文果組インターン生による北先生インタビュー第1弾
文果組インターン生で「本多静六 若者よ、人生に投資せよ」(実業之日本社)の著者、「永遠の森」脚本の北康利先生にインタビューをさせていただきました。
Q. なぜ本多静六博士に興味を持たれ、題材として取り上げようと思ったのか、お話いただけますか?
そもそも僕がどうして評伝作家になったのかというところからお話ししていきたいと思うのですが、僕はこの国が戦後、他人を批判することに汲々とし、成功者に嫉妬する人で溢れている現状を深く憂慮してきました。そして「人を尊敬する」「恩を忘れない」「感謝をする」といった、人間が健全に成長し、社会が明るい未来に向かっていくための原動力となるはずの美質が失われていることに深い危機感を抱いています。そこで、自分が得意な歴史の分野や文章を書くことを通じ、この国の片隅に灯をともそうと、蟷螂の斧ではありますが「一燈照隅 萬燈遍照」を掲げて評伝を書いてきました。
1年に1冊出版するのがやっとという、実に生産性の低い仕事ですが、この国にとって何より大切なことだという使命感と、書くのが大好きだという本多博士言うところの「職業の道楽化」が僕の支えでした。そんな僕の道楽の一つは、すぐれた人と接し、知識が陳腐化しないように生きた知識を吸収し続けていくことなのですが、今回の公演の協賛もされているレオス・キャピタルワークス株式会社の藤野英人社長とたまたま話していた時、「北さん、本多静六って面白い人ですよ」という話題が出たんですね。次に評伝書くならこの人なんかいいんじゃないですかって。藤野さん自身とっても面白いひとなので(笑)、その藤野さんが言うのならどんなに面白い人なのかなと興味を持って調べ始め、「これはすごい!今の日本人に学んで欲しいこと満載じゃないですか!」と盛り上がって、その勢いのままレオスさんが運営しているひふみラボnoteでの週1回の連載が始まったんです。この連載に加筆修正したのが私の新作『本多静六 若者よ、人生に投資せよ』というわけです。出版元の実業之日本社さんも藤野さんからのご紹介なんですが、ここの創業者と本多静六博士はとても深い絆でつながっているんですね。そしてそのことを今でも大切にしておられる。まさに「恩を忘れない」という、僕が復活させようとしている美質を持っておられることを知り、すぐに実業之日本社さんから出していただこうと即決しました。
本多静六博士の人生は、本当に人間が生きていく上でのお役立ちノウハウの塊なのですが、一方でそのノウハウがまったく色あせておらず現代に通じるものなのです。例えば、SDGs、ESG投資、サスティナビリティ、ウェルビーイング、レジリエンスなどという、最近よく聞く横文字の言葉を学びたい人は、その実践者としての本多静六の人生をよく味わうべきだと思います。面白いほど彼の行動の中に答えがある。あと忘れてならないのが、彼の老後の過ごし方の指南が抜群だと言うことです。最近、団塊の世代が引退し始め、週刊誌などの特集も老後をどう過ごすかという内容一色ですよね。実は本多博士が人生で一番輝いていたのは老年期なんです。これって素敵だと思いません?彼は「楽老期」と表現していますが、彼の著書『人生計画の立て方』の中で「楽老期をどう過ごすか」という章を立て、老境の生き方・暮らし方の秘訣について、まず何より、老いたら負けであるように考えず、老いの到来を素直に認めることだと言うわけです。これだけでもシビれますよね。そしてこう語るわけです。「普通の養生法と健康法を励行しながら、愛欲も抑圧せず、自然な老人化に任せること。可能なら、後進の邪魔にならない程度に壮年期の仕事の一部を奉仕の精神で継続するのもいい。そして早くから陰徳を積み、老年期はその陽報がもたらされるのを、〝あっても良し、なくても良し〟という気楽な気持ちで楽しむことだ」この彼の言葉が、もう還暦を過ぎている今の僕を支えてくれています(笑)
彼が福沢諭吉の言葉として「老人は若者に接せよ、若者は老人に接せよ」と言っています。老人はできるだけ若い人たちに自分が築いてきたノウハウを伝えていく、逆に若い人たちは老人たちの意見を聞きながら自分を成長させていく。彼はお金を貯めるだけでなく、人生の知恵を貯めていった人なんだと思いますね。まあ、これだけ暑苦しく(?)語れば、どうして僕が本多静六を取り上げたか十分おわかりいただけたかと思います(笑)