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魂で描く、そこにある欠片で描く、糸で描く、身体に描く、面に描く、意味を描く‥個展『Draw・描く』での挑戦【2021/11/7放送_ジュエリー作家 伊藤 敦子さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。11月7日の文化百貨店のゲストは、先週に引き続きジュエリー作家の伊藤敦子さん。今回は、ジュエリーと並行して作品をつくっている金属作家としての活動や、今月開催される個展について伺いました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
ジュエリー作家 伊藤 敦子さん

イタリア、フィレンツェのメタルアートスクールで学んだのち、日本のジュエリー作家の元で勤務し、独立。
1993 THE ART OF JEWELLRY (ジュエリー協会主催の国際コンテンポラリージュエリー展)に入選したのち、個人の作家活動を開始。以降2011年まで国内のジュエリーやクラフトの公募展に出品。2011年からはジュエリーブランドitoatsuko の活動を始め、百貨店、ギャラリー、セレクトショップなどの展示に参加。のちに個人の作家活動の一環となる。近年は作家活動の中で、立体、平面作品などの制作を開始し、ジュエリー作品と並行して発表している。

【今週のダイジェスト】

▶︎金属作品を制作しだしてから、ジュエリーを客観視できるようになった

【山崎】ジュエリー作家として活動をされてきた伊藤さんですが、2016年から金属作品の制作を始めていらっしゃいます。これは、何かきっかけがあったのですか?

【伊藤】吉祥寺にあるOUTBOUNDというお店で、毎年『「作用」展』という合同展が開催されているんですね。それに参加した際に、“人の心に作用を及ぼすもの”というお題で制作をしたのがきっかけです。

OUTBOUND店主の小林和人さんが毎年DMで、“作用”の定義をされるんですけど、例えば2019年は

各々の素材が孕む性質に耳を澄まし、成らんとする姿への途を探り、
時に水先の役を担い、或いは導かれるまま委ね、
主と従の潮目を漂いながら移ろう、
その軌跡たる造形物の展覧会を開催いたしたく、
具体的な機能を付与する“道具”に対して、
本展に於いて“標具”と呼ぶこれら抽象的な品を通じ、
情緒的な反応をもたらす“作用”について問う場となりましたら幸いです。

という文章だったんです。

【山崎】なるほど。この文章を聞いて、小林さんに文化百貨店に遊びに来て欲しくなりました(笑)

【伊藤】面白い方ですよ(笑) 私が元々やってきたジュエリーは身につけるものなので、人の身体や心に寄り添うという古くからのお守り的な位置付けもあったりしますよね。「作用」展をきっかけに、ジュエリーを壁や空間・机に置くものとして、少し客観的に見ながらつくるようになりました。これをやってみた事で「ジュエリーという身体に合わせるものは、一体どういう事なんだろう?」という認識をより鮮明にし始めたというか……。そういう学びにもなりましたね。

【山崎】向きあい方が、変わったんですね。最近まで、いくつか展示会に参加されていましたよね。Gallery SUの『10+1周年記念展「巣」』には、どのような作品を出されたんですか?

【伊藤】去年、出来なかった個展の1つなんですけど、SUで個展をしている人たち16人が「巣」をテーマに作品をつくって10周年+1年のお祝いとして出展しました。SUでは2019年と2021年に、ジュエリーではない金属の小さな作品を個展で発表しました。そういう流れもあったので、今回もジュエリーではなくて、巣をイメージした小さな金属作品をシルバーでつくって出展したんです。

【山崎】ジュエリー(身に着けるもの)をつくる時と、ジュエリーではないもの(身に着けられないもの)をつくる時では、思考の入り口が違ったりするんですか?

【伊藤】そこは同じなんですよね。ジュエリーは身に着けるので人と接触があるというか、心に入っていく部分がありますよね。一方で、机に置くものであっても、そういう部分は同じ意識なんですけれども、空間に置く事と身体に着ける事の違いについては、意識をしながら制作をしていますね。

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▶︎“自由に描く”をベースにした、個展「Draw・描く」

【山崎】これから年末にかけて、展示会が続くようですね。11/12~11/28まで恵比寿にあるgallery deux poissonsで、『Atsuko Ito Exhibition 「Draw・描く」』が行われますが、どのような個展になりますか?

【伊藤】この個展では、自分が今まで制作してきたジュエリーを、制作過程から3つに分けて定義をするという振り返りもありつつ、何か新しいアクションが出来れば良いなと思っています。 “自由に描く”という動きを基に、6つのテーマがあります。

【山崎】面白そうですね

【伊藤】1つ目が「塊で描く」。ここでいう塊は、銀の塊なんですけれども、彫塑の土を乗せて形を作っていくようなイメージをしていただければ良いのですが、炎を当てて銀を溶かしながら、溶かした銀を引いて、また溶かして重ねていくんです。

【山崎】ミルフィーユみたいな感じですか?

【伊藤】そうですね(笑) それで、自分の好きな形へとつくっていくんですけれども、火が止まると銀が固まってしまうので、“火を当てながら”という行動の縛りがあって、ぎこちない作業なんですよね。すごく障害があるんだけれども、その障害自体が刺激的な結果を導いてくれるんですよ。その塊で、様々なブローチやペンダントを作っています。

【山崎】それが、1つ目の「塊で描く」なんですね。

【伊藤】はい。2つ目が「そこにある欠片で描く」。作業のあとの欠片って、たくさん残っていくんですね。その欠片には手の跡が残っているんですけれども、そういった意図は持たない置き去りにされてしまった破片をジュエリーに再構築して、新しい命を与えながら作って行くんです。関連が無い異質な形を織り交ぜていくので、造形の深度が広がるのが面白いなと思ってやっています。

【山崎】なるほど。3つ目は?

【伊藤】3つ目は「糸で描く」。ものづくりを始めたころから“何にも捕らわれない、自由な場を線で描きたい”という希望があったんです。自然に、パッっとはじけるような蓄積した手の記憶を描きたいと。

【山崎】一本の線には、本当に全てが出ますからね。

【伊藤】そうなんですよね。それで、糸を用いて刺繍で描くというのは、手で描くように行かないんです。だけど、チクチクと運針していくと、心がそのまま描かれていくような感じなのかなと思います。そういう線が描かれるのが、糸ですね。

4つ目は「身体に描く」なんですけど、丸く曲がった画線から、チェーンを垂らして身体に絡ませるみたいな感覚です。だから、身体の立体に沿って、自ずと線を描き出すようなやり方で、身体を分割していく境界線も見えたりするというものですね。

5つ目が「面に描く」。これは銀板に有機物を重ねて、深く転じてくる色を線で現していくものです。自分で線を引きながらも、すごく曖昧な作用に委ねることになっていって、最後に「ここで止めよう」と決める自由だけが私にあるんです。

【山崎】作品をつくっているとよく言われる、「どうしてここで終わりなんですか?」というやつですよね。

【伊藤】そうですね(笑) そして、最後の6つ目が「意味を描く」。言葉と言葉にならないものへの関心がすごくあるので、アルファベットという記号から単語を1つずつピックアップしていって、それを自分に引き寄せて形につくる事をします。

【山崎】“意味性を持って、ものに向かい合う”ような感じですか?

【伊藤】はい。実験的にやっているんですけど、そういう形を描いています。

【山崎】これまでも色んなものを作られてきたと思いますけど、今、試してみたい技術があったりしますか?

【伊藤】表現や技術という意味では“リメイク”ですね。昔からやっているんですけれども、古いものや使っているものを作り直していくことですね。コロナ禍で過去を振り返ることがすごく多いんですけど、そんな中、母が急に若い頃に作った刺繡のカバンを「これ、使わない?」と持って来たりしたんですね。「コロナの影響で、そういう気分になるのかな?」と感じながら、受け取ったんですけど、リメイクしたくなるんですよね。だから、ジュエリーに限らず、人のパーソナルな思い出の物とかを新しく作り直したいなと思います。

【山崎】まだまだ、作品の世界が広がりそうですね

【伊藤】はい……。(笑)

【山崎】「そうですね」とは、返事がし辛い質問でしたね(笑)

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▶︎何でもない小さな記憶でも、すごい魅力がある

【山崎】最後のパートは、ゲストの方皆さんに伺っていることをお聞きしたいなと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?

【伊藤】以前、山崎さんのご依頼で、家族の未来につながるジュエリーを作らせてもらいましたよね。その時に、ジュエリーの役割の1つを真剣に考えたんですよね。そういった経験から、ジュエリーは過去に繋がることもあるし、未来に繋がることもあるという“物という存在の重み”を投影したりしています。

【山崎】自分で依頼していて、今更お聞きするのも野暮なんですけど、こういったオーダーを受けた時は、どういう事を考えながら作っていくんですか?

【伊藤】私生活をすごく知っているわけでも無いし、お話を聞いた程度でも、気持ちはすごく入れ込みます。晴太郎さんの場合は、「未来に繋がる」とか「お子さんへの想い」をお話されていたのでイメージは、すごく膨らみましたね。

それで、コラボをするとしたらというお話ですけど、パーソナルなジュエリーをつくる人を決めて、1年に1個作るとかね。その誰かは、本人に知られなくてもいいんですけど、こっそりと有名な人を選んだり、過去の偉人へジュエリーをつくるプロジェクトができたら面白いなと思いました。

【山崎】それは、面白いですね。そして、この番組のコンセプトである『文化百貨店』という架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、どのようなものを扱いたいですか?

【伊藤】先程お話をしてしまったんですけど、ものを修理したりリメイクをしている人が色んな分野で、たくさんいますよね。そういったものを集めて、すごく目から鱗な感じを味わいたいというか(笑)

【山崎】なるほどね(笑) 最後に、個人的にお聞きしたいことがあるんですけど、先程から仰っているリメイクの話やジュエリーづくりは、時間を内包しているじゃないですか?銀といった伊藤さんが扱っている素材自体も、時間を内包して、今ここに出てきていると思うんですけど、“時間”というものにどう向き合っていますか?

【伊藤】貴金属には、未来に残るという価値観があって、すごく珍重されたこともありますよね。逆に、非金属や布であっても、記憶を呼び覚ますことには大きな力を持っていたりして、すごく平等に扱うというか……。振り返ってみると、今自分が居て、活動をしている場所に、記憶を引っ張ってくる事から始まると言うんですかね。

リサイクルやリメイクにしても、未来へ続くものだけが良いのではなくて、何でもない昔の小さな記憶でも、今の自分が引っ張ってきて動き始めたら、すごい魅力があると思うんですよね。そういった物にも目を向けたいですね。

【山崎】時や記憶の流れがあって、そこにふっと近寄って、また戻すみたいな感覚ですかね。

【伊藤】そうですね。

【山崎】ありがとうございます。2週にわたって、伊藤敦子さんとお送りしました。お話をしていて、どんどん銀に興味が出てきました。僕はジュエリーをつくれないですし、金属も素材として扱った事は無いんですけど、作品を通した呼応感みたいなものが、伊藤さんとは感覚が合うんですよ。お話をして個人的に、ものすごくハラオチをした2週間でした。

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伊藤敦子さんイベント
11/12~28 個展『Atsuko Ito Exhibition「DRAW・描く」』@gallery deux poissons
12/11~26 個展『Atsuko Ito Exhibition』@水金地火木土天冥海
12/22~26 『Spiralクリスマスマーケット』@Spiral Gardenに出展

【今週のプレイリスト】

▶︎伊藤 敦子さんのリクエスト
『June 5th』takanori niimura

▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『小さな灯り』Rie Nemoto


といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、フリーランスのストーリーテラー宮本裕人さんをお迎えします。

【次回11/14(日)24:30-25:00ゲスト】
フリーランスのストーリーテラー 宮本 裕人さん

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1990年、神奈川生まれ。『WIRED』日本版エディターを経て、2017年よりフリーランスとして活動中。2017年にロングフォームに特化したストーリーテリングプロジェクト『Evertale』をスタート。2019年に時代と社会の変化に耳を傾けるメディアプラットフォーム『Lobsterr』を共同設立。編著に『いくつもの月曜日』(Lobsterr)、訳書に『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』(真崎嶺)がある。

また日曜深夜にお会いしましょう!

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