地の一部でも、喫緊の課題である小日向台町小学校の仮校舎に活用できないか」ということを、何度も文京区に対して投げかけてきました。
これらの投げかけを行っている方々も、介護需要がひっ迫するなか、特養の建設が重要な行政課題であることは認識しています。ただ、財務省住宅跡地の希少性、そして広大な面積を考えると、果たして107名定員の特養を中心とした土地活用が十分な検討内容と言えるのかは疑問が残るのです。
今、文京区が進めている手続きを大幅に遅らせることなく、介護需要と子どもたちの十分な教育環境、周辺住民の安全な居住環境を両立させる手立てはないのか?それが地元有志がずっと検討を要望してきたことでした。
しかし、文京区はそうした要望に対して、一貫して「国とのスキームを理由に、財務省住宅跡地を一定期間仮校舎に活用することはできない」という説明を繰り返してきました。
2022年11月22日の令和4年厚生委員会では、小林れいこ議員と文京区役所内で財務省住宅跡地の活用を所管している企画課の課長との間で、以下のような答弁が交わされています。(以下引用文の太字は、筆者によるものです)
国とのスキームにおいて、本当に仮校舎の利用はできないのか?
文京区は、これまでの国との協議において、国と民間事業者が直接定期借地権に関する契約を締結し、かつ、その民間事業者については文京区が行ったプロポーザルをもとに国が随意契約を行う「公共随意契約方式」を採用することとしてきました。
小日向台町町会など有志では、こうした国のスキームについても勉強を重ねてきました。国有地の活用方針を今から見直すことは難しい中、現状の国有地の活用方針を維持したまま仮校舎との共存を図れないかを模索する中で出てきたのが、「土地の定期借地権を持つ民間事業者から、文京区が一部土地の転貸を受け、その転貸の範囲内で仮校舎としての土地利用を行う」というものでした。
一方で、公共随意契約の場合は、財産の借主(=今回の場合は、特養等を建設・所有する民間事業者)が貸付財産を第三者に転貸することは”原則”できないと定められています。(詳しくは、財務省通達「定期借地権を設定した貸付けについて」令和元年9月20日理財第3207号)の7.に記載があります。)
文京区はこの理財第3207号の通達を根拠に、「今回は公共随意契約を採用しているので、民間事業者から土地の転貸を受けて仮校舎として土地を利用することはできない」ということを、地元町会や小学校改築検討委員会のメンバーに繰り返し説明してきました。
文京区がそのように説明している以上、現状の手続きを大きくひっくり返す以外に財務省住宅跡地の一部を仮校舎に利用することはできないのだ――それが、地元町会や小学校改築検討委員会の共通認識となっていました。当然、小学校改築検討委員会で策定された「小日向台町小学校等改築基本構想検討委員会報告書及び改築整備方針」においても、この認識を前提とした議論を経てとりまとめが行われています。
【11月24日】区民の関東財務局への問い合わせで発覚した、区の認識間違い
しかし、この認識は間違いであることが、2023年11月24日までに行われた区民から関東財務局の財務省跡地担当者への問い合わせによって発覚しました。
区民からの関東財務局への問い合わせの結果、「公共随意契約の場合であっても、財務省住宅跡地を特定の用途として利用する計画が先行していたとしても、その土地を国との協議により一定期間転貸することは可能である」ことが確認されたのです。
この問い合わせ結果について、小日向台町町会は11月22日および11月23日に小学校を管轄する学務課と特養を所管する介護保険課に問い合わせましたが、いずれも「この認識はなかった」と回答しています。それだけでなく、介護保険課の担当者はその場で関連法令を調べた結果、指摘の通り財務省住宅跡地を仮校舎として利用することが可能であることを認めました。
同時に関東財務局側には「文京区から転貸での活用可能性について確認があったか」について確認をしていますが、12月1日までにそうした確認が文京区からあった事実はないとの回答を得ています。
この問い合わせ結果をふまえて、小日向台町町会は11月27日付で成澤区長、学務課長、介護保険課長、企画課長に対して「小日向台町小学校の改築に関する意見および要望」を提出しました。町会としての問題意識、また要望が端的にまとめられた文書です。一部を引用します。
【12月1日】学務課・介護保険課・企画課との面会
12月1日には、小日向台町町会関係者と学務課・介護保険課・企画課との会合の場が持たれ、この文書での意見および要望に対する文京区としての回答を求めましたが、そこでも区側は「区からの問い合わせ範囲では、公共随意契約の場合に土地の転貸はできないという認識である」という説明を繰り返しました。
小学校改築を所管する学務課は、「財務省住宅跡地の活用を所管する企画課や介護保険課からボリュームチェックの結果、仮校舎の建設に使える土地はないということを聞いている」一方で、実際に仮校舎にどれくらいの面積が必要で本当に建設は不可能なのか、「具体的なシミュレーションはしていない」と明らかにしています。
詳細なやりとりは、こちらの会議録音の文字起こしにも記録として残しています。(区側の参加者にも了承を取った上で録音、作成したものです。)
【12月5日】文京区が改めての見解を公表
この間、オープンチャットでの情報提供等を通じて、一連の文京区の対応に疑問や不安を感じた区民が「区民の声」から意見を送りました。区民の声が多数届く事態を踏まえ、文京区は12月5日に「小日向台町小学校改築に係る小日向二丁目国有地の活用に関する区の見解について」という文書を公表しました。(リンクが時々変更されるようなので段落末にダウンロードしたPDFも添付します)
ただし、この見解においても、町会からの意見・要望や、面談の際に明らかにするように依頼した事項については回答がありません。回答がないばかりか、12月1日の時点まで区議会での答弁も含めて「国とのスキームを理由に不可能である」と説明を繰り返してきた「財務省住宅跡地の転貸」については、「制度的には国有地の用途として仮校舎を整備することは可能であると認識しております。」とこれまでの説明と180度異なる説明をしています。
より正確に言えば、文京区は以前から「制度的に財務省住宅跡地を仮校舎整備に使用することは不可能ではない」という認識を全くしていなかったわけではありません。ただそれは、そもそも国有地全体を仮校舎の整備等に使うことを前提にして国と協議を行った場合や、転貸のしばりの少ない二段階競争入札方式を導入した場合を想定しての文言であり、区民が度々要望を行ってきた「公共随意契約方式下、転貸により財務省住宅跡地の一部を仮校舎の整備に使う」可能性については、12月1日の面会の場で、企画課長自らが「できない」と明言しています。「公共随意契約において転貸ができるのであれば、関東財務局への問い合わせの結果明らかになっている根拠資料を、区民の側から示してほしい」という趣旨の発言すらありました。(それを調べるのは区役所職員の仕事だと思うのですが…)
12月1日の面会の際にも町会からは繰り返し「説明の根拠として考えているものを、書面で見せながら説明してほしい」ということを要望しましたが、文京区の判断の根拠や論拠についてはずっと明確な説明がありません。
このほかにも、12月5日の見解では「根拠を明確にしないまま区民の不安をあおることで、無理やりにでも特養建設を進めようとしているのではないか」と勘繰りたくなるような記載すらされています。
「⑧仮校舎への用途変更に伴う影響」として、「…受付期限のある国からの補助が受けられないなどにより、特養が建てられなくなる可能性もあるかと考えております。」という部分です。
この「国からの補助」というのは、国有地を特養などの一定の用途で利用する場合に、貸付期間の初日から10年間、借地料の50%減免を受けられるという制度を指したものと考えられます。
文京区介護保険課の「小日向二丁目国有地(国家公務員小日向住宅跡地)特別養護老人ホーム等の整備・運営事業者の公募について」で公開されている公募要項によると、この借地料の減免措置を受けるためには、事業者は令和8年3月31日までの間に国から事業者としての決定を受けることが必要とされています。また、公募要項の「公募・審査の流れ」によると、現状、事業者の決定は令和6年3月上旬が見込まれています。
つまり、令和8年3月31日の事業者決定期限と差し引きすると、2年以上の大幅な遅れが生じる場合は特養の建設に大きな影響を生じる可能性があると言えます。
一方で、区民側から繰り返し要望しているのは、「この事業者選定のスキームを崩すことなく(=手続き上の影響をできる限り少なくするために)、民間事業者からの土地の一部転貸を受けることで特養建設と仮校舎の利用を共存できないか」という提案です。
12月1日の面会時、小日向台町町会は「特養等の整備と仮校舎の整備を共存させる場合、特養の建設には具体的にどのような影響が見込まれるのか、影響を最小限にするためにどのような方策があり得るのかを検討してほしい」という要望を出していますが、この点についても、いまだ文京区からの回答はありません。
一連のやりとりを踏まえると、文京区は「一度進んでしまった手続きは止められないから」と既成事実をつくり、区民の公益を最大化する方策を考えることなく、なし崩し的に手続きを強行しようとしているようにしか見えません。
【12月12日】町会からの意見・質問にも明確な回答がない
12月5日に公開された見解に対して、小日向台町町会では再度文京区に対して問い合わせを行っています。しかし、12月12日時点で、追加の文書はおろか、これまでに提出している質問・要望に対しての明確な回答は得られていない状況です。
成澤区長に対しても面会を申し込みましたが、「この件では会わない」と、対話をすることも拒否されています。
文京区は、12月15日に特養等の整備・運営を行う事業者の選定を行うこととしています。ひとたび事業者が選定されてしまうと、選定後に土地の一部を転貸で利用するといった変更・交渉を行う余地がなくなってしまうと思われます。
区民に対して十分な説明を行わないまま、十分な検証を行わないままに、都心一等地の7,000㎡という貴重な土地の活用方法を決めていいのでしょうか。前提条件が正しく認識されないままに策定された基本構想・整備方針をもとに、8年という長きにわたる期間、2,000人近い子どもたちの教育環境と周辺住民の居住環境に大きな影響を及ぼす、現行の小日向台町小学校の改築を認めてしまってよいのでしょうか。
今日も、小日向台町町会のメンバーや、オープンチャット上でこの問題に関心を持つ区民の有志が不慣れな中、国や文京区の行政資料を調べながら、小日向台町小学校だけでなく文京区全体にとってよりよい方策がないものか検討と議論を重ねています。
事業者選定の期限が迫る中、区民一人ひとりの意見が非常に重要だと考えています。この問題に関心をお寄せいただいた方は、ぜひ署名へのご協力をお願いしたいと思います。