「文化遺産マネジメントラボ」を設立した訳
公務員としての半分以上を、文化財保護行政、文化振興行政に携わってきました。主な仕事としては、文化財の維持・管理、各種調査、計画づくり、新たな指定や活用のための取り組み、さらには市民参加のサポート、文化活動の支援など。行政マンとして文化遺産を通じて市民の文化的生活の向上のために努め、概ね市民からは支持を得られていたように思っています。
また、全国には同じように頑張っている仲間がいました。彼らと会って成果を報告し合い、互いに励ましあうことで、次の仕事へのさらなる意欲が掻き立てられてきました。その一方で、文化財の世界ではよそ者(学芸員ではない)であったことから、私が取り組んできたことに批判的な人たちがいたことも事実です。
家庭的な事情もあって50歳を前に退職し、資格(社会保険労務士)を活かして生きていこうと考えていたところ、文化庁からは全国の文化財担当者向けの計画づくりの講師として、また遺跡学会からは、文化財保護行政の課題について講義するようにとの依頼が入ってきました。
その後も全国各地から計画づくりのための市民向けのセミナー講師、保存・活用のための専門員会の委員への就任依頼などもあって、何も肩書きがないというわけにもいかず、「文化遺産マネジメントラボ」としてサイドビジネスを始めることとしました。
行政の業務において、文化財保護行政は特異な分野であるといっていいと思います。住民票の発行や福祉サービス、税金に賦課などはすべての市民に公平になくてはなりません。しかし、文化財保護行政は指定された文化財を現状変更許可により守ること、開発行為における発掘調査など、限られたものだけを対象としています。指定された対象以外は保護の対象とならないため、仮に価値があるものが失われたところで責任を負うことはないのです。逆に指定を増やせば自分の首を絞めることになるので、指定が積極的に行われることはほとんどないのが実情でしょう。文化財担当者に埋蔵の専門家が多いのは、戦後の開発計画によって発掘調査をする必要が増えたからに他なりません。
文化遺産のマネジメントとは、行政担当者として、法律や制度をしっかりと熟知し、事務を的確にこなし、計画に基づいて保存・修理、整備、活用、維持・管理を図り、文化財を学校教育や社会教育、観光、地域づくりへとそれを活かしていく手法を意味しています。担当者のみなさんはそうした考え方を身につける必要があるとの考えは、現役中にある同僚との日々の話し合いの中で温められていきました。その同僚はその後文化庁の調査官へと転身し、文化財のマネジメントの必要性について報告書にまとめました。私はアドバイザーとして民間でマネジメントの必要性を説く立場になったのです。
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