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コロナを越えて⑳財産は人 互助が大切
ギャラリー喫茶「好文舎」経営 宇野貴佳氏
※文化時報2021年11月1日号の掲載記事です。
京町家を活用したギャラリー喫茶「好文舎」(京都市上京区)を経営する宇野貴佳氏(43)は、浄土宗金剛寺(中村徹信住職、京都市東山区)の「おてらカフェ」を企画した。視覚障害者の支援を目指した活動は交流の場づくりへと変化し、今では新型コロナウイルス感染拡大で疲れた人々の心を癒やそうとしている。「互いに手を差し伸べ合うことの大切さに気付く機会になった」と、コロナ禍を前向きに捉えている。(大橋学修)
交付金に甘えた経営
《2015年9月に「おてらカフェin金剛寺」を始めた。当初は参拝者が視覚障害者の指圧を受け、コーヒーを飲みながらくつろげる場を目指していた》
――金剛寺とは、どのような経緯でつながったのですか。
「当時は視覚障害者を雇用したマッサージ店を京都市中京区で運営していた。お寺の温かい雰囲気で指圧を受けてもらえばもっと安らげると思い、灸(やいと)で有名な大阪市天王寺区の無量寺のように、地域おこしにつなげられないかと考えた」
「一般社団法人未来の住職塾に問い合わせ、京都市内の寺院に声を掛けてもらったところ、金剛寺の中村住職が手を挙げてくださった。お寺を交流の場にしたいという中村住職の思いがあったからこそ実現した」
――結果的に、お寺での指圧を断念されました。
「地域活動を支援する京都市の交付金を受けていたが、期間は3年間で、その後は視覚障害者の報酬を確保するのが難しくなった。交付金に甘えた経営をしていたという反省がある。今は、経営するギャラリー喫茶『好文舎』で、指圧を提供している」
――「おてらカフェ」も活動内容を変えました。
「お勤めの後に法話を聞き、懇談している。お寺でしかできない体験と、住職と話せる機会をつくるようにした。私にとっても、心をリセットし、毎日のリズムを整えるのに役立っていると感じる」
「コロナ禍では特に、悩みや孤独を抱える人が参加していると感じている。困り事の具体的な問題解決だけでなく、直接解決しなくても、それぞれの悩みやつらさに対して、皆で手を差し伸べ合って生きていくことが大切なのだと思う」
おてらカフェでコーヒーを入れる宇野氏(右から2人目)
ソーシャルビジネスを模索
《大学卒業後、京都の老舗呉服店に就職し、外商として全国を飛び回っていたが、10年余りで退職。視覚障害者を対象とした授産施設の支援員になった》
――退職された理由は何だったのですか。
「外商が嫌になった。反物を手にして高齢者宅を巡り、お茶を飲んで帰ることばかり繰り返していた。お客さまは、私と話すのを楽しみにして、時間を空けて待っていてくれる。そして、必要ない商品を義理で買ってくれる。心苦しくて、こんなことは続けられないと思った」
「妻の収入で生活が成り立つことに気付き、いったん専業主夫になった。妻は何も言わなかったが、後になってよそで怒りをぶちまけていたと聞いた。それで授産施設の支援員として再就職した」
――マッサージ店を開いたのはなぜですか。
「授産施設で指圧を行う視覚障害者と出会ったから。社会的な課題を解決しながら収益を上げるソーシャルビジネスに取り組むことで、視覚障害者の収入を確保しようと思った。最初は、企業の福利厚生として指圧師を派遣するビジネスモデルを模索したが、ニーズがなかったので店舗型で始めた」
《18年12月にマッサージ店を閉め、ギャラリー喫茶「好文舎」を開いた》
――ギャラリー喫茶は、どのような目的で始めたのですか。
「ソーシャルビジネスに本腰を入れることが念頭にあった。ギャラリー喫茶なら、地域の魅力を高められる。店が立地する京都御苑の西側は、文化的なエリア。呉服店で培った人脈を生かしながら、さまざまな作家の個展を催すとともに、ヨガや生け花などの体験教室も開いている。静かにお茶を飲んだり、交流したりできるスペースにした」
「『お金をもうけたい』という意識では取り組んでいない。利益を出そうと短距離で走るのではなく、マラソンのようにじわじわと持続させたい。大切なのは、人と人のつながり。私自身は何の技術もないが、プロフェッショナルの方々に助けていただいている」
弱者にこそ光届ける
――新型コロナの影響はどうですか。
「人を集める体験教室はやりにくくなった。指圧は予約制で、来店時のみ視覚障害者を招いているが、予約は少なくなった」
「最もしわ寄せがあったのは、社会的弱者。コロナ禍が、社会的弱者の存在を浮かび上がらせたともいえる。そうした方々にこそ、光が届くべきだ。仏教にはそのような考え方があると思う。誰もが大なり小なり苦を受けたのだから、助け合う気持ちが芽生えればと思う」
――お寺に対しては、どのようなイメージを持っていますか。
「妻の親戚に僧侶が多く、結婚式を仏前で挙げるなど、仏教に元々、親近感があった。お寺は、地域の人々が縁側で語り合って安心できる場だと思っている」
――宇野さん自身が現在、感じていることは。
「幸せなことをさせていただいている。世間には、資産や地位で優位に立とうとする傾向もあるが、そういうことには興味が持てない。衣食住が足りて、好きなことができる。そこに充足感がある」
「賛同してくれる仲間がいて、人とのつながりがあり、支え合うことができる。お寺の住職に頼むこともできる。自分がもうけようとしなかったから、『皆でがんばろう』と言える仲間ができたのかもしれない。そういう意味で、財産は人なのかもしれない」
宇野貴佳(うの・たかよし) 1978(昭和53)年5月、京都府亀岡市生まれ。立命館大学政策科学部卒。約450年の歴史を持つ京都の呉服店に就職し、10年余り勤めた後に転職。社会福祉法人みやこ(京都市右京区)の支援員として活動した後、視覚障害者が指圧するマッサージ店の経営を経て、2018年12月にギャラリー喫茶「好文舎」を開いた。
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