エンドユーザーなんだから、世の中に流されず自分の“わがまま“で車を選んでいい。【2022/1/16放送_モータージャーナリスト 五味 康隆さん】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。
1月16日の文化百貨店は、先週に引き続き、モータージャーナリストの五味やすたかさんをお招きしてお送りします。今週は、五味さんが精通されているハイブリッドやEVなどの最新技術や、クルマの未来についてお伺いしていきます。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
モータージャーナリスト 五味 康隆さん
自転車トライアル競技で世界選手権に出場。その後4輪レースに転向して全日本F3選手権で3年間戦ったのち、モータージャーナリスト活動を開始するという異色の経歴を持つ。確かなドライビング理論と優れた運転技術に裏付けされた解り易い解説には定評がある。また自動運転を含めた運転支援、そしてハイブリッドや電気自動車への造詣が深い。
【今週のダイジェスト】
▶︎“部屋を移動させる” 自動車メーカーの理想に近づいたBMW IX
【山崎】YouTubeチャンネル「E-Car Life with五味やすたか」では、次世代自動車についてかなり踏み込んだ内容で発信されていますよね。
【五味】僕は、ハイブリッドや電気自動車にかなり前に感化されて、これまで5~6台は乗ってきているんですよ。電気自動車も1台持っていましたし、今は燃料電池車も持っています。
【山崎】感化されたきっかけは、何だったのですか?
【五味】2~3世代前のハリアー・ハイブリッドですね。その当時のハイブリッドカーは、どれもエコなんですよ。加速や走りはダメかもしれないけれど、燃費が良いから許してみたいなタイプ。ハイブリットの神髄がそういうものだった中、ハイパワーハイブリッドというV6エンジンにバカデカいモーターを2個も積んだハリアー・ハイブリッドは加速が凄かったんですよ。
【山崎】電気がもたらす加速度ということですよね?
【五味】電気の加速は異常ですよ。EVだとテスラのハイパフォーマンス系は、どぎつい加速をするんですけど、体験だけで言うと僕が乗っていたF3とかのレーシングカーよりも強い感触なんですよね。
【山崎】もうガソリン車には戻れない感じですか?
【五味】どれにも良さはあるので、改めて「ガソリンエンジンも凄いじゃん!」となる時もありますよ。今、世の中が一辺倒に行きがちな感じはするので、色々と選択肢が残って欲しいですよね。
【山崎】そうですよね。電気自動車のインフラの会社の役員なので言い辛い所はありますけど、僕も古い車が好きなので(笑) ただ、EVも買ってみなければと思って、探す旅に出始めた所なんですよ。
【五味】でも、旅に出る足取りはちょっと重いわけでしょ? 先に結果を言っちゃうと、旅に出る人は「EVの何がいいんだろう?」や「どれを買った方がいいんだろう?」みたいな状態では、あまり買わないほうがいい。
【山崎】そうなりますよね(笑)
【五味】ただ、BMWのIXに触れてみると、価値観が変わると思いますよ。僕が今まで、「テスラが凄い」と思っていたのとは違う、将来の電気自動車ですね。“部屋が移動している”、そういう感覚になりました。
【山崎】良い表現ですね。かなり気になります。
【五味】自動運転も含めて、将来的にメーカーがやりたいのは、“部屋を移動させる”ことなんですよ。リビングルームでくつろいでいるうちに、移動が始まって目的地についたら幸せじゃないですか?
【山崎】そうですね。
【五味】メーカーはそれを目指して電気自動車を作っているんですけど、その方向性のモデルが今まで1つも出ていなかった。全部、“クルマ”という感じだったんですよ。でもIXは、「部屋が移動しだした!?」というのを少し感じる。なぜそう感じるのかは、初めての体験なので、僕自身もまだよく分からないんですよ。ハンドリングが悪いとか、そういうのがある訳でもないですし……。あれは、面白いですよ。
【山崎】そういった感覚へのアップデートがあるのも、過渡期にあるEVの面白い所ですよね。
【五味】今は、ものすごく楽しい時代ですよ。クルマに限らず、生きている間にこれだけの変化を体験できるのは、すごく幸せだし、凄いことだと思います。
▶︎EVシフトが叫ばれても、「何が最も便利か」でクルマを選べば良い
【山崎】YouTubeチャンネルでは、水素燃料電池車についても取り上げていますよね。EVとかFCVの違いが、よく分かっていない人も多いと思うんですけど、どういうものか教えていただけますか。
【五味】水素燃料電池車も電動モーターで走っているので、電気自動車なんですけど、電気を積んでいる形が違うんですよ。バッテリーに電気を充電するのが、EVとかBEV。水素燃料電池車(FCV)はバッテリーではなくて、水素を燃料として動く発電機を積んでいるんですよ。だから、水素を燃料に発電をして、電動モーターで走っているんです。
【山崎】なるほど。
【五味】日産のe-POWERも、大きい目線で捉えたら、電気自動車と言ってもおかしくないんですよ。あれも、電動モーターでしか走っていないんです。その電動モーターを、バッテリーでも水素を使った発電機でもなく、ガソリンを燃料にエンジンが発電機を回して電気をつくって回しているんです。
エネルギー効率や駆動抵抗、その他の要因を考えても電動モーターはとても良いものなので、モーターに電気供給する方法がいくつもあるんです。そこに、“ガソリンを使った発電機”“水素を使った発電機”“携帯電話のようなバッテリー”もあるという話です。
【山崎】どれが、良いとか悪いとかはあるんですか?
【五味】それは、国のエネルギー戦略が関わってくる部分が大きいですね。だから、僕たちエンドユーザーが大事にすべきなのは、自分がクルマを使う移動圏内で「何が最も便利なのか」ということ。僕はMIRAIという燃料電池車を持っているんですけど、家の近くに水素ステーションがたくさんあるんです。都内だったら、少し走ると水素ステーションがある。僕も家から1kmくらいにあるので、すごく楽なんです。
【山崎】水素ステーションって、そんなにたくさんあるんですね。
【五味】家で充電ができる人は家にガソリンスタンドがあるのと同じになるので、「いわゆる電気自動車で良いよね」となるし、家に充電器を置けないし近くに水素ステーションも無いとなると、「ガソリン車が良いよね」ということなんですよ。
【山崎】うちは、充電器も水素ステーションも無い(笑) 環境を見てから、次に買う車を選べば良いという事ですね。
【五味】そうです。極端な話をすると、最終消費者はお金を出す側なので、1番偉いじゃないですか。だから、EVにすごく行っているような流れであっても、 “最も贅沢”で良いんですよ。その贅沢というのは、“わがままで良い”という事。今、自分が最も使いやすいクルマを素直に選び、その中からカッコイイと思うものを選べば良いという話なので、昔から何も変わっていないんですよ。
【山崎】確かにそうですよね。ただ、「次に買うなら、EVしかダメ」みたいな風潮になっている部分はありますよね……。僕も含めて“古い車が好きだ”という人も多いですよね。世の中から押しつぶされていくような気配も感じているんですけど、ガソリン車の未来をどう見ていらっしゃいますか?
【五味】現在売られているクルマが、これからクラッシックになっていきますよね。それらを乗り続ける楽しさという、新しい文化が出てくるのかなと。そして、電気の力を一切使わないピュアなガソリン車が、すごく貴重な存在になってくると思います。
今、クラシックカーに乗られている方は、かなりニッチな少数派ではあるんですけど、そこまで嗜好性が強くない人でも、ガソリン車を大事に乗り続けようという発想なのかなとも思います。でも、国はそれを止めたいはずなので、間違いなく税金とかは高くなる (笑) なので、今、ガソリン車を存分に楽しまないといけない。
【山崎】維持費はさらに高くなりそうですよね。
【五味】内燃機関で言うと、TOYOTAが一生懸命訴えていることもあるんですよ。CO2排出権が先物取引の対象にもなって高騰していますけど、要は“二酸化炭素さえ出さなければ良い”ということなんですよ。だから、バイオ系の合成燃料だったら大丈夫になる。という事は、ガソリン車のような内燃機関を持った“バイオ燃料車”みたいなのでも良いじゃないかという事をTOYOTAが訴えている。
【山崎】なるほど。“バイオクリーン車”みたいな事ですよね。
【五味】そういった考えで、エンジンという内燃機関が残り続ける可能性が、少しずつ出ているんですよ。ただし、それを認めたくない人たちもいる。
【山崎】なるほどね。でも、売ってしまったクルマを「明日から乗ってはいけない」という事は出来ないですよね。
【五味】出来ないです。それに、今持っているクルマを乗れなくすることは選挙に響くので、多分それはやらないと思います。でも、少しずつ税金を上げたりしながら、縛っていくと可能性はあると思います。
▶︎クルマという枠を超えた“E-Life”を求めるゼネラリストになりたい
【山崎】最後のパートは、みなさんにお聞きしている質問です。僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたらどんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【五味】自分のYouTubeでも言っているんですけど、クルマのラッピングに興味があるんですよ。
【山崎】僕、自分のクルマにしていますよ。
【五味】単色ですか?
【山崎】単色です。
【五味】あ~、山崎さんには単色で無いものをやってほしかったな(笑) クルマってなぜだか、単色で進化しているじゃないですか。僕は、あんなに大きいものが、単色である必要は無いと思っているんですよ。実際、最近のロールスロイスとかは、アクセントラインを入れたりして、結構色を変えたりしている。これが、1つの文化にならないかなと。
【山崎】そんな流れが出て来ているんですね。
【五味】クルマを長期保有するのは当然の話なので、1~2年経ったらカッティングで少し雰囲気やデザインを変えたり出来たら良いなと考えています。ボディ全部ではなく部分的にラインを入れるとか、 “クルマの模様替え”みたいな形を、コラボで実現すれば面白そうだなと思いますね。
【山崎】クラシックカーの時は、オールペンをしてから買うんですけど、乗りながら塗り直すのは、難しいですもんね。一部分だけを気軽に、着せ替え出来るのは良いなと思います。
そして、もう1つの定例の質問です。文化百貨店という、文化を伝える架空の百貨店で、バイヤーとして一画を与えられたらどんなものを扱いたいですか?
【五味】オフ会ではないですけど、人が集まれる環境を提供したいと思っていて、そういう場所をどうにか作りたいんですよね。クルマを楽しむことはドライブをするだけではなくて、そのドライブの先に「これがあるよ」というのが有れば良いなと。
【山崎】レーサーズ・カフェみたいな事ですか?
【五味】そういうイメージなんですけど、それをもっと同調する人たちだけで集まってというのを作りたいなと思いますね。
【山崎】YouTubeを通して、実現できそうですよね。
【五味】実は、それも企んでおります。
【山崎】最後になりますが、これから一層、EVの進化や自動車業界の変革が進んでいくと思います。そんな激動の中で、モータージャーナリストとして何を大事に発信していこうと考えていますか?
【五味】“嘘をつかず、真実を”に、尽きるかもしれないですね。情報が情報を呼び込むので、自然と情報発信者の所に情報は集まるんですよ。だから、僕が持っている情報は隠さずにどんどん出して、一人でも多くの人がクルマを買った時に笑顔になって欲しいなと思っています。そのための活動をしている感じです。
だから、スペシャリストではなく、“ゼネラリスト”でありたいと思っていて、今後はクルマという枠も取り除いて行きたいんですよ。今、YouTubeも含めて、『E-Car Life』という名前で、”Car Life”に限定しているんですけど、ここからCarを外して、『E-Life』みたいな所を求めて行きたい。
【山崎】その流れで、何か計画をしていることはあるんですか?
【五味】クルマをどう乗りこなすかという中に、着る服は相当関係があると思うんですよ。
【山崎】クルマと服ですか?
【五味】クルマと服の親和性は、とても高いですよ。僕は「あのクルマ、かっこいいな」と思った時に、乗っている人も見るんです。かっこいいクルマから、かっこいいスタイルの人が降りてきた時に、「超おしゃれだね!」ってなるんですよ。だから、良い生活・良い人生を送っている人を増やしたいなと思って、色々考えているんです。
ただ、服をどこで買ったらいいのか分からないというのが、結構多いんですよ。なので、“クルマに乗るなら、これ1着あれば”という発想をベースに、自分が今まで運転をしていて「こういう服があったらいいな」というのも含めて商品にに反映する、ブランドを立ち上げようかなと思っている所です。
【山崎】アパレルブランドですか?
【五味】そうです。junhashimotoの橋本淳さんと知り合いで、「アパレルを作る時に、相談に乗ってよ」と話したら、OKを貰えて進めています。
【山崎】カチっとしたブランドになりそうですね。
【五味】でも、みんなが着られるのが良いので、「junhashimotoみたいな価格は嫌だよ」という事は言っていて(笑)。カチッとした服だったら、junhashimotoの服を買えば良いので、カチッとしている中でもいかに崩せるかみたいな所ですね。
【山崎】確かに、クルマを起点に作られた服って思いつかないですね。いつ頃、出される予定ですか?
【五味】1月末~3月には。YouTubeでもお知らせします。
【山崎】もうすぐに発売になるという感じですね。皆さん、乞うご期待ということで。
2週に渡って五味さんとお話をして、無理なくクルマに向き合って行こうと思いました。みなさんも、ベストなカーライフが送れるように、五味さんのYouTubeをチェックしてください。今回のゲストは、モータージャーナリストの五味やすたかさんでした。
【今週のプレイリスト】
▶︎五味 康隆さんのリクエスト
『ベイビー・アイラブユー』TEE
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、新作『香川1区』が公開になるドキュメンタリー監督の大島新さんをお迎えします。
【次回1/23(日)24:30-25:00ゲスト】
ドキュメンタリー監督 大島 新さん
1969年神奈川県藤沢市生まれ。1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。毎日放送『情熱大陸』、NHK『課外授業 ようこそ先輩』などテレビ番組多数。2007年『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞)を監督。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年『園子温という生きもの』を監督。2020年公開の『なぜ君は総理大臣になれないのか』が、第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位に。プロデュース作品に『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞)など。
また日曜深夜にお会いしましょう!
Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中