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ITS Contest 2023/24 ITS Arcademy Award 佐藤百華

今年、欧州最大級のファッションコンテスト「ITS Contest 2023/24」のグランプリ(ITS Arcademy Award)に輝いたのは、文化服装学院ファッション高度専門士科卒業生の佐藤百華さん。65カ国782名の応募者から選ばれた16名のファイナリストたちが参加した最終審査会と研修、応募したコレクション、留学についてなど、インスピレーションに満ちたストーリーをお話いただきました。

ーグランプリ(ITS Arcademy Award)受賞おめでとうございます。今回のITSへの応募は佐藤さんにとって、どういうタイミングだったのでしょうか? 文化服装学院の同級生とブランドEUCHRONIA(ユークロニア)も始めていましたよね。

本当はもっと前に出したかったのですが、3年くらいの紆余曲折を経て、ようやく完成したコレクションでした。イギリスへ留学中、ちょうどコロナの時期とかぶってしまって、卒業制作の発表の機会もなく日本に帰国し、不完全燃焼のままずっと放置していたんです。祖母が亡くなったことをきっかけに、留学していた時から調べていた修道女の装いや生活と、祖母の死の衝撃を混ぜて、ようやく自分のコレクションを作り終えることができたという感じです。始めたばかりのブランドの認知度を上げることも、参加した理由のひとつでした。

ー「Utopia on The Mountain Top(山頂郷)」がテーマとのことですが、コレクションについて詳しく教えてください。

佐藤さんのポートフォリオから

私の今回のコレクションでは、祖母の死をきっかけに、茶道の先生をしていた祖母の生活や、日本文化、歴史を調べていきました。また自分がもともと好きで調べていたレースや、修道女の装い、言葉、キリスト教徒の厳粛な生活と繋がることがあって、それがデザインに足される要素にもなりました。7日ごとに試練があるという四十九日(しじゅうくにち)の旅路を、祖母が幸せに過ごせるように装って欲しいとデザインしたコレクションです。

佐藤さんのポートフォリオから

私は、好きなものをコラージュして新しい世界観を作るのが好きです。好きなもの、好きだったものをリストアップして、マインドマップを書いて視覚化することで、自分が気になっているものが情報として分かってきます。点でしかなかったことが、繋がる瞬間があって、さらに新しい知識や言葉を調べていった先にストーリーやインスピレーションが生まれるんです。

リサーチブックから抜粋、編集してポートフォリオに仕上げる。デザイン発展段階のプロセスが見えるように。

ーご自身では何が評価されたと思いますか? 

私なりのサステナブルの昇華の仕方ではないかと思います。日本でも「サステナブル」という言葉はよく耳にする一方、価格の面でまだ消費者に受け入れられづらかったりと壁があります。海外では、LVMHプライズのファイナリストのような新進デザイナーたちも必ずサステナブルを謳っていて、そのうえでどういうクリエイションをするかということをやっている。

今回私のコレクションでは、祖母の使っていた布団の綿(わた)をフェルトにして作品を作ったりだとか、祖母の着ていた着物を裂いてレースに仕立て直したりということをやっていて、伝統文化を継承し、未来へと繋げることもサステナビリティのひとつの形だと考えています。また、ポートフォリオプレゼンテーションの完成度、感情を動かすようなストーリー性、ポエティックさのあるコレクションを評価していただきました。

人生ゲームのようなデザインの箱に入ったポートフォリオ

ただ、ITSが求めているモノづくりと私のモノづくりがたまたま合致しただけであって、グランプリを獲ったことが、他のファイナリストよりも秀でているというわけではないと思っています。他のファイナリストも自分が今まで触れてきたものと全く違う作品を作っていて、すごい人もいると知ることができたので、もっと頑張らなきゃと思いました。

ー今回、新たな試みとして、審査会や表彰式とは別に、ITSレジデンシーアワード(ITS Residency Award)という5日間の研修があったそうですね。

研修の内容自体もすごく充実していましたが、一番は、ファイナリスト同士の関係を築いて欲しいというのが目的にあったようです。ITS創設者のバーバラ自身のキャリアも決して平坦ではなく、資金不足などの困難がある中で、20年以上コンテストの運営を続けてこられたのは、同じように頑張っている仲間のおかげだと。同じようにデザイナーたちも横のつながりをつくる必要があると言っていて。16人のファイナリストたちが少しでも長い期間を共に過ごすことで、深い関係性を築くことができる環境を作ってくれました。

食事もみんなで一緒に

泊まるお部屋も、シングルベッドがくっついているような相部屋で、初めましての人と朝から寝る前まで隣にいるし、色んな事の違いを実感できたのが、個人的にはよかったなと思います。特に印象的だったのは、ヨーロッパの人たちの考えるキャリアの積み重ね方。20代後半まで学生生活を送ったり、卒業後にすぐ就職ではなくインターンを経てからキャリアをスタートしたり、自分のやりたいことに対する向き合い方が違うと感じました。

ー研修内容もとても興味深いです。どんなことをしたのか、印象的だったエピソードを教えてください。

1日目は、バレンシアガのアーティスティック・ディレクター、デムナによるオンライン講義がありました。彼もITSの過去のファイナリストです。私からすれば彼は常に第一線で活躍している成功したデザイナーに見えますが、下積み時代や大変な時期もあって、ここまで来るのにすごく時間がかかったということ、続けなくてはできないことだということだというのを聞いて、モチベーションが上がりました。また、若いデザイナーに求めているのは、「分かりやすい強みのある人」だという言葉が印象的でした。

2023年にトリエステにオープンしたファッションミュージアム「ITS Arcademy」。これまでのITSのファイナリストの作品やポートフォリオがテーマに合わせて展示されている。

2日目は、イタリアの伝統的なシューズ、スカルペッテのワークショップ。私たちは何をするか知らされていなかったので、道具を取りに行ったり、限られたミシンやアイロンで作業したりとバタバタでした。

限られた時間で伝統技術のアウトプットをする練習

3日目は、ITSの過去のファイナリストでグローブ(手袋)デザイナーと帽子デザイナーの方が来てくださって、どのようにキャリアを積んできたかについてお話ししてくれました。手袋のデザイナーの方に関しては、ニッチで前例があまりない中で、色々な人と知り合える場所に足を運んで、コラボレーションの機会を得たりとチャンスを掴んでいったというのが具体的でためになりました。

4日目は、レディー・ガガのスタイリストをしている方とマンツーマンでセッションがあり、個別にアドバイスをいただきました。例えば、私だとブランドを立ち上げたばかりで、どうやって認知度を上げていけばいいのかを悩んでいたので、そのことを聞いてみました。

彼は有名なクライアントを持っているので、服を使って欲しいというメールが毎日たくさん送られてくるそうです。すぐ使える機会がないとしても、何回も送られてくるうちに、それが合うタイミングがくるかもしれない。自分で好きなスタイリストや知って欲しいジャーナリストのリストを作って、1ヶ月に1回とか定期的に同じものでもいいから送るようにする習慣をつけるといいとアドバイスをしてくれました。

Tシャツのワークショップ

5日目は、サステナブルについての講義とグループワークです。これも心に残っている講義のひとつです。今後もファッション業界が長く続くように、自分らしくどういう方法でアプローチしたらいいのか、テキスタイルだけでなく、作り方、量産の方法など、客観的に改めて考えさせられる日でした。
グループワークでは、ファイナリスト同士がチームになって、自分たちの作品をどうしたらサステナブルとして謳えるか話合って発表するというものでした。

佐藤さんのチームメイトはテキスタイルが有名なイタリアの島で育ったイヴァン

あとは、最終審査のプレゼンテーション、表彰式やプレスミーティング。ここでも、限られた時間の中で、自分の作品を初めて見る人にどうしたら自分の作品をより魅力的に伝えられるかを考えるきっかけになりました。そんな7日間でした。

審査員の前でプレゼンテーション

ー佐藤さんは神戸ファッションコンテスト*の特典でノッティンガム・トレント大学へ留学していたので、英語でのコミュニケーションができますよね。留学はどうでしたか?

佐藤さんの神戸ファッションコンテスト受賞作品。企業デザイナーとして働きながら制作したコレクションで、アーミッシュの若者が旅にでるカルチャー「ラムシュプリンガ」がテーマ。

行く前はためらいがありましたが、行ったらすごく考えが広がりました。留学は絶対に行った方がいい。私は学部の最終年次への編入で1年しかいませんでしたが、もっといたかったし、もっといればよかったという後悔が大きいです。当たり前のように、みんなエルメスに就職するとか、ヴィトンでインターンをするとか、美しいファッションの世界に身を置けるかもしれない、そんなチャンスが格段につかみやすい環境なので。

あとは、感覚的にこういうものがイケてるとか流行ってるというのが日本と全然違うので、着こなしとか化粧の仕方とか影響されて変わっていくし、日本の良さや足りないところも客観的に見える機会にもなったので、若いうちにそういう経験っていっぱいしておくべきだなとすごく思ったので、おすすめですね。

*公益財団法人 神戸ファッション協会主催の留学支援プログラム。2018年に終了。

ー留学を目標にしている学生もたくさんいます。文化服装学院の先輩でもある佐藤さんから、学生時代の過ごし方についてアドバイスをいただけますか?

自分のために時間を割けるのが学生時代の特権。自分のやりたいモノづくりがあるのであれば、授業の課題と絡めていくことが大事だと思います。自分の中でテーマを決めてしまって、よかった点を次の課題でもっと広げたり深めたりする。自分の学生時代は、ポートフォリオがあるコンテストしかやっていなくて、それが自分の考えを整理するきっかけになりました。

Vogue Italia 2017年9月号 Vogue Talentsに掲載された佐藤さんの卒業制作

ー日本に帰国してからブランドをスタートする詳細なお話が、FASHIONSNAP.COMで連載されていて、とてもリアルで参考になるなと思っていました。

実は、あれは持ち込み企画なんです。ブランドを始めてみて難しいと思っている点が、認知度を上げること。でも、あまり短期的な目標を決めすぎると、ブランドらしくない方法をとってしまうことがあるので、長く続けるうえでどういうアプローチをしていくのがいいのか、ひとつひとつ丁寧に考えていくのが大事だと思うんです。そうして自分が好きな世界観を共有できる人に届いて欲しいと、1年取り組んだ結果、いろいろな反省点も見つかって、今は次の展示会に向けて準備を進めているところです。

ーこれからやりたいことを教えてください。

ユークロニアを始める前、一人ひとりのために、その人の大切な記憶を守るためのお洋服を作っていました。その人の思い出や家族との絆を保管するためのお洋服や、記憶に残る特別な場で着るお洋服にレースを添えて作ってお渡しするということが、ブランドのコンセプトの根幹となっています。そういった1点もの、オートクチュールのようなことも、ブランドなりのサステナブルな取り組みだと考えています。

また、私自身もレースづくりを習っていますが、レースづくりは非常に難しく、長年の経験が必要です。現在の職人さんたちは高齢者が多く、若い世代の参加が少ないため、この美しい伝統が廃れていくのを心配しています。そこで、ブランド主体でレースづくりのワークショップや教室を開きたいと考えています。同じ趣味を持つ人々が集まり、レースを楽しみながら、好きなお茶やお菓子を交換したり、美術館情報を共有したりする場を提供する、そんな秘密の花園のようなコミュニティを作りたいというのが私の夢です。でもそれは壮大な目標なので、まずはブランドの認知度を上げ、順番に進めていければと思っています。

ITS - International Talent Support
主催:Fondazione ITS
開始年:2002年
開催地:イタリア・トリエステ
応募資格:ファッション学校の最終学年在籍者、卒業生、若手デザイナー(2名までのチーム可)
応募作品:5〜8体のコレクション
提出作品:デジタルポートフォリオ
賞:ITS Arcademy Award: €15,000(約 244万円)と 6 ヶ月間のインターンシップ
ITS Digital Fashion Award: €3,000(約 49 万円)
OTB Award: €10,000(約 162 万円)
Swatch Art Peace Hotel Award: €10,000(約 162 万円)他にも賞あり


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