⑩「かえりみちをつくる」について振り返る
日程:2021年3月20日
牛島光太郎さんによる展示「かえりみちをつくる」が終了し、早いもので数カ月が経ちます。今回は改めて展示について振り返りたいと思います。
牛島さんと企画について話した時にはすでにコロナ禍だったのですが、人が実際に会わないようなオンラインの展覧会ではなく、鑑賞者には実際に会場に行って作品を観てもらうということを話していました。
また、作品を見ている時間だけでなく、会場からの帰り道に心の変化のようなものが起こればいいな、ということで帰り道にフォーカスした展覧会にすることになりました。
牛島さんが過去を振り返った時に、展示を観ることは会場で作品を見るだけではなく、その道中でどんなことがあったか、どんな人が会場にいたのか、など作品以外の光景が頭に残っていることがあったそうです。
それぞれの展示会場の作品について振り返りたいと思います。
・三津浜アート蔵
過去に商店の商品を保管する目的で使用されていた蔵の1階と2階を使用し、展示をおこないました。1階中央には過去に商店で使用されていたものや、蔵の管理者から借りた絵や道具を配置し、それらに牛島さんがプラスチックを装飾した「外側のかたち」のシリーズの作品を展示しました。
1階奥の壁面には巨大なステンレスに物語をつづった言葉の作品を展示しました。これは牛島さんが蔵の管理者から聞いた話をもとにして作った物語です。2階には過去に牛島さんが創作してきた大量の「外側のかたち」のシリーズ作品を展示しました。さらに、1階の入り口付近では、帰り際に牛島さんからの手紙、温かい飲み物を鑑賞者に手渡しました。帰りながら飲み物を飲んだり、手紙を読んだりすることでこの展覧会が鑑賞者それぞれの中で出来上がっていったのでしょう。
・旧濱田医院
大正時代に建てられ、病院として使用されていた三津浜にある洋風建築の1階の1室を使用して、「外側のかたち」の初期シリーズ作品の展示をおこないました。
・松山アーバンデザインセンター もぶるラウンジ
松山市花園町にあるコミュニティスペースを使用して展示をおこないました。展示した作品は、「かえりみちをつくる」の展示前の大掃除の際に牛島さんが蔵で拾った石や枝やガラスなどにプラスチックを装飾した「外側のかたち」シリーズの作品です。コミュニティスペースを利用している市民が何気なく展示を目にすることができました。
また、会場でのアンケートには、様々な意見が寄せられました。
一部、抜粋してご紹介させていただきます。
・ことばをテーマにしながらも、作品のビジュアルだけでなく、室内の明るさ/暗さ、蔵ならではのひんやりした温度、二階に上がっている他の鑑賞者の足音、そしてコーヒーの香りなど、様々な要素が存在して、面白かった。
・三津の古い建物とアートがよくマッチして素敵な空間になっていました。たくさんの場所を使って、またこうした取り組みがあるといいな、と思います。
・コロナ以降 美術を観にくるのは始めてでした。小さな展示でしたが、家にいる時間が増えた今だからこそ特別に感じる、再発見的な空間で良かったです。
・古い蔵となった今、かつての持ち主の生活用品や絵画が正面に展示されていたことに感動しました。持ち主と共に息づいていた建物を、古くなっても、こうした企画で蘇らせたことで、当時の様子を創造できて楽しい一時でした。
コロナ禍になり、人混みを避けるために美術館に行かないようになった人もいれば、人となるべく直接会わないようにしたりと、これまでの生き方がひっくりかえるような事態になってしまいました。しかし、そんな状況でも感染予防をしながら、実際に会場へ赴いて作品を見ることで何かを発見したり、気づいたり、少し世の中の見方が変わるような体験ができるということを改めて感じることができました。
絵:しょうたろう
撮影:元屋地伸広、松宮俊文(松山ブンカ・ラボ ※紙コップと手紙を渡す写真のみ)
文章:松宮俊文(松山ブンカ・ラボ)
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