コーディネートの中の”本物のスパイス”として、装飾品に魅せられた。【2022/2/6放送_アクセサリー主治医・鍛造作家・コンセプトデザイナー シマダ カツヨシ】
Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。
2月6日の文化百貨店のゲストは、アクセサリー主治医・鍛造作家・コンセプトデザイナーという立場から、装身具のサイズ感による悩みを解消するための活動などをされているシマダカツヨシさん。今週は、その活動について伺っていきます。
【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy)
【今週のゲスト】
アクセサリー主治医・鍛造作家・コンセプトデザイナー シマダ カツヨシさん
1977年生まれ。20年に渡りファッションデザイナー・スタイリストという立場で日本の物づくり現場と関わる。時代を越えたアンティークに触れることがきっかけとなり、身に着ける人の物語や思想・哲学を表現することに魅力を感じる。装身具を通した表現をスタートさせる。2019年は【FIGARO JAPON】【ELLE MARIAGE】のリフォームのスペシャリストに選出。装身具のサイズ感による悩みを解消する為に鍛造作家となる。永く育む装身具を届けるPOP-UPを開催。経歴や活動はインスタグラムでご確認ください。
【今週のダイジェスト】
▶︎装身具の時代と共に変化するデザイン様式に魅せられた
【山崎】この番組は、比較的ニッチな話をしているので、知的好奇心が旺盛な大人のリスナーの方が多いのかなと思っているんですけど、普段アクセサリーを着けていますか?特に男性は、そういうものから段々と縁遠くなる人も多いですけど、僕は結構アクセサリーを着けていて、今年40歳になるのにまだピアスを着けていたりします(笑)
去年だったか一昨年に出会って、よく着けているものが、腕時計をモチーフにしたブレスレットなんです。カルティエのタンクみたいな四角い形なんですけど、時計に見えて時計じゃないというもの。時計も好きなので、日替わりで着けているのですが、そのローテーションにこのブレスレットも入っています。
今回は、その時計型のブレスレットを作った方をお迎えしています。シマダカツヨシさんです。よろしくお願いします。
【シマダ】よろしくお願いします。
【山崎】実は、シマダさんとのお付き合いは長いんですけど、ファッションデザイナーやスタイリストとしてキャリアを歩んで来て、最近は装身具(アクセサリー)を通した表現をされています。なぜ、装身具に興味を持たれたのですか?
【シマダ】原点と言えるのは専門学校の卒業旅行で、友達とヨーロッパやアメリカへ行った時ですね。フリーマーケットや蚤の市で、1800年代頃の装身具に出会ったんです。経年変化もあるんですけど、持った時の存在感とかが違っていて、小さい指輪でも時代と共に変化しているデザイン様式というのをすごく感じられたのがきっかけですね。
【山崎】昔から、時代を内包するとか時間性があるものに魅かれていたんですか?
【シマダ】“ないものねだり”みたいな所が、あったかもしれないですね。洋服の世界に長く居たので、“本物のスパイス”として200年前のものをコーディネートするという楽しみも、装飾品に魅かれたきっかけでもあります。
【山崎】ファッションが“今”をずっと追いかけるものだから、時間を超えてきたものに魅かれるのかもしれないですね。
▶︎依頼者の記憶からデザインのベースを抽出する“RE_FINE”
【山崎】最近は、SHIMADANTIQUES、KATSUYOSHI SHIMADA、_TOKI_という3つの活動を同時に展開されていますけど、それぞれ内容を教えていただけますか。
【シマダ】SHIMADANTIQUESは、“古いものを作り直して、現代に届ける”というオーダーメイドをしています。KATSUYOSHI SHIMADAは、“皆さんの手首に合わせたバングルを届ける”というもので、_TOKI_は先ほど晴太郎さんにお話し頂いた“時計の形をしたブレスレット”を提供しています。
【山崎】SHIMADANTIQUESが、一番長くやっているんですよね?
【シマダ】今年で、12年ですね。
【山崎】SHIMADANTIQUESの軸の1つが、“RE_FINE”というもの。これは、アクセサリーのリフォームという捉え方で良いんですか?
【シマダ】そうですね。リフォーム、作り直し、リメイクという方が、認知がされていると思います。
【山崎】言葉だけではイメージが湧きにくいと思うんですけど、“古いものを磨き直す”とかでは無いんですよね。
【シマダ】そうですね。全く形を変えてご提供しています。例えば、指輪だったものをネックレスにしたり、逆にネックレスを指輪にしたりだとか。
【山崎】ネックレスだったものを指輪というのは、ネックレスのチャームがリングにくっつくという事ですか?
【シマダ】そういった場合もありますし、同じ金属のチェーンと石を止めている台座を溶かしてリング状にして、それに石を付けて仕上げるという場合もあります。
【山崎】土台は一緒だけど、姿形は変わっちゃうということなんですね。リメイクやリフォームなど色々な言い方がある中で、“リファイン”と呼んでいる理由はありますか?
【シマダ】正直に言うと、イメージの部分を最優先して言葉を選んでいるんですけど……。リメイクという言葉だと、どうしても布製品のイメージやカジュアルな印象が強いんですよね。僕の場合、素材もゴールドやプラチナがほとんどで価格もある程度してしまうので、より前向きに日々が楽しくなるような意味を込めて“RE_FINE”。「良いものにしていく」みたいな、造語というかそういった表現をしています。
【山崎】どういったオーダーが多いんですか?
【シマダ】祖父母や両親のものを受け継いで、それがそのままが使えるならいいんですけど、どうしてもサイズが合わなかったり、トレンドがあったりするので、“現在のライフスタイルや好みに近づけて欲しい”というご依頼に沿って、リファインする事が多いですね。
【山崎】完成形をスケッチしたりしてから、作っているんですか?
【シマダ】指輪の場合だと手の俯瞰写真をいただいて、それにデザインしたもののイラストを合成して、まずはご提案します。次に3DのCADを使って立体的にしたデザインを確認いただき、それにOKが出てから、ものづくりがスタートをするという感じですかね。
【山崎】かなり丁寧にコミュニケーションを取っているんですね。リファインをする時に、大事にされていることはありますか?
【シマダ】意識をしていることは、3つありますね。1つが、ご依頼者の生き方やライフスタイル。2つ目が、その方の好みのデザインや趣味。3つ目は、その方の記憶ですね。
【山崎】記憶?
【シマダ】楽しかったり、気持ち良かったりした“過去の経験の記憶”を今でも持ち続けているようだと、そこを抽出してデザインのベースにしたりします。昔好きだったモノって今でも変わらなかったりして、そこがコアなアイデンティティだったりする場合もあるので、そういったもののイメージを具象化していくというようなこともやっています。
【山崎】その考え方は面白いですね。残念ながら僕は継いだジュエリーが無いので、すぐにお願いできそうにないな……。
SHIMADANTIQUESのもう1つの軸が、ブライダルリングのオーダーメイドですね。ブライダルリングは、いつごろからやられていますか?
【シマダ】ブライダルリングも、SHIMADANTIQUESを始めた頃から依頼いただいていますね。初めは、古いカフスリングなんかをリファインをして指輪やネックレスをつくっていたんですけど、その雰囲気とかを気に入っていただいて「ブライダルリングを作ってくれないですか?」というオーダーをいただいていました。
【山崎】そんなに前から作っていたんですね。オーダーメイドのリングづくりをされる事が多いと思うんですけど、指ってそんなにみんな違うんですか?
【シマダ】指も手首も、全然違うんですよ(笑)
【山崎】そうなんだ……。指の違いは、あまり意識したことが無いなぁ。
【シマダ】みなさん、指や手首の形状が意外と違っていたりするので、ちょっとしたコンプレックスを持っている方も結構多いんです。僕は、指の関節が太いので、関節を通るようにサイズを選ぶと、指輪が止まった部分に合わなくてクルクル回転したりするんです。みなさん細かい所で「既成のものに合わないな」という事はあるみたいですね。
【山崎】潜在的には、みなさん色々と装飾品についての悩みを抱えているんですね。
【シマダ】自分の特徴というか、違いというか……、意外と気にされている方はいらっしゃいますね。
▶︎長い時計の歴史の中への新たな提案 時計型のブレスレット
【山崎】2019年にシマダさんが立ち上げたのが、_TOKI_ですね。オープニングで紹介したように、僕も使っているんですけども、これはどのようなきっかけで始められたのですか?
【シマダ】収集はしていないんですけど、古い時計が大好き過ぎて始めたものですね。時計の歴史の中で、何か新しい提案が出来ないかなという事でスタートさせました。
【山崎】プロダクトを最初に見た時、感動したんですよ。「時計で時間を見ていない」とか、でも「男性が着けやすい装身具は時計ぐらい」とか色んな論調がある中で、時計というものが持っている“時を超えていくプロダクト”とか“素材としての時計”という概念だけを抽出して、現代に落とし直したなと感じたんです。だから、すごく素晴らしいコンセプトと作品だなと思っています。このプロダクトは、文字盤にあたる所のサイズが小さいですよね?
【シマダ】現代の感覚でいうと、とても小さいと思います。
【山崎】参考にしたモデルがあるんですか?
【シマダ】カルティエのタンクを、アンティークを扱っている時計屋の人から一時的に預かって、最先端の3Dスキャンでスキャンをして、原形をつくっている感じです。
【山崎】なるほど。それを選んだ想いはあるんですか?
【シマダ】今は、角型と丸型という2型で展開をしていて、丸型の方はパテックフィリップのカラトラバというものを参考にしています。角型のタンクと丸型のカラトラバの2つが、20世紀を代表する完成されたモデルと言われていて、どちらも革新的なデザインのアプローチがあって、今でも販売されているという物なんですけど、そういった歴史上の文脈を「どうやって新しく提供できるか?」と意識してやっていますね。
【山崎】ベルトは革ですけど、そこへのこだわりも有りますか?
【シマダ】デザインという意味では、金属に革ベルトを合わせるとカジュアル感が出るんですよね。全てが金属よりは、ギラつき感も抑えられるので、トータルのコーディネートとしてより合わせやすくなるという意味がありますね。
もう1つは、デジュー種というリザードの細かい革を合わせることで、上品なカジュアル感もありながら、スーツでも合わせられるような幅の広さというんですかね。コーディネートのしやすさという事で、革ベルトを選んでいます。
▶︎接地面を減らして着け心地を軽くしたバングル
【山崎】そして、2020年に立ち上げたのが、ご自身の名前を冠したKATSUYOSHI SHIMADA。こちらは、バングルを中心に展開をされているんですね。バングルを選んだきっかけは、何だったんですか?
【シマダ】装身具を楽しむ上で、カジュアルに誰でも楽しめるものが展開できないかなと思っていたんです。洋服をやっていた時に、指輪よりもバングルの方が合わせやすいだろうなと感じていたので、そういった所からスタートしています。
【山崎】その中で、どのようなコンセプトで展開しているんですか?
【シマダ】鍛造という製法でつくっています。0から10まで自分が金属を叩いて、締めて、形を変えてつくっています。あとは、手首が小さい方から大きな方まで、“全ての手首の形状に合わせてオーダーメイドでつくる”というのをコンセプトにしていますね。
【山崎】オーダーメイドでつくっているという事は、それだけ手首の骨格や筋肉が全然違うという事ですよね?
【シマダ】面白いくらい違いますね。手首が小さくて悩まれている方もいらっしゃいますし、骨格がしっかりしているので一般的に売られているものだと小さくて入らないという方もいらっしゃいます。あとは、特徴としては楕円形の人が7割くらいなんですけど、あとの2割は厚みもあって角張っている人、もう1割は真ん丸に近い形の方もいらっしゃるんですよ。
【山崎】それに合わせてつくっていくんですね。バングルをオーダーした事が無いので、オーダーメイドだと何が変わるのか想像がつかないんですけど……。
【シマダ】サイズ調整の必要が無いですし、着けていただいた方は「着け心地がすごく軽い」と仰いますね。着用感が無いと言うんですかね。
【山崎】それを聞くと、つくりたくなりますね(笑) その人に合うようにつくると、そういう感覚になるんですか?
【シマダ】サイズが合っているという事も大きいと思います。あとは、肌との接地面を一般的なアクセサリーやバングルとは少し変えています。だから、2つの要因があると思いますね。
【山崎】“接地面を変える”とは、どういうことですか?
【シマダ】一般的なバングルや指輪は、接地面が肌に対してフラットなんですよ。平らなほうが作りやすくて、コストもかからないんです。僕がつくっているバングルや指輪は、かなりきつい丸になっていて、肌に触れる接地面を1/3ぐらいにしているんです。
【山崎】なるほどね。それって、他のブランドではやっていないんですか?
【シマダ】恐らく、どこもやっていないと思います。
【山崎】この話だけでも、買いたくなりますね。ご紹介いただいたSHIMADANTIQUES、_TOKI_、KATSUYOSHI SHIMADAの全てで、“永久保証”を付けていらっしゃいますけど、これにはどんな想いがあるんですか?
【シマダ】装身具を迎え入れていただいた方との時間軸を、なるべく長く持ちたいという想いがあるんです。ファッションデザイナーをしていた頃は、どうしても関係性が短かったので、そういった経験が今に繋がっているのかなと思います。メンテナンスは、いつでも出来ますし、あとは気分が少し変わって「記念に石を加えたい」などの対応も出来ますよという感じです。
【山崎】素晴らしい関係性ですね。この収録終わりに、オーダーをさせてください!今週のゲストは、アクセサリー主治医・鍛造作家・コンセプトデザイナーのシマダカツヨシさんでした。
【今週のプレイリスト】
▶︎ シマダカツヨシさんのリクエスト
『野に咲く花のように』ダ・カーポ
といったところで、今週の『文化百貨店』は閉店となります。
次回もシマダさんをお迎えして、今のような表現や思想にたどり着いた経緯をお伺いします。
【次回2/13(日)24:30-25:00ゲスト】
アクセサリー主治医・鍛造作家・コンセプトデザイナー シマダ カツヨシさん
また日曜深夜にお会いしましょう!
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