文化財を守り、活かすマネージャーに求められるもの(2/4)
3.マネージャーの役割
(1)「保存」のための取り組み
文化財を維持・管理するとは、日々の点検、清掃、除草、法定点検、災害時における確認や報告など文化財を維持していく活動のことです。文化財の基本は「現状変更」や「き損」であり、それらの意味や手続き方法を十分に知らないと、良かれと思って勝手に木を切ったり、小修繕などを行ったりしてお叱りを受けるケースが起こったりします。
また、建物や史跡等の整備が行われ、最初は適切に維持・管理が行われていたものの、徐々におろそかになり、その後放置されたままという建物や遺跡などが少なからずあります。多額の費用を投じて整備されたのにもかかわらず、整備したことに満足してその後の維持管理を怠っていては文化財の価値を失い、また数年後に修理が必要になってしまいます。将来に継承するということは、文化財の本質的価値をいかにキープしていくかということです。日々決められたチェックを確実に行うことで、少しの変化も見逃さないという意識が重要になります。
文化財を適切に維持・管理するためには、それに必要な予算を確保しなければなりません。しかし現実は「文化財は維持さえできていれば良い」との思いから、多くの文化財において”必要最小限”の費用、つまり受付の人件費、パンフレットの印刷費、修繕費、水光熱費、通信料、法定の点検費、自治会費など固定的な経費しか予算化されていません。指定文化財には交付税措置があり、毎年地方自治体に公布されていますが、それさえも知らないという文化財担当者もいます。
また、将来の修理に備えた費用を積み立てるというのも、予算を確保することにおいて大切なことです。文化財の数は増えることはあっても減ることはありません。国や県の補助金はある程度総額が決まっていますので、それを各自治体で分け合う訳ですが、近年申請件数が多くなかなか予定通りに交付決定を得られないのが実情のようです。今後さらに文化財が増え続けていくと、すべての文化財に公平に補助金を公布できなくなるという状態になるのは必然であると思われます。そのためにも活用を図って自己収入を増やしていかなくてはなりません。
自己収入の中心となるのは、文化財を最低限維持するための安定的な経費です。それを確保する3つの方法があります。
ひとつめは行政や観光協会などからの補助金や交付金など安定的な経費をいただくことです。地域によっては文化財が地域の主要な観光資源となっており、地域を潤す核になっている場合は当然といえば当然です。
次に、支援していただくファンを増やすことです。個人や民間を対象に会員になってもらい、会費を安定的に徴収して維持・管理の経費の一部に充てることができます。施設を維持するための経費なので賛同が得られやすく、年に一度は招待し、リピーター客として新たな客さんを連れてきてくれるようになります。
そして三つ目に来館者を増やすということです。しかし、すでに認知された文化財を”利用”し、単独で企画展やイベントを実施しても効果は限定的です。活用については次のところでお話しますのでここでは省略しますが、”活用”は”利用”とは違います。”活用”は文化財の本質的価値を伝えるための取り組みです。それこそが文化財を適切に維持・管理することが重要であることの意味なのです。
(2)「活用」のための取り組み
マネージャーは「保存」のための取り組みを前提として、文化財を”活用”して積極的に自己収入を増やす取り組みを行う必要があります。また、公的資金が投入される以上は、それを「地域へ還元」していくための取り組みを推進しなくてはなりません。単に施設を公開し、展示したものを見てもらうだけでは入館料以上の収入を得ることはできません。
”活用”のための取り組みとしては情報発信事業、人材育成事業、普及啓発事業があります。情報発信事業は、文化財を様々なコンテンツを活用して広く知ってもらうための事業。人材育成事業は、ガイドや文化財を守るための人材を育成するための事業。普及啓発事業は、企画展示や講演会等の開催、体験プランの造成、学習教材の作成など文化財の価値を学んでもらうための事業。
先ほど紹介した自己収入を増やすための取り組みのうち、利用者を増やすための取り組みとしては、これら3つの事業を駆使し、旅行業者と連携して新たな旅行プランを造成するとか、専門の先生に協力してもらい体験プログラムを構築するとか、オリジナルグッズを製作し、販売することなどが考えられます。取り組みの成果いかんによっては視察や研修など受け入れることも可能で、それらを有料化することも方法の一つです。
それぞれの具体的な方法については長くなるので別の機会にお話したいと思いますが、大切なことは、いずれも幅広い世代に対して、文化財の価値を幅広い年代に理解してもらうための取り組みでなければならないということです。もちろん、それぞれの事業をマネージャー一人でこなすことは困難ですので、そこで具体的な計画づくり、そして体制づくりが求められます。
(3)計画づくり、体制づくり
マネージャーが最初にやるべきことは、活用のための事業計画づくりですが、できたら商工会などの経営セミナーを受けてつくることをお勧めします。計画づくりにおいては、先ほどの3つの事業を具体化するため、関係者、関係団体と連携して実効性のある計画にしなければなりません。役所的な計画は必ず失敗します。また、文化財の維持・管理のためには少なからず公的資金、つまり税金が投入されています。単に自己の収益をあげるためだけの事業では地域から理解を得ることはできません。文化財が地域の歴史や暮らしを語る上でかかせない存在となるためには、地域の人々と積極的に関わり、連携するとともに、学校教育や社会教育のための研修施設として利用される取り組みが必要になるのです。マネージャーは地域の事をよく理解した上で、計画づくりを進める必要があります。
より明確なプランがなければ人材の募集もできません。どんな事業に取り組むのかあいまいなままで人を採用すると、活用の取り組みは失敗に終わります。適当な人材がいなかったけれど、とりあえず人が必要なので仕方なく採用するということは避けなければなりません。もちろんどんな人でもうまく活かせば、すばらしい能力を発揮することもありますが、そこはマネージャーの人材活用能力にもよります。筆者の経験からすると、施設の規模にもよりますが、一つの文化財を活用するには最低でも5人は必要になります。 (3/4へ続く)
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