文化財を守り、活かすマネージャーに求められるもの(4/4)
5.マネージャーに必要な3つの要素
最後に、文化財の活用を推進する理想のマネージャーになるために必要な3つのことについて書いてみたいと思います。その3つとは「学ぶ」「考える」「生かす」です。
一つ目は「学ぶ」です。筆者は文化財の専門家ではありませんでしたが、調査や指定、整備、その後の活用について積極的に取り組み、そして結果をだしてきました。その過程において文化財について学び、他の事例を大いに参考にしました。もちろん文化財について専門的な知識を持っていればいうことはありませんが、それがかえって仇になる場合もあります。大事なことは、知識や経験がなければ自ら学ぶということです。
次は「考える」です。かつて行政で仕事をしていたときに、ある方から「あなたたちは頭が痛くなるまで考えてきたのか」と言われました。それをきっかけとして、課題を徹底的に洗い出し、その解決策について考えました。考えるといっても何もなければ考えられないので他の報告書や書籍を読みあさりました。考えたことは、その根拠となるデータや資料とともに企画書、計画書としてまとめ、上司や国、県への説明資料として活用することができました。
三つ目は、「やり抜く」ということです。考え、学び、そして着手したことはコツコツと継続して最後までやり抜くことが大切です。そうした取り組み姿勢を市民をはじめ、国や県の担当者は見ています。注意しなければならないのは、実際に動くのは自分ではなく組織のスタッフたちです。マネージャーはマネージャーとしての役割、つまり計画をつくり、そして組織を十分に機能させることに集中しなければなりません。
6.まとめ
文化財は過去から現在に伝えられ、そして未来へと伝えていかなくてはなりません。現在を生きる我々には、文化財の価値を守るとともに、次世代に確実に伝えていくという責任があるのです。また、指定されている文化財だけを守っていけばいい、というわけでは決してありません。時代によって文化財制度は変わり、保存対象も変化していきますので、未指定文化財についても総合的に把握し、あらゆる可能性に対応できるよう常に意識を持つ必要があります。
また少子高齢化、地球の温暖化等により文化財を守る環境も刻々と変化してゆきますし、インバウンド需要などにより文化財に対する社会的ニーズも変化します。そうした変化に適切に対応していかなければ文化財を適切に守っていくことはできません。
マネージャーは、文化財の専門家だからとか、社会経験があるからというだけで務まるものではありません。自分の専門分野のことしか対応できないとか、与えられた課題をこなすことだけに意識が向けられていると、文化財の本質的な価値を伝えるどころか失うことになりかねません。
幸か不幸か、もしあなたが文化財を保存・活用する責任者、すなわちマネージャになったら、常に関係者および有識者と課題を共有し、それを解決していく方法を模索し、行動し続けることに意識を集中することをお勧めします。
(おわり)
参考文献
・牧瀬実『地域づくりのヒント』2021 社会情報大学院大学出版部
・アンジェラ・ダックワース『やり抜く力-人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』2016 ダイヤモンド社
・岡田庄生『お客様を買う気にさせる「価値」の見つけ方』2015 中経出版
・P.Fドラッカー『【エッセンシャル版】マネジメントー基本と原則』2001 ダイヤモンド社
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