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コロナを越えて⑯経営、弥陀の手の内

株式会社カナザワコーポレーション社長 金澤隆章氏

※文化時報2021年5月31日号の掲載記事です。

 法要後の食事提供など法人向けのケータリングサービスを手掛ける株式会社カナザワコーポレーション(京都市南区)の創業者、金澤隆章社長(56)は昨年7月、西山浄土宗総本山光明寺で得度した。自立心旺盛な半生を歩んできたが、さまざまな経験を積んで意識が変わった。今では「阿弥陀様の手の内で生かされ、会社経営を行っている。何をさせてもらえばいいのか、日々考えている」と語る。(大橋学修)

営業成績トップを捨てる

 《学生時代は2部に通い、東洋紡エンジニアリングで就労。24歳の時、友人とカナザワコーポレーションを創業した》

――大学に通っていた時は、どのように過ごしていたのですか。

 「家電の製造や漬物店のアルバイトなど、いろいろな仕事をしていた。ビデオカセットテープの製造工場ではライン責任者を任され、それなりに金を持っていた。相場師になることを目指し、ためた金で三重県に土地を買ったり、株式を購入したりした。ただ、絶対に安全だと思っていた株式が暴落。全て失った。相場師は向いていないと思った」

――東洋紡に勤めることになった理由は。

 「以前からやりたいと考えていた営業職を探して、ようやく雇用してもらえたのが、東洋紡エンジニアリングの科学機器事業部だった。カタログを持って飛び込み営業を行い、受注を伸ばすことが楽しかった。付き合いのない会社に半年間通い詰め、初めて得た受注はタオルだったが、その後に取引が大きくなった」

 「年間の売り上げが1億円を超え、営業所でトップの成績になった。自由に行動できるようになったが、受注に伴う業務や新規獲得の企画提案を作っていたので、毎日が忙しかった。よく、営業車を止めて長々と休憩している光景を見かけるが、私としては首を傾げざるを得ない」

――順風満帆の中で退職し、起業されました。契機は何だったのですか。

 「事業を起こすことが高校生の時からの目標だった。ビジネス雑誌『BIG tomorrow(ビッグ トゥモロー)』を欠かさず読んでいたぐらい。深夜にファミリーレストランで、よく友人たちとビジネスプランを青臭く語り合った。それが会社設立につながった」

 「東洋紡に出入りしていた会社の従業員で、師匠と仰いでいた人から『大学を卒業しても辞めるな。せめて1年は奉公しろ。他社から引き抜きの話が3回来るまで動くな』と言われていた。3社目からオファーが来た時、これでお許しが出たと考えた」

生かされる自分自身

――得度することになった経緯を教えてください。
 
「総本山光明寺の秋の特別拝観で、1996(平成8)年に土産物の販売などを認められた。以来、交流を続けており、『得度してみるか』と声を掛けられていた。堀本賢順法主が今年7月に任期満了で退任されるため、得度式の導師をされるのが昨年で最後になると聞いていた。これを逃してはならないと決心した」

 「得度式は簡単な式典だと聞いていたが、いざ臨んでみると、とにかく緊張した。蒸し暑い中、初めて身に着ける白衣と僧衣が汗でまとわり付き、身動きの取りづらい状況で何度も礼拝した。作法を正しく行うことに心を奪われ、何も考えられなかった」

2021-05-31 経済面・金澤隆章氏(カナザワコーポレーション代表)02

得度式の様子を説明する金澤社長

――得度前に信仰心が芽生える経験があったのですか。

 「手を合わせることは、当たり前のこと。あえて言うなら、物心ついた時には信仰心を持っていた。昔ながらの感覚なら、普通だろう。祖母が熱心に信仰していたことが影響しているのかもしれない」

 「何か偉大なものの中で生かされているという感覚になったのは、2004年12月に脳出血で倒れたことがきっかけだった」

――入院中、何を感じましたか。

 「脳血管障害を負った患者を受け入れる専用の急性期病床で、1週間にわたって管につながれた後、リハビリを経て、49日間で退院した」

 「自分ではどうにもならない不本意な状態だった。トイレに行こうにも、パッと立ち上がれず、思うように前へ進めない。年寄りの気持ちが本当によく分かった。気付けたのは病気のおかげで、感謝している」

 「そして、一度失ったはずの命。生かされているのだから、やるべきことをやろうと考えた。取引先にとって耳に痛いことでも、相手のプラスになるのであれば、伝えるようになった」

見えないものを見る

――生かされているという感覚を、どのように会社経営に生かしているのですか。

 「料理長を任せるようになった息子には『見えているものを見るのではなく、見えないものを見てくれ』といつも言っている。お天道様に見られて、恥ずかしくない仕事をしていることが大切。近江商人は、売り手、買い手、世間が満足する『三方よし』を唱えるが、私は、お天道様を含めた『四方よし』だと思っている」

 「それに、仕事はご縁があってのものと考えている。互いに分かり合える関係性の中で仕事をさせていただき、ご飯を食べさせていただく。仏様からの預かりものだと思う」

 「利益を度外視するわけにはいかないが、自分の良心に従わなければならない。得度する際に師匠になってくださった方は、自分の中に仏があると言われる。心をどのチャンネルに合わせるかが重要だ」

――新型コロナウイルス対策で、政府や行政への不満が高まっています。

 「ぜいたくを言ってはいけない。戦争を知っている人からは『靴を履いているじゃないか。爆弾が降っていないじゃないか』と言われる。ご飯を食べられることは、決して当たり前ではない。平和に過ごせることを感謝しなければならない」

 「ものづくりは利益が大切。炊飯釜の周りに張り付いた米を丁寧に集めれば、茶碗一杯の飯になる。捨てるものがお金になるということ。『天知る、地知る』ではないが、心あるお客さまは理解してくださる。プライドをもって努力しなければならない」

 「弊社も新型コロナの影響で、売上高が10分の1に減少した。自社用に買い入れていた衛生用品の卸売りも行うようにした。お客さまも『どうせ買うならカナザワコーポレーションで買ってあげよう』と考えてくださる。与えられたことの中で、何ができるのかを考えなければならない」

2021-05-31 経済面・金澤隆章氏(カナザワコーポレーション代表)01

 金澤隆章(かなざわ・たかあき) 1965(昭和40)年2月生まれ。京都市出身。立命館大学2部経営学部企業会計コースに在学しながら、中華レストランの調理場や日立マクセル株式会社(現マクセル株式会社)の工場などで就労。大学3年生の時に、東洋紡エンジニアリング株式会社に転職。89(平成元)年9月に株式会社カナザワコーポレーションを設立した。コロナ下で業績が低迷する中、こだわり素材を用いた「京都の生ぷりん調進所」などのスイーツブランドを打ち出している。
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