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World of WearableArt 2024 Student Innovation Award 新井隆ノ介

1987年にニュージーランドで設立されたWorld of WearableArt(WOW) は世界的に有名なウェアラブルアートの祭典で、毎年開催されるデザインコンペティションの集大成として、演劇、アート、ファッション、音楽、パフォーマンスを組み合わせた壮大なショーが開催されます。今年、世界35ヶ国から集まったファイナリスト90名のひとりに選ばれ、Student Innovation Awardを受賞したのは、文化服装学院アパレルデザイン科を2024年3月に卒業した新井隆ノ介さん。最終審査会での経験をお聞きしました。

ーニュージーランドでの最終審査会に参加していかがでしたか?

すごかったです。コンテストというよりミュージカルみたいで、感動して泣きました。ウェリントンという街を盛り上げるためのイベントらしく、ショーは1ヶ月くらい続くんですが、経済効果もすごいみたいです。グッズも売っていて、僕たちみんなの作品がカレンダーやトランプになっていました。

ー新井さんは、Student Innovation Awardを受賞しましたね! 今回は「アオテアロア(マオリ語で『ニュージーランド』)」、「アバンギャルド」、「オープン」、「生き物のクレイジーな好奇心カーニバル」、「自然界」、「幾何学的抽象」とテーマごとに6つのセクションに分かれていましたが、それとは関係なく、学生と1年以内の卒業生が対象の賞とのこと。

英語でアナウンスされるので、僕が分からないまま通訳さんが先に喜んじゃって(笑)。ファイナリストの年齢層が高めなので、この賞の対象者は半分くらいだったと思います。大賞の他にも、セクションごとにもらえる部門賞や初参加賞、ウェリントンの偉い人が選ぶ賞などいろいろな賞がありました。

ー自費でニュージーランドに行ったんですよね。

飛行機代だけですね。ホテルは主催者が用意してくれます。でも他のファイナリストと2人ー部屋。僕のルームメイトは台湾の実践大学の学生さんでした。コンテストのプログラム自体は4日間で、行き帰り含めて1週間くらいです。飛行機は乗り継ぎで片道二十何時間......。初めての海外だったので大変でした。

ー今回参加してみて、一番印象に残ってることはなんですか?

おもてなしにびっくりしました。空港や街中にコンテストの横断幕や旗があったり、ファイナリストにはデザイナーと分かるようにストラップや服が用意されて、それを着ていると街で「デザイナーなの?」と声をかけられたりもしました。

空港や街中で
ファイナリストのデザイナーたちと

滞在中は、ワークショップがあったり、美術館に行ったり、ファイナリストたちとの会食が朝昼晩とありました。日本だとコンテストの裏側って見せてくれないじゃないですか。どうしてこのコンテストが出来たかとか、パンフレットの表紙は誰が作っているとか、そういうことも全部説明してくれて、バックステージも見せてくれて、そこにも感動しました。

自分の作品の図案を刺繍するワークショップ
映画『ロード・オブ・ザ・リング』などの小道具やフィギュアの制作会社Weta Workshopを見学。
ここでインターンができる賞も用意されている。
ファイナリストたちとの会食

ー応募の理由は?

在学中に国内のコンテストに3つくらい選ばれて、日本の審査の仕方や作品を見るポイントは分かってきたので、海外の人はどういう見方をするんだろうというのが気になって、ずっと海外コンテストに挑戦してみたかったんです。その時に、自分に合ってるコンテストだなと思って応募しました。

ー日本のコンテストとは何が違うと感じましたか?

このコンテストでは、コンセプトや、なぜそれを作るに至ったのかが重視されます。自分のストーリーが大切なんだと感じました。また、リアルクローズではなく舞台衣装のコンテストなので、色や造形の大胆さ、舞台で映えるかは大事だと思います。細かすぎると何が言いたいのか分からなくて審査員の方に響かないかも。あとは、サステナブルな要素がよく見られますね。

このショーは、行って帰ってくるだけのランウェイではなくパフォーマンスなので、モデルさんはみんなオーディションを受けたダンサーさんたち。どの衣装を誰に着せるか、すごく時間をかけて考えてくれているみたいです。

ー新井さんは「幾何学抽象」カテゴリーに応募していましたが、作品は昨年「YKKファスニングアワード」の最終審査会に出したものと同じですね。

はい、それにヘッドピースを追加しました。テーマも同じ「A Multi-faceted Perspective(多面的な視点)」。

コンセプトは、情報に囚われる現代人(自分自身)です。今って情報にあふれていて、自分に必要な情報を手に入れるのって難しいじゃないですか。インターネット上の膨大な情報が日常生活の一部となっていて、僕たちの思考や行動に大きな影響を与えている、情報にとらわれていると思ったんです。そこで情報をただ受け取るだけでなく、異なる視点で捉え、多面的に処理することが重要だと思いました。情報を素材として活用しつつも、そこから何を生み出し、どのように表現するかこそが本質です。

作品を制作していた3年生の当時、1年を通して「日本」をテーマにしていたこともあり、着物の要素を取り入れました。また、情報を模索する様子を折り紙の技法やプリントで表現し、手を加えることで様々な柄や形に変化させることができるようにしました。

タイベック(高密度ポリエチレン繊維不織布)にプリントを施し、折り紙のように折っていく
スナップボタンで模様を変化させる
ファスナーでパーツを取り外すことでシルエットも変化する

ー審査のプロセスについて教えてください。まずはオンラインで応募書類を送って、そのあとに実物作品を送ったんですよね。最終審査会ではプレゼンテーションなどもありましたか?

そうです、まずは応募書類をオンラインで送ります。実物がまだない人はデザイン画、ある人は作品写真を送って、先方からの質問事項に答えます。あなたが一番最初にこれを作りたいと思った理由を書きなさい、コンセプトについて詳しく書きなさい、あなたのストーリーを書きなさい、というように細かく聞かれました。素材についてサステナブルな要素がありますか、とか。サステナブルな要素が一定の割合以上だと対象になる賞があるみたいです。それが通れば実物作品をニュージーランドまで輸送します。そこで選ばれれば、ファイナリストです。最後までプレゼンテーションもありませんでした。

応募した作品写真

ーポートフォリオもプレゼンテーションもないのであれば、応募の心理的ハードルは低くなりそうです。このコンテストに挑戦したい学生にアドバイスはありますか?

日本のコンテストの概念を無視して、自分が作りたいものを何も考えずに作った方がいい。セクションが分かれているので、自分のコンセプトに合ったセクション選びも大事です。あと、頭の先からつま先まで全身トータルで考えること。自分も去年の作品を見ていて気が付いて、それでヘッドピースを作りました。造形的で立体的なスカートも毎年通りやすいみたいです。

今年はファイナリストに日本人がひとりもいなくて寂しかったので、来年は文化の子にたくさん応募して欲しいですね。世界観が変わると思います。僕も在学中に行きたかったくらい。言語は現地に通訳さんがいてくれるので、心配ありません。

ルームメイトと通訳さんと

ー文化服装学院で学んだ3年間はどうでしたか?

文化に入る前、学費を貯めたくて1年くらい建設系で働いていました。その当時文化に通っていた友達がインスタライブでデザイン画を描いていて、それを見たときに、自分はこれがやりたかったのに何してるんだろうと思って、会社を辞めて文化に来ました。それがきっかけでした。

文化での3年間は濃かったですね。人に、特に担任の先生方に助けられました。1、2年生は頼まれてモデルばっかりやっていて、3年生ではモデルはやめて服作りに専念して、クラスメイトたちと展示会も自主企画して、いい経験ができました。

自主企画の学外展示会

ー今後は?

ファイナリストになった次の年は、滞在費だけでなく飛行機代の援助もあるみたいです。何回も出している人が何人もいましたし、グランプリの方は27回目の参加だとか! グループでの応募もできるので、次は誰かと一緒に作りたいです。あと、服以外にも絵を描いて発表したいと思っています。

Show & Award Ceremony photos : ©A Multi-faceted Perspective, Ryunosuke Arai, Bunka Fashion College, Japan, World of WearableArt Ltd.

World of WearableArt
主催:World of WearableArt (WOW) LTD
開始年:1987年
開催地:ニュージーランド・ウェリントン
応募資格:18歳以上、チーム参加可(3名まで)
応募作品:1〜3体
提出作品:実物作品
賞:大賞 30,000NZD(約270万円)、2位 15,000NZD(約136万円)、部門賞 6,000NZD(約54万円)他にも賞あり


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