"DAU." 現代に再建されたソ連☭
映画史上最も狂った撮影と評されるプロジェクトが始動しています。
「DAU.」そのタイトルは1962年のノーベル賞を受賞したロシアの物理学者レフ・ランダウから取られたもので、第70回ベルリン映画祭において賛否の嵐を巻き起こしました。
ソ連全体主義を再現しようとする本プロジェクトは、莫大な費用と15年の歳月をかけて作られたもの。
12000平米の秘密研究都市を作り、役者たちは実際に約2年間をそこで生活。ソ連当時の服装や通貨を用い、毎日届く新聞も当時の日付という徹底した世界観の中、次第に役者はリアルにその秘密都市の住人へと変貌していきます。そういったリアルな環境を創り上げることで、真のソ連の姿を映し出そうとした映画は、主要キャスト400人、エキストラ1万人。その中には本物のノーベル賞受賞者や元ネオナチリーダー、元KGB職員も。壮大かつ狂気的なプロジェクト「DAU.」。
「DAU.ナターシャ」はこのシリーズの1作目。2019年1月にパリで初披露され大反響を呼んだ大作が、満を辞して日本の映画館にも登場しました。(2021年2月27日より順次上映)
↓ソ連カルチャーを扱うBUNKER TOKYOにも是非!ということでポスターやチラシが配給されました。
今回の映画の主役はナターシャという研究所の食堂で働く女性。
物語と呼ぶには平坦な、彼女の日常の風景が淡々と流れ続けます。歳下の同僚オーリャとの喧嘩、研究所の科学者たちとのパーティ、その中の1人外国人科学者リュックとの偶然のワンナイト、それを理由に行われるKGBからの尋問………。
映画には一切の音楽が付かず、キャストの声と生活音だけが聞こえてくるいわゆる映像。撮影環境も相まって生まれる迫力と緊張感は確かなもので、思わず実際の史実を見せられているかのように錯覚します。
エンドロールですら無音なのが個人的にあまりにも衝撃的で、映画を振り返りながら呆然としてしまいました。
尋問中の、周りの誰も信じられなくなるような感覚。また、尋問が終わった後のいつもの仲間との変わらぬやり取りに少し漂う違和感。あまりの不気味さに今まで観てきたどのホラー映画よりもある意味恐ろしい、まさに戦慄の内容でした。
今作はこの狂気的なプロジェクトのサワリ部分。IMDbによるとDAU.シリーズにはまだ10本以上の続編があることが判明しています。
公式サイトではそのうちのいくつかが1本3ドルでレンタル視聴が可能とのこと。
ソ連全体主義を再現したこのプロジェクトがどう広がっていくのか目が離せません。
また、ソ連体制を憎む本プロジェクトの監督イリヤ・フルジャノフスキー氏は「バビ・ヤールもグラーグも最近起こったこと。ポスト・ソヴィエト時代には犠牲者又は加害者、あるいはその両方がいない家族は存在せず、それこそがソヴィエトのトラウマ。ソヴィエトは記憶喪失という病を残し、これを克服しない限り、それは何度も繰り返される。」とコメント。バビ・ヤールの悲劇を忘れないために、それを記した博物館を作るプロジェクトも主体となって進めています。
旧ソ連国の料理がブームになっていたり、映画が続々とリリースしている今こそソ連を学び直す絶好の機会だと思います。
皆様もこの緊迫感のある映画を手始めに、ソ連を感じてみませんか?
Ryusei
DAU. ナターシャ
公式サイト
http://www.transformer.co.jp/m/dau/
Twitter
https://twitter.com/dau_movie?s=21
Instagram
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