なぜ敵を倒すのか?その疑問から広がるヨコオタロウの世界観。 【2021/6/13放送_『NieR Replicant ver.1.22474487139…』 プロデューサー 齊藤 陽介さん_クリエイティブ・ディレクター ヨコオ タロウさん】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。先週に引き続き、全世界で大ヒットを記録しているゲームソフト、NieRシリーズからプロデューサーの齊藤陽介さんとクリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんをお迎えして、お2人のキャリアやゲーム業界の話をたっぷりお伺いしました。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
株式会社スクウェア・エニックス 取締役兼執行役員/エグゼクティブ・プロデューサー 齊藤 陽介さん
1970年生まれ。神奈川県出身。神奈川大学を卒業後、1993年に株式会社エニックス(現:株式会社スクウェア・エニックス)へ入社。 『ドラゴンクエストX オンライン』や、『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、「ニーア」シリーズ等のプロデューサーを務める。 2018年4月から開始していたアイドルグループ「GEMS COMPANY(ジェムズカンパニー)」のプロデューサーを務めることを同年8月に発表。 エグゼクティブ・プロデューサーとして「スターオーシャン」「ヴァルキリープロファイル」「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズなどにも携わった。 主な作品:『アストロノーカ』、『クロスゲート』、『ドラゴンクエストX オンライン』、『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、「ニーア」シリーズなど。
株式会社ブッコロ代表取締役/ゲームディレクター ヨコオ タロウさん
1970年生まれ。愛知県出身。神戸芸術工科大学を卒業後、株式会社ナムコ、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て、株式会社キャビアへ入社。デザイナーとして経験を積んだ後、「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズや『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』のディレクションを担当する。 株式会社キャビアを退社後に株式会社ブッコロを立ち上げ、2017年には『ニーア オートマタ』をリリースした。 その独特な世界観や物語は「ヨコオワールド」と呼ばれており、最近はスマートフォン向けアプリ『シノアリス』や、漫画『君死ニタマフ事ナカレ』や舞台の原作などでも、幅広く活躍する。 主な作品:「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズ、「ニーア」シリーズ、『シノアリス』など。
【今週のダイジェスト】
▼ファンが集まれるコミュニティー構想から生まれたドラクエオンライン
【山崎】今週は作品から離れて、キャリアについて伺いたいと思います。今、ゲームクリエイターが子供たちのなりたい職種の上位に挙がっていて、僕の息子も「ゲームクリエイターになりたい」と言っているんですよ。まず、齊藤さんはどういうキャリアですか?
【齊藤】元々は、ゲームよりも玩具に興味があったんです。実は、リカちゃん人形のタカラトミーに内定をもらっていたんですが、どう考えても僕のキャラクターはリカちゃん人形ではないだろうと(笑) 経済学部に通っていて企業の収益を読めたので、ドラゴンクエストを作っていた当時のエニックスを調べたら「これは、俺が入っても潰れないぞ!」と思って、本当に邪悪な理由で入社しました(笑)
【山崎】「ゲームが大好き!」とかでは無いんですね(笑)
【齊藤】そうですね。入社して、商品企画部が考えたグッズを実現するために、材料や生産過程、スケジュールのマネジメントを行う購買部に入ったんですけど、3人しかいない部署だったんですよ。新人なのに、全部自分でやらないといけないという(笑) そんな状態で1年間駆け抜けていたら「若くて、元気な奴がいるぞ」とゲーム部門に引っ張られたんです。
【山崎】最初から制作では無かったんですね。
【齊藤】私は、ゲームよりも玩具をやりたかったんですけどね。そこから、四半世紀以上ですかね。
【山崎】僕が、最初に意識をしてハマったゲームがドラゴンクエストなんです。齊藤さんはドラゴンクエストⅩのプロデュースをされていますよね。あのオンライン化は、体験としても新しくてエポックメイキングだと思うんですけど。
【齊藤】当時、ドラゴンクエストはスピンオフが、それほど出ていなかったんですよ。ナンバリングタイトルは、3年~4年という中で作って出していくので、ドラクエが好きだった人たちが離れてしまうかもしれない期間なんですよね。その間を、いつでもドラクエが好きな人たちが集まれる、ゲーム性のあるコミュニティーを形成できる場所を作りたいというのが、初代プロデューサーの千田幸信さんや堀井雄二さんにあったんだと思います。当時、オンラインゲームを開発した経験があるのが、私しかいなくて、話が下りてきたのがきっかけですね。
【山崎】大学時代にパソコンで、リネージュをプレーしていたんですけど。あの世界と、昔からやっていたドラゴンクエストが結合するというのが、自分の中で整理がつきにくい所がありましたもんね。
【齊藤】めちゃくちゃ大変でしたね。ドラゴンクエストの、あのメニューの問題もありましたね。変わってもいいと思うんですけど、オンラインゲームに更に違った物が入ってくると「これはドラゴンクエストなのか?」と議論になるでしょうから、そこのバランスが難しかったですね。そもそも、オンラインに対して「敷居が高い」という方が多い中でしたしね。
▼目の前の敵を倒す その理由を追求して生まれるヨコオワールド
【山崎】続いては、ヨコオさんにお話を伺いたいと思います。元々3DやCGのデザインをされていて、そこからディレクターに変わって行かれたんですよね。
【ヨコオ】昔からゲームを作りたいなと思っていて、ゲーム開発の中で3DやCGのデザイナーをやっていました。表現としてテクノロジーが好きだったので「面白いテクノロジーにいっぱい触りたい」と思っていました。なぜ、ディレクターになったかというと、当時一緒にやっていたディレクターが、他のプロジェクトで忙しくなって代わりにやったんですね。
【齊藤】そのチームの中で、ヨコオさんをピックアップしたのは、何かあったんじゃないの?
【ヨコオ】すごく文句を言う人だったので「そこまで言うなら、やれよ」みたいな(笑)
【山崎】なるほど(笑) ディレクターになるとスクリプトを書いたりされると思うんですけど、抵抗感は無かったですか?
【ヨコオ】シナリオはディレクターになってから初めて書いたんです。シナリオの書き方の本を買って、3ページくらい読んで、難しくて「もういいや、書けるだろう」と思って書いたのが最初です。書けたと思ってゲームを組んでみたら、話が分からなくなったんですよ。色々と説明を入れないといけなかったんですよ。ゲームならではの表現をしないといけない所だとか、細かいところを埋めて回る。そういう意味では、今でもなんですけど、最初に思い描いたものをお客様に伝える時に、伝わるようにずっと調整している感じですね。
【山崎】シナリオの世界観に“ヨコオ感”がありますよね。業的な感じとか、切なさとか。あの世界観は、いつから生まれているんですか?
【ヨコオ】NieR作らせて頂く前に『ドラッグ オン ドラグ―ン』というゲームを作ったんですけど、キャラクターが剣で出てきた敵を倒して、ゴールへ向かうアクションRPGなんです。そういったゲームを制作する時に、「何で目前の敵を倒しているんだろうな?」と考えると、普通じゃない話になっていくというか……。目の前に現れたものを叩いて倒す、そのメンタルや理由を考えていくと、どうしても薄暗い方向に偏っていくのが自分でも感じていますね。
【山崎】そんなに簡単に、人が人を叩かないだろうということですよね?
【ヨコオ】そうですね。ゲームで目の前に現れるものを叩くと、気持ちがいいんですよね。そこにも人間の業があるというか。競争をして他人に勝つ気持ち良さや、間違っているように聞こえる気持ちの仕組みが、人の根幹にあるのではないかなと思いますね。
【山崎】矛盾感みたいなところですよね。
【ヨコオ】その辺りが、ゲームのシナリオに現れている気がしますね。
▼プラットフォームとして魅力的になったスマートフォン
【山崎】今回は、NieR Replicant ver.1.22474487139... のサウンドトラックから『泡沫ノ言葉』を聞いていただきました。この曲は、どういう曲ですか?
【ヨコオ】NieR Replicant ver.1.22474487139...で追加された人魚姫と呼ばれるエビソードで使用されていて、オリジナル版には無い曲なんです。初代を作った時に予算が足りなくて、出来なかったステージなんですよ。今回、NieR:Automataがヒットして、お許しを頂いて、ようやく作れたと思い入れがあったので、かけさせて頂きました。
【山崎】ゲームを作って行く中で、そういう制約ってあるんですね。
【齊藤】私は切る側の人間なので(笑)
【ヨコオ】常にお金との闘いですよね。
【山崎】コストのために、ステージ自体を無くすようなパターンと、要素を短くするパターンがあると思うんですが、どちらが多いですか?
【齊藤】両方ですね(笑)
【ヨコオ】ブロックを少し削ったりとか、キャラクターを減らして別の話に注力するとかはやりますね。
【山崎】開発コストに繋がってくると思うんですけど、僕が1番最初にプレーしたのはファミコンで、スーパーファミコンやゲームボーイ、DSがあって、今はプレイステーション4やプレイステーション5という時代ですけど、どんどん開発コストがかかるわけですよね?
【齊藤】何を作るか次第です。 “フォトリアル”というリアリティのある画作りになれば、書き込まなければならない要素が増えたりするので、かなり開発費が変わってきますね。
【山崎】もう1つお伺いしたいので、スマートフォンがゲームのデバイスとして隆盛してきているじゃないですか。NieRシリーズもスマホ版のNieR Re [in]carantionを出されていますけど、その辺りはどうお考えですか?
【齊藤】日本人の中でゲーム機を持っている人は、スマホユーザーと比べると圧倒的に少ないんですよね。だから、ゲームを売る側からすると、プラットフォームの1つとしてすごく魅力的で、興味を惹かれるものを作ればいいという感じですね。ただ、参入しやすいプラットフォームなので、言い方が悪いんですけど、誰もが知っているタイトルは売れるけど、新しい作品の芽が出づらい。でも、最近でいうと『ウマ娘』がヒットしたように、夢と希望はあるかもしれないですね。
【山崎】なるほどね。
【齊藤】就職活動をしている人たちに、今までやってきたゲームを聞いてみると、一時期はスマートフォンのゲームばかりだったんですよ。それで、他にどこの面接を受けているか聞くと、スマートフォンのゲームを作っている会社が多かったんです。だけど、最近はゲーム機が戻りつつあるので、両立出来るようになってきたかなと思います。
【山崎】ヨコオさんに伺いたいんですけど、両方作られていて、ディレクションの仕方が全然違うと思うんですけど、いかがですか?
【ヨコオ】スマートフォンゲームのビジネスモデルがよく分からないんですよね。どうやったらガチャを引いていただけるのかとか、どのゲームが当たるのかも分からない。そういう才能が無いので、そこは若い優秀なスタッフさんに任せて、家庭用ゲーム機で培ったノウハウをどういう表現で落とし込んでいくのかというのをやっていますね。
【山崎】僕は、そんなにスマホゲームをやっていないんですけど、NieRは良心的な印象があります。
【齊藤】あまり課金しなくてもね……
【山崎】楽しめますよね!あれは、成立しているんですか?
【齊藤】成立はしているんですよ。会社に言うと怒られるんですけど「そんなに儲からなくてもいいんじゃない?」みたいな所でやっています。お金を払わなくても、楽しめる人がある程度いる事は重要だと思っているので、あまりこだわりが無いんですね。
【山崎】ありがとうございます。あまりに盛り上がり過ぎたため、来週もお願いして良いでしょうか?
【ヨコオ】それで、良いんですか?
【山崎】NieR Replicantにちなんで、文化百貨店もバージョンアップしてみようかなと思います(笑) それでは、最後に、NieR Replicant ver.1.22474487139...について教えてください。
【齊藤】NieR Replicant ver.1.22474487139...は、2010年に出たNieR Replicantのバージョンアップ版で、皆さんにたくさん遊んでいただいたNieR:Automataの良い所を11年前のゲームに反映させています。改めて、NieRの世界のスタートとなったタイトルを皆さんに遊んでいただきたいと思っています。ジャンルはアクションRPGなんですけど、誰もが遊べるようにオートバトル機能も実装しているので、奇才ヨコオタロウの世界をNieR Replicant ver.1.22474487139...で体験していただきたいなと思っています。
【山崎】ヨコオさんお願いします。
【ヨコオ】NieR Replicantは、スクウェア・エニックスさんという有名なタイトルをたくさん出している会社から出ているので、ファナルファンタジーもドラゴンクエストもキングダムハーツも全部遊んで、「今、暇だよ」という方に遊んでいただけると嬉しいアクションRPGです。よろしくお願いします。
【山崎】ありがとうございます。今回のゲストも、NieR Replicant ver.1.22474487139...のプロデューサーの齊藤陽介さんとクリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんでした。ありがとうございました。
【2人】ありがとうございました。
【今週のプレイリスト】
▶︎ヨコオ タロウさんのセレクト
『泡沫ノ言葉/Fleeting Words - Another Edit Version』NieR Replicant ver.1.22474487139... Soundtrack Weiss Edition
Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回も引き続き、齊藤陽介さんヨコオタロウさんをお迎えして、ゲーム以外の活動についても伺います。
【次回6/20(日)24:30-25:00ゲスト】
株式会社スクウェア・エニックス 取締役兼執行役員/エグゼクティブ・プロデューサー 齊藤 陽介さん
株式会社ブッコロ代表取締役/ゲームディレクター ヨコオ タロウさん
また日曜深夜にお会いしましょう!