学術会議問題の焦点は軍事研究 芦名定道氏
日本基督教団京都教区は8日、京都市上京区の室町教会でオンライン併用のセミナーを開き、日本学術会議=用語解説=の会員候補で菅義偉首相に任命されなかった芦名定道・関西学院大学教授(神学・宗教哲学)が「現代史のなかの日本キリスト教―日本学術会議問題と憲法」と題して講演した。
セミナーは日本基督教団京都教区「教会と社会」特設委員会が企画。超宗派の約30人が聴講した。
菅首相は昨秋、学術会議が新会員候補として推薦した候補者105人のうち、芦名教授を含む6人を除外して任命した。任命拒否の理由は「人事に関すること」などとして説明していない。6人は安全保障法制や共謀罪の新設などに反対を表明しており、政権批判が影響したのではないかと報じられた。
こうした見方について、芦名教授は「当事者として、正確なところは分からない」とした上で、「問題の核心に届いているだろうか」と問題提起。「政権にとっては日本学術会議自体がターゲットであり、誰を任命拒否してもよかった。焦点は軍事研究だった」と持論を述べた。
背景として、日本学術会議が戦後、学者による戦争協力の反省に立って設立され、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」と繰り返し表明してきたことを挙げた。
一方で政府は、防衛技術に応用可能な基礎研究に資金を出す「安全保障技術研究推進制度」を2015年度に創設。芦名教授は「日本学術会議の動きが目障りになったのではないか」と指摘した。
今後、政府・与党が求める日本学術会議の改革が進んだ場合、芦名教授は「軍事研究反対の路線を貫けなくなる」との懸念を示した。また、任命拒否が過去の問題として扱われることを憂慮し、「国民の問題意識が高まるかどうかにかかっている。なるべく多くの人に現状を知ってほしい」と訴えた。
宗教の戦争協力問う
講演で芦名教授は、日本学術会議の任命拒否問題が「戦争協力」というキーワードで宗教にも関係すると考察。「どうしてキリスト教は戦争に反対できず、協力に至ったのか」という問いに通じると強調した。
芦名教授は、キリスト教の戦争協力の分岐点が1941(昭和16年)の日本基督教団設立にあり、これ以降、キリスト教は戦争協力の姿勢を明確にしたと説明した。一方で「この時点は戦争協力の『始まり』でなく、すでに反対できない時期にあった」と述べ、日清・日露戦争や明治政府の富国強兵政策までさかのぼって考える必要性を説いた。
さらに、キリシタン禁教を口実とした宗門改めと寺請制度=用語解説=にみられる江戸幕府の宗教政策が「日本人の宗教意識を否定した」と強調。これによって民衆の宗教的エネルギーが大幅に低下し、宗教が政権に逆らわず従順な姿勢を何百年も続けることになったとの見解を示した。
一連の歴史的な背景から、平和を守るためには「信仰の純粋さと戦略が必要になる」と語り、「信仰を豊かなものにすることと、教会と社会を結ぶことの両方が求められる」と語った。
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【用語解説】日本学術会議
1949(昭和24)年に設立された国の組織。人文・社会科学、生命科学、理学・工学などの研究者約87万人を代表し、政府への政策提言や国際活動などを行う。「特別の機関」として政府から独立して職務に当たり、「学者の国会」とも呼ばれる。優れた研究または業績のある科学者から会員210人が選ばれる。
【用語解説】寺請制度(てらうけせいど)
江戸幕府の宗教政策で、キリシタンなど禁制宗派の信者でないことを、寺院に証明させた制度。葬祭を通じて檀那寺(だんなでら)と檀家(だんか)の関係を固定する「寺檀制度」の確立につながった。
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