グッドデザイン賞は、デザインを“プロモーションをする一つの運動体”【2021/4/25放送_公益財団法人日本デザイン振興会 理事 矢島 進二さん】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週は、公益財団法人日本デザイン振興会 理事 の矢島進二さんをお迎えして、日本デザイン振興会自体や、主催するグッドデザイン賞について、たっぷりお話をお伺いしました。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
公益財団法人日本デザイン振興会 理事 矢島 進二さん
1962年東京中野生まれ。大学卒業後、食品・雑貨関連企業を経て、1991年に現職の財団に転職。グッドデザイン賞、東京ミッドタウン・デザインハブを始めとする多数のデザインプロモーション業務を担当。
東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程、九州大学芸術工学部、東京都立大学大学院システムデザイン研究科、武蔵野美術大学デザイン情報学科で非常勤講師。毎日デザイン賞調査委員。
2016年から月刊誌『事業構想』で地域デザインやビジネスデザインを、2019年10月から月刊誌『先端教育』で教育をテーマに連載を執筆。2019年2月号『自遊人』では「ソーシャルデザインの軌跡」について寄稿。
【今週のダイジェスト】
▶︎デザインの社会的価値を上げるための組織
【山崎】僕が2年間だけ代理店に勤めていた時に、上司に紹介してもらったのが矢島さんとの出会いですかね。当時は、ペーペーだったんですけど、そこから、ずっと仲良くしていただいています。今日は、よろしくお願いします。
【矢島】よろしくお願いします。
【山崎】まずは、日本デザイン振興会について教えていただけますか?
【矢島】1969年に設立された、デザインを通して産業・経済・文化・社会をよりよくする事がミッションの団体です。日本には様々なデザイナー協会やセンターがありますが、オールデザインで最初からやっているのはうちだけになります。
【山崎】日本のデザインの成り立ちや、デザイン自体をずっと下支えしてきた機関だと思いますが、普段はどういったお仕事をされているのですか?
【矢島】広く親しまれているグッドデザイン賞の主催を中心に、現在は東京ミッドタウンにデザインハブというスペースをお借りしての活動や、展示やイベントの企画・立案・運営といった形で、様々な方々とコラボレーションをしています。直近で言えば、去年はデザインのプロモーション・プロデュースの育成事業で旭川へ行きました。
【山崎】旭川でのデザインのプロモーションというのは、どういう事ですか?
【矢島】地元の担い手を育てようという事と、デザインがビジネスにどういう形で関われるのかという視点を持った人達をたくさん生み出そうという事を目的に、実践研修をやっていました。
【山崎】教育とかワークショップに近いんですかね?
【矢島】そうですね。他には、マガジンハウスが新しく立ち上げた“福祉とクリエイティブ”というテーマのWebマガジンの連載枠頂いたので、そこで新しいデザインの動きを取材するような仕事をやっています。
【山崎】福祉とデザインとかクリエイティブって、旬のトピックというか、ようやくデザインの潮流がそこに来たのかという感じがするんですけど、その中で何をされているのですか?
【矢島】グッドデザイン賞の中で、福祉的な新しいアプローチをやっているクリエイターや機関、NPOを紹介・取材をさせていただいて、原稿と写真でアウトプットしていこうとしているところです。僕が取材へ行って、原稿を書いてということをやっています。
【山崎】色んな事をされていると分かりました。全体的に言うと、デザインに幅広く関わることや、デザインの社会的価値を上げるための業務をされているということですかね?
【矢島】おっしゃる通りですね。「デザインって、いいよね」とか、「そういう仕事に就きたいよね」という機運を盛り上げていくというのが役目になります。
▶︎求められているのは、デザインが“社会のブリッジ”になること
【山崎】1991年に日本デザイン振興会に入社されて、ちょうど30年ですよね。その間に、 デザインという言葉がどんどん広義になって、最近では“デザイン経営”や“人事をデザインする”というような曖昧な言葉もあったりします。30年に渡って、日本のデザインの変遷を見られてきて、思い出に残っている出来事はありますか?
【矢島】デザインの「定義が広がっている」とか「よく分らなくなっている」というお話やご意見も頂くのですが、「本当にそうなのかな?」と考える部分も多いわけですよ。例えば、バウハウスは家具や工芸、建築にアート、テクノロジー、もしかしたら社会運動的な意味も含めた形で”デザイン”と読んでいたわけですよ。それが、ある時から分化してしまった。その分化が、今になって統合されているようなイメージで捉えたほうが正しいのかなと、個人的には思っています。
【山崎】確かに、その視点は良いですね。日本デザイン振興会の中でも、“デザイン”という言葉の定義が時代に応じて変わったりしていますか?
【矢島】こちらが決めたりするのではなく、皆さん自身が”デザイン”だと思えば、意思を尊重するという形ですかね。僕らが、“後ろから付いていく”ようなものと思ったほうが良いかもしれませんね。
【山崎】言葉にするのが恥ずかしいんですが、“デザイン携帯”や“デザイン家電”が好きだったし、めちゃめちゃ流行ったじゃないですか?
【矢島】でも、デザインをしていない携帯や家電は、無いですからね。
【山崎】そうなんですよ。そのズレは、言葉にするからこそ出てしまうことがあると思うんです。全体の下支えをする身として、そういった違和感にどうやって向き合ってきたんですか?
【矢島】基本は、良い・悪いを含めて“デザイン”という言葉が、数多く流出することは良い事だと思っているんですよ。“デザイン○○”と言うのを含めて、そこから認識をしてもらって「デザインって何かな?」って、考えてもらえばいいわけですから。基本は否定はしないで、”それで本当にいいのか?”みたいな部分を考える方がいいのかなと思っていますね。
【山崎】そうですよね。色んな所で、触れられることはいいことですもんね。最近は”ビジネスデザイン”や、”ソーシャルデザイン”という色んな言葉も出ていますけど、今デザインに求められていること、社会にとってデザインが出来る事は何だと思いますか?
【矢島】デザインがブリッジ役になることが必要かなと思っています。例えば、ビジネス×デザイン、社会課題×デザイン、市民運動×デザイン、もしくはアート×デザインと社会の色んな面と繋がることで、新しいデザインも広がっていくでしょうし、各々もより魅力的なものに確実になっていくと思いますね。最近は、そういう活動が多いですね。
【山崎】そういう最先端の事例が、たくさん集まってきていますもんね。
【矢島】そうですね。例えば、昨年内閣府が成長戦略実行計画に、初めて”デザイン”の4文字を入れたんですよ。あと、2025年に開催される大阪万博は“いのち輝く未来社会のデザイン”がテーマなんですよ。そういった形で、デザインが表に出てきているわけですし、新しい担い手もたくさん出てきているので、そのバックアップをしたいなと思いますね。
▶︎グッドデザイン賞は、デザインを評価してプロモーションをする運動体
【山崎】日本デザイン振興会のメイン事業が、グッドデザイン賞ですね。デザイン業をやっていると「グッドデザイン賞って何?」と聞かれる事も多いんですけど、どういった賞なのかご紹介いただけますか?
【矢島】1957年スタートした日本・アジアを代表するデザインを評価する仕組みなんです。ただ評価するだけではなくて、”プロモーションをする一つの運動体”であるという所が、一番のキモになる部分かなと思います。例年ですと、国内外から5000件弱のエントリーを頂いて“、約90名の専門家の方々にディスカッションしていただく。その時代の“グッド”を見出して、アワードという形で表彰すると共に、社会にアウトプットする活動となります。
【山崎】「色んな所が獲っているな」というイメージを持っている人も多いと思うんですけれども、量を出す理由はありますか?
【矢島】”一つの運動体”とした時に、ある程度の量は必要だというとこですね。一つのプロダクトだけだったら何にもならない。5000件弱応募があって、約1200~300件受賞をされるので、パーセントにすると28%くらいなんですよ。簡単に獲れるようで、かなり厳しいので、そこを誤解される人が多いかなと思います。
【山崎】年代を超えて受賞した時のGマークを繰り返し使えたりするから、そういう錯覚に陥ることもあるかもしれないですよね?
【矢島】そうですね。領域も、プロダクトや建築から、ビジネスモデルというようなジャンルの広さなので、やや見え辛く映ってしまっているかもしれませんね。
【山崎】広義な価値観で、グッドデザイン賞が与えられているので、そこへの理解が進むと誤解が解けるような気がしますけどね。今の日本のデザインシーンにとって、グッドデザイン賞はどのような役割を持っていると思いますか?
【矢島】65年前から、その時代や社会にとって“グッドとは何なのか?“というのを見出すのが1つの役割なので、そこは全く変わっていないかなと思います。今の時代は特に100%全員が一致するような正解がある状況ではありませんので、 “自分にとって何が良いのか?”と、考えるきっかけをグッドデザイン賞を通して投げかける。それを受け取った人が、「違うんじゃない?」とか「そうだね」という反応をキャッチボールする機能を持っているのかなと思いますね。
【山崎】価値観の提言ですよね。先程の話は、デザインが広義になっているという話でしたけれども、グッドデザイン賞と聞くと「デザインの賞」だとか、「ものをつくる人の賞なんでしょう?」と言う人たちもいると思うんですけど、ものをつくらない人たちも応募が出来るという理解でいいですか?
【矢島】定義をしていないので、皆さんが“デザイン”だと思っていただいたものは基本的に応募していただいています。過去の受賞作も全て公開していますし、ここ十数年は、全ての受賞作の理由を公開しておりますので、どういう所が“グッドと評価されたのかという所も見ていただきたいですね。
【山崎】最近はどういう“グッド”の傾向がありますか?
【矢島】例えば昨年ですと、上位の賞に選ばれたのは、サーキュラーエコノミーやシビックテック等、今もしくは、これからの社会に必要なものが高い評価を得たのは間違いないですね。また、大企業だけではなくて、地域で頑張っている企業やスタートアップ系の企業といった方々も、デザインを最初から考えて取り入れているケースも多いので、顔ぶれも昔と比べると変わってきているのかもしれませんね。
【山崎】価値観が揺らぎ始めているからこそ、新しい概念を出すのもデザインの大事な役割じゃないですか。そういう意味では、色んな分野で時代を変えていく機会になるのかなという気がしますね。
【矢島】あとは、グッドデザイン賞の中で“フォーカスイシュー”と呼んでいる横断的なプロジェクトで、色んなテーマを掲げているんですけど。そこで、新しいデザインの兆候や広がりをディレクターの方々に言語化をしてもらって情報公開しています。
【山崎】ありがとうございます。2021年度のグッドデザイン賞へ期待する部分などがあれば、お願いします。
【矢島】これまでのものに留まるのではなくて、次の未来のためのチャレンジを、ぜひ提示いただきたいと思います。そして、グッドデザイン賞を通して多くの方々と一緒に、前に進めるようなものをやっていきたいと思いますので、少しとでも興味があれば参加していただきたいです。応募をされなくてもウェブサイトを見ていただくと、色んなヒントが隠されていると思います。今年のグッドデザイン賞はどんなものが集まるのか、すごく楽しみにしています。
【山崎】デザインは、デザイナー自身やデザインに関わる人達の中でも、多様性のある概念だったりするんですよね。でも、個人的には、そこが「デザインの一番良いところだな」と思っていて、その曖昧の中から新しい価値が出てくるという余白に溢れているんですよね。でも、グッドデザイン賞について、矢島さん“運動”という表現をされたのは、すごく腑に落ちるところがありました。本日のゲストは、公益財団法人日本デザイン振興会・理事の矢島進二さんでした。ありがとうございました。
【矢島】ありがとうございました。
【今週のプレイリスト】
▶︎矢島 進二さんのリクエスト
『けもののなまえ』ROTH BART BARON
▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『Point of View』Kjetil Mulelid
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、デザインを含むカルチャー全般について、矢島さんと共にざっくばらんな対談をお送りします。
【次回5/2(日)24:30-25:00ゲスト】
公益財団法人日本デザイン振興会 理事 矢島 進二さん
また日曜深夜にお会いしましょう!