横尾忠則さん、シティ・ポップ…海外より日本の文化のほうが面白かった青春時代【2021/5/2放送_公益財団法人日本デザイン振興会 理事 矢島 進二さん】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。先週に引き続き、公益財団法人日本デザイン振興会 理事 の矢島進二さんをお迎えして、デザインを含むカルチャー全般について、たっぷりお話をお伺いしました。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
公益財団法人日本デザイン振興会 理事 矢島 進二さん
1962年東京中野生まれ。大学卒業後、食品・雑貨関連企業を経て、1991年に現職の財団に転職。グッドデザイン賞、東京ミッドタウン・デザインハブを始めとする多数のデザインプロモーション業務を担当。
東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程、九州大学芸術工学部、東京都立大学大学院システムデザイン研究科、武蔵野美術大学デザイン情報学科で非常勤講師。毎日デザイン賞調査委員。
2016年から月刊誌『事業構想』で地域デザインやビジネスデザインを、2019年10月から月刊誌『先端教育』で教育をテーマに連載を執筆。2019年2月号『自遊人』では「ソーシャルデザインの軌跡」について寄稿。
【今週のダイジェスト】
▶︎シティ・ポップが流行っていた時代。海外より日本の方が面白かった
【山崎】今回は、矢島さんからご提案を頂き“文化にまつわるお話”をざっくばらんにお話をしていこうかなと思います。
【矢島】よろしくお願い致します。
【山崎】デザインやカルチャーの原体験を覚えていますか?
【矢島】幼少期に習字をやっていたので「文字ってきれいだな」と思っていた事があったんです。そして、小学校の美術の時間でデッサンをしていた時に、コカ・コーラのロゴマークに惹かれたんですよ。あとは、アルファベットの小文字の“a”の曲線に惹かれて、彫刻で造形を作っていましたね(笑)
【山崎】書道が始まりだった影響からなのか、タイポグラフィや文字に惹かれたんですかね?
【矢島】基本の“美しさ”というのは、そこからスタートしていますね。
【山崎】多感な時期が1970年代の中頃から後半だと思うのですが、青春時代に影響を受けた人はいますか?
【矢島】ヒップスターと呼ばれる人は、横尾忠則さんなんですよ。彼がデザイナーから美術家に転向したタイミングであったし、生き方や考え方が憧れでしたね。
【山崎】我々の世代からすると、美術家になってからの横尾忠則さんしか知らないのですが、どういう存在ですか?
【矢島】モーリス・ベジャールの舞台美術や、リサ・ライオンというパフォーミングアートの方をモデルにしたライブペインティングを観に行っていたんですよ。創作能力の異様な高さに、すごい刺激を受けていましたね。
【山崎】横尾さん然り、アラキー然り、石岡瑛子さん然り、あの時代の表現のエネルギーをどう見られていましたか?
【矢島】1枚のポスターからパッションを感じることはできましたよね。
【山崎】確かにそうですよね。海外のデザインやカルチャーはどうでしたか?
【矢島】情報はある程度見ていましたけど、海外より日本の文化のほうが面白い時代を過ごしていたので、多くは日本のアーティストのものでしたね。例えば、最近人気のシティ・ポップは、今あのクオリティの高さが再評価されていますが、あれが僕らの周りに普通にあった時代だったんですよね。
【山崎】今と情報の取り方や存在の仕方が違いますよね。
【矢島】そうですね。レコード1枚を大事にして針に通して聞いていた時代ですからね。
【山崎】昔の方が掘る能力にエネルギーに努力が必要だったし、文化度を高めるためにこちらも主体的に向かわないと情報が来なかったじゃないですか?今は、真逆で余計なものを除いていかないと、1つが深まっていかない感じがしますよね。
【矢島】どちらが良いか悪いは別にして、接し方は違うと思いますね。最近特に感じるのは、多くの人たちが10代後半、もしくは20代前半で聞いた音楽を一生聴き続けるじゃないですか?それって何でなんだろうなと思うんです。
【山崎】人格形成や価値観の大事なところに繋がっているんでしょうね。
【矢島】単純な記憶ではなく、紐づいた何かが音楽の魅力としてあるのかなと思いますね。
▶︎デジタルもアナログも1つのツール
【山崎】レコードやアナログカメラだったり、フィジカルなトレンドが再認識されたりしますけども、その繰り返しをどう捉えていますか?
【矢島】新陳代謝があるほうが良いと思っているので、“変わるものは変わる”、“残るものは残る”、“消えるものは消える”というのはありますよね。その中で、単なるノスタルジーではなく、良いものは廃れてもまた戻ってきて、繰り返されていくのかなという気がしますね。
【山崎】そうですよね。今、アートディレクションの仕事をしていて“画を決める”速さは、大学時代に専攻したフィルム写真で培われてきたと思うんですよね。フィルムは、限られた枚数の中で“どの瞬間に自分が世界を切り取るか”という判断が求められていたと思うんですよ。今は無尽蔵に撮れるんですけど、だからこそ“1枚を選択する判断力”が必要になっていると思うんですよね。
【矢島】確かに。無尽蔵というか、多くの中から選ぶというのは、その人のセンスが絶対出るので、経験値が有ると無いでは全く違うものになると思いますけどね。
【山崎】やっていることは、一見違うんですけど、実際は同じなんですよね。今の若い子たちも、同じ事をしていると思うと、クリエイティブとしては心強いし「まだ、俺もいけるかもしれない」と思うんですよ。デジタルの流れが加速した功罪をどのように見られていますか?
【矢島】デジタルやアナログ、もしくはリアルとバーチャルという区分けは僕の中にあまり無いので、正直分からないんですよ。どちらも1つのツールでしかなくて、良いものは良い、創造性の高いものは高いであって、 “デジタルだから”っていう意識があまり無いんですよね。
【山崎】それはデジタルとアナログというものに対してだけではなくて、世の中の多様性についてのスタンスでもあるんですかね?
【矢島】あるかもしれないですね。“モノ”のデザインと“コト”のデザインってみんな分けたがるんだけど、僕は最初から一緒でしか無いので、分けて考えること自体がナンセンスだと思っていますね。
▶︎“デザイン” という言葉が、もっと日常に溶け込んで欲しい
【山崎】昨年から、世界中が新型コロナウイルスで影響を受けている中で、デザイン業界にどんな影響が出てきていると思いますか?
【矢島】当然変わるんでしょうけれども、まだ終わっていない状況ですし、これからどうなるか全く分からないですね。皆が立ち止まって、足元を見つめ直しているのは間違い無いので、そこから本当に必要な物は残り、不要なものは消え去って、新しいことが動く兆しが出てきているように思います。
【山崎】デザイナーや、表現を生業にする人の意識も、少しずつ変わってきているような気がします。今、お話にもあったように「終わるのかな?」という空気が出てきていますよね?
【矢島】飽きているという部分もありますけど、まだまだ時間がかかると思うので、何とか乗り越えたいと思います。そして、その後の準備を今のうちにしないといけないと思いますね。
【山崎】次の時代の準備という意味では、僕が本格的にやり始めたのが、電気自動車の充電スタンドなんです。電気自動車への動きが盛んになってきている中で、今の充電器スタンドが車室に出たら、電線を空中に引いてしまった失敗をもう1回やるような感じで「風景が終わるな」と思ったんですよね。それを僕らの時代で止められるかもしれないと思って、去年から動き始めたんですよ。10年前には、こういう事をやるなんて全く思っていなかったですけど、社会をきちんと見なければといけないし、“デザインで何ができるのか?”という事を強く考えた時期でしたね。
【矢島】東日本大震災の後も、今から考えれば大きく変わっているわけじゃないですか?今回のコロナというのも、凄まじい影響を人間に与えると思いますよね。
【山崎】人間の変化と経済の動きが必ずしも一致しているわけではない事が、人間社会の難しいところであり、面白いところですよね。“デザイン”という意味がどんどん可変していると思うのですが、今後“デザイン”という言葉はどのように進んでいくと思いますか?
【矢島】“デザイン”が普通の言葉になったのも、ここ20年だと思うんですよ。ですので、更にその言葉自体が日常に溶け込んで行くような時代になってほしいと思いますし、僕は間違い無くなって行くと思います。
【山崎】小学1年生の授業に、美術や技術とは別で“デザイン”というものが出てくるかもしれないですもんね。
【矢島】そうなってほしいですね。創造性というのは、子供たちにとって、ますます重要になってくるような状況ですからね。
▶︎デザインに恋したアート。アートに嫉妬したデザイン
【山崎】最後のパートは、ゲストの方、皆さんに伺っていることをお聞きしたいと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【矢島】最近“デザインとアートの境界”について調べていて、それを展覧会に仕立てたいなという妄想を抱いているんですよ。山崎さんはデザイナーでありながら、アーティストでもあるわけですよね?この妄想で展覧会をやったら、そこでコラボレーションが出来るかなと思いました。
【山崎】それは、めちゃめちゃ楽しみですね。
【矢島】タイトルは勝手に決めているんですけど『デザインに恋したアート。アートに嫉妬したデザイン』。
【山崎】そのタイトルはサラッと言われましたけど、聞いて鳥肌立ちました(笑)
【矢島】良いでしょう?(笑)
【山崎】前に進めて、また遊びに来てください。ありがとうございます。そして、この番組のコンセプトである、文化を伝える架空の百貨店で、バイヤーとして一画を与えられたらどのようなモノを扱いたいですか?
【矢島】文化の系譜や流れを分かりやすくしたものを提供できないかなと思ったんですね。年表なのか、マップなのか、VRなのか、何か分からないんですけれども、時間軸で編集をして、整理をして、見えるような形のものが出来たら、自分が何より先に購入したいと思いますね。
【山崎】文化ってコンテクストが重要だし、そこが面白いところじゃないですか?それがたくさん入っている場所があったら、めちゃめちゃ良いですよね。最後になりますが、現在募集をされている2021年度グッドデザイン賞について教えてください。
【矢島】今年は5月26日まで受付をしています。過去のグッドデザイン賞の審査員の方たちの視点や受賞者の作品を動画配信していますので、興味があったら見ていただきたいと思います。新しい可能性・魅力に溢れた、物事の本質をついたデザインに出会える機会になっていますので、ぜひ多くの方々に参加していただきたいです。
【山崎】“デザイン”という言葉が独り歩きしたり色んな意味を持っていたりするんですけど、その時代での“言葉のラベル”でしかないという感覚でもあるんですよね。その中で、社会がちょっと良くなるモノだったり、新しい価値観といった共通した背骨みたいなのがあるんですよ。その一定のフィルターみたいなものが集まっているグッドデザイン賞というのは、すごく大きな取り組みだなと思いますね。
今回のゲストは、公益財団法人日本デザイン振興会・理事の矢島進二さんでした。ありがとうございました。
【矢島】ありがとうございました。
【今週のプレイリスト】
▶︎ 矢島 進二さんのリクエスト
『Chiristmas Tree』吉田美奈子
▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『C’est Charles』Aksak Maboul
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、ソロプロジェクト [.que]を中心に活動をされている音楽家のカキモトナオさんをお迎えします。
【次回5/9(日)24:30-25:00ゲスト】
音楽家 [.que]カキモトナオさん
徳島県出身。カキモトナオによるソロプロジェクト。2010年より[.que]名義で活動を開始。 新たなる『日本』から発信される才能、フォークトロニカの新星として活動初期より注目され、一聴して伝わるメロディー、美しい楽曲は世界中から大きな賞賛を浴びている。 近年ではインストゥルメンタル作品のみならず、作詞作曲編曲のすべてを手掛け、枠に捕われない自身の音楽性を発揮。 作品のみならずCM音楽、空間演出音楽も多く手掛け、その他楽曲提供やリミックスなど活動は多岐に渡り様々なコラボレーションを行っている。 ライブではフェスへの出演、海外アーティストとの共演、また2017年には初の海外ツアーも経験。 バンドルーツを感じさせる楽曲、パフォーマンスに魅了される人も多く、さらなる活躍が期待される音楽家である。 常に「今、鳴らしたい音」を表現し続けている。
また日曜深夜にお会いしましょう!