フィールドの境目を軽々と乗り越えていくような“演劇界のモハメド・アリ“になりたい。【2021/8/22放送_俳優 川久保 拓司さん】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週は、俳優の川久保拓司さんをお迎えして、今年所属事務所から独立した川久保さんのフリーになった経緯や今後のビジョンを伺いました。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
俳優 川久保 拓司さん
東京都出身。1981年12月17日生まれ『ウルトラマンネクサス』(04・EX)で主演を務め、注目を集める。以降、テレビ・舞台を中心に幅広く活動中。近年の主な出演作品に、【ドラマ】『昭和元禄落語心中』(18・NHK)【映画】『俺はまだ本気出してないだけ』(13)、【舞台】『ピアフ』(16、18)『ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~』(20) 『照くん、カミってる!~宇曾月家の一族殺人事件~』(21)などがある。
【今週のダイジェスト】
▶︎40歳を目前にして、すべてを自分で受け止めたくなった
【山崎】僕の周りの人たちは、よく知っているんですけど、川久保さんとは大学時代からずっと仲良くさせてもらっています。
【川久保】大学時代からのお付き合いなので、こういう場でお話しするというのも少しくすぐったさもありながら……。
【山崎】その感じは、ありますね(笑)この関係性があるからこそ聞けるような質問もぶつけて行きたいと思います。
【川久保】所属事務所から離れてフリーになっていますから、NGがまったく無いという状態なので(笑)
【山崎】今年の6月からフリーになったんですよね。最近、芸能人が事務所から独立するという話をよく聞く気がするんですよ。これまではハードルが高かったと思うんですけど、独立するようになってきた要因として“個の力”が強くなってきたり、コミュニケーションの問題がインターネットによって解消されてきたという事があると思うんですけど。
【川久保】芸能プロダクションが果たす役割は依然として大きいわけで、そのお陰で『ウルトラマンネクサス』の主演や、色んな作品に巡り合って、成長することが出来たんですよ。そんな中で、晴太郎さんが仰った「“個の力”を試してみたい」という想いが生まれてきたというのが、素直な気持ちです。それに、交渉して出演までを1人で行うという事を、40歳を前にしてやってみたかったというのもありますね。
【山崎】フリーになると全部を自分で決められるから、やりやすい部分もあるんですかね?
【川久保】独立には、もちろんメリットとデメリットがあると思います。芸能プロダクションに所属すると、僕がリーチできない所にも手を伸ばす事ができる反面、制約が生まれるのも当然のことですしね。だけど、40歳を目前にして、自分で判断をして、責任を持って、”痛い・嬉しい・楽しい・辛い”という全てを受け止めてみたいというのが、正直な気持ちなんですよね。あと、俳優として幅を広げるチャンスだと思うし。でも、このままフェードアウトしてしまう流れを作ってしまうかもしれない可能性があるという意味では、怖さもありますよね。
【山崎】基本的に、役どころって年を重ねるに従って、減っていくじゃないですか?それでも俳優の人数が劇的に変わるわけでもないので、「どうやってサバイブしていくのだろう?」って疑問に思うんですけど……。
【川久保】座る椅子がどんどん減っていくわけなので、仕事にあぶれる人が当然増える。そうすると、年齢に比例して、俳優自体が減っていくんですよね。
【山崎】辞めていくんだ!
【川久保】そうですね。僕が1番最初に思ったのが、30代に入った時。他の道に進む人も増えてきて、それが1つの節目の年齢でしたね。僕は、今年40歳になるので、今の年齢になると、また減っていきますよね。
【山崎】デザイナーも同じで、30~35歳とか、40歳で辞めていく人が多いんですよね。俳優もデザイナーも“表現する”ということに、戦う感じがあるじゃないですか?戦い続けるのは、キツイですもんね。
【川久保】霧の中を何があるのか分からないまま、猛ダッシュしているような感覚ですよね。だから、真後ろに猛ダッシュしている可能性もあるし。それでも前に進まなくてはならないというのは、表現者としての孤独ですよね。
▶︎どこまで行っても俳優というのは“生き抜くための手段”
【山崎】Instagram でプライベートな子育ての部分とかをオープンにされているじゃないですか?その辺りを隠す人もいると思うんですけど、プライベートな部分を出す事に理由があったりしますか?
【川久保】この年齢になって、“人生の目的と手段”をよく考えるんですね。その中で、「自分の目的が俳優」なのか、それとも「目的のための手段が俳優」なのかと、すごく悩んだことがあったんです。僕にとっては、どこまで行っても俳優というのは、“生き抜くための手段”なんですよね。目的は、“笑顔でいたい”“幸せでいたい”“幸せを届けるような人でいたい”“家族で楽しくいたい”という事なんですよ。そういう意味では僕の軸は家族なので、父親として育児をしているところをオープンにしながら、俳優として自分を磨いていくのが好きですね。
【山崎】最初は、俳優になることが目的じゃないですか?いつから、そういう考えになりました?
【川久保】昔は、目的と手段を一緒にしていて、俳優が僕のすべてだったんですよ。それが無くなったら、その後の事は考えられないというぐらい、すべてを捧げていましたし。ただ、年齢を重ねるごとに自分の心と向き合うことが増えてきて、「自分の“本能”のようなものは何だろう?」という事に耳を傾けていった時に、“手段”であり続けたいと思ったんです。だから、経済力もなく孤独でボロボロになっても「芝居さえできれば良い」という本物のアーティストには、なれないんですよ。
【山崎】なるほどね
【川久保】やはり、幸せも追い求めたいですし。目的と手段で分けると、僕には俳優は手段という感じです。
【山崎】経済力の話に関係があるのかなと思うんですけど、資産運用のYouTubeを始めたり、川久保 FP 事務所を設立されましたよね。こういった取り組みの意図を教えてもらってもいいですか?
【川久保】大学は経済学部だったんですけど、その頃から経済に関する勉強が好きで続けているんですよ。その道すがらにファイナンシャルプランナーという職業に出会ったんですけど、知識を生かしたいと思い始めたのはコロナがきっかけですね。
【山崎】そうだったんですね。
【川久保】俳優は成功するか、ある程度ボロボロになって辞めるかの2択しかなかったと思うんです。だけど、僕はその中間を提案したいんです。経済的な背骨があったら、最後まで好きな俳優を続けることが出来る。
お金の話になると日本では「そんな話をするなんて、アーティストじゃない!」という風潮もあると思うんですけど、魂をかけて芝居をして対価として貰ったお金を汚いと思うべきじゃないと。それを適切に扱って、未来に繋げていくのが資産運用なんだという話をしたいんですよね。
【山崎】元々、資産運用に関する事は自分でやっていたんですか?
【川久保】意識的にやりだしたのは、所帯を持ってからですね。子供の姿を見て、自分のわがままを通すための義務みたいなものを感じてきたんですよ。そのためには、用意しなくてはいけない部分もあると思って。
【山崎】家族が出来ると、無条件に必要なお金が出てきますよね。自分ひとりの時と違って、我慢すれば何とかなるとかいう事じゃないですし。
▶︎舞台も映画もドラマも全部好きだから、境目を乗り越えていきたい
【山崎】最近の活動についてお伺いしたいんですけど、海外のお仕事もされていますよね?
【川久保】今も香港でオンエアしているんですけど、MARO17という商品のCMですね。YouTubeで100万回近く視聴されていて、反応があって嬉しいなと思いました。
【山崎】フリーになったのをきっかけに、海外進出を狙っていたりします?
【川久保】やってみたいですよね(笑) 僕が初めて観た映画が、父親と一緒に行った『トップガン』なので、ハリウッドとか海外の作品に出るのが1つ憧れとしてあるし、トライする手段は身近になってきたとは感じていますね。
【山崎】当然、英語でやらないといけないですし、一層チャレンジングな事も出てきますよね。他に、現在はどんな活動をされていますか?
【川久保】ちょうど、『コムサ de マンボ!』という舞台に出演しています。東京公演が終わって、これから地方に行く感じですね。
【山崎】ドラマ、映画、舞台と幅広く出演されているじゃないですか?自分の主戦場と考えているフィールドはありますか?
【川久保】多くの人に反論されてしまうかもしれないですけど、ほとんどの体重をどこかにかけるような事を出来るだけ避けたくて……。
【山崎】どこかに軸足を置くとラベルが貼られて、俳優としての型が決まってしまうというかね。
【川久保】ミュージカルもストレートも映画もドラマも、要は全部好きなんですよ。だから、その境目を軽々と乗り越えて行くようなフットワークの軽い“演劇界のモハメド・アリ”になりたいなと思っていますね(笑) 「捉えどころがない」と思われ続けたい部分、未だにあるのかもしれません。
【山崎】その感じだから、色んなジャンルの依頼が来るのかもしれませんね。10 月にも出演作があるんですよね。
【川久保】そうですね。『コントと音楽 vol.3』という、コントをやって音楽もやるという、半分舞台・半ステージみたいな感じです。演出家が飯塚健という、戦友であり、友達であり、好きな先輩でもあるという不思議な関係性の人なんですけど、出演者も豪華でバラエティに富んだメンツが集まります。現時点では、まだ台本上がっていないんですが、全幅の信頼を置く演出家さんなので、そこはワクワクしますね。ご飯を食べながら、お酒を飲みながら気楽に見てほしいなと思うステージです。丸の内にある、cotton clubでやります。
【山崎】面白そうですよね。観に行きます!!
▶︎2人のこれまでの人生を背負って、演劇をつくってみたい
【山崎】最後のパートは、ゲストの方みなさんに伺っていることをお聞きしたいと思います。僕・山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんな事をしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【川久保】1つに絞り切れなくて、2つ言っても良いですか? 1つ目のフィールドは僕寄りにはなりますけど、晴太郎さんと演劇を作ってみたいですね。
【山崎】昔から、その話をしていますもんね。
【川久保】全然違うアプローチでお互いに人生の道を拓いてきた中で、2人のこれまでを背負って打ち込んでみたいというのはありますね。
【山崎】それは、どこかで絶対やると思いますね。
【川久保】期限を決めて、ぜひやりましょう!もう1つは、晴太郎さんのフィールドで、何かしら形に残る作品を一緒に制作してみたいですね。僕には、未知の世界なんですけど、そこに参加してみたいです。
【山崎】それぞれのフィールドで、それぞれが交錯するということですよね。そして、この番組のコンセプトである「文化百貨店」という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、そこでどんなモノを扱いたいですか?
【川久保】真っ白な空間にテーブルを1つだけ用意をしていただいて、時にはそこを芝居のワークショップとして使わせて頂いたり、時にはファイナンシャルプランナーとしてお金の相談に乗ったりしたいですね。
【山崎】念入りに準備していただろう?100点です(笑) 最後に、これからの目標を教えてください。
【川久保】これまで、自分の人生を芝居に捧げてきました。そんな中で、コロナで辛い経験をして、「色んな人を幸せにできるのではないか?」という自分の可能性に気づきました。これから、皆さんに色んなものを届けられるように、更に頑張っていきたいと思っています。
【山崎】ありがとうございました。今回のゲストは、俳優の川久保拓司さんでした。大学からの付き合いで、もう20年も経つので、話していても気が楽ですね。連絡を取らない期間が10年ぐらいあった気もするんですけど、こうやってラジオで話す機会が持てて、お互いに頑張ってきて良かったなと思いました。
【今週のプレイリスト】
▶︎川久保 拓司さんの楽曲
『(Just like)Starting over』John Lennon
といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、馬車道駅のすぐそば、北仲ブリック&ホワイトにあるDANCE BASE YOKOHAMAにお邪魔をして、アーティスティックディレクターの唐津絵理さんにお話を伺います。
【次回8/29(日)24:30-25:00ゲスト】
愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん
お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科修了。舞台活動を経て、1993年より日本初の舞踊学芸員として愛知芸術文化センターに勤務。00年に所属の愛知県文化情報センターで第1回アサヒ芸術賞受賞。14年より現職。10年~16年あいちトリエンナーレのキュレーター(パフォーミング・アーツ)。
大規模な国際共同製作から実験的パフォーマンスまでプロデュース、招聘した作品やプロジェクトは200を超える。文化庁文化審議会文化政策部会委員、全国公立文化施設協会コーディネーター、企業の芸術文化財団審査委員、理事等の各種委員、ダンスコンクールの審査員、第65回舞踊学会大会実行委員長、大学非常勤講師等を歴任。講演会、執筆、アドバイザー等、日本の舞台芸術や劇場の環境整備のための様々な活動を行っている。著書に『身体の知性』等。アーティスティックディレクターを務めるDance Base Yokohamaは、2020年度グッドデザイン賞を受賞。
また日曜深夜にお会いしましょう!
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