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Q&A 学んで楽しい哺乳類

昨年の12月18日に、『はじめて学ぶ哺乳類』の刊行記念として、オンライントークイベント「学んで楽しい哺乳類」を実施しました。イベントでは著者である山本先生(日本獣医生命科学大学教授)に対して、リスナーの皆さまから多くのコメントや質問をいただきました。

残念ながら、イベントの時間内では、すべてのコメントを紹介することはできなかったのですが、掘り下げると学びがありそうなものがたくさんありました。

そこで、イベントの中で紹介しきれなかったコメントをいくつかピックアップし、山本先生からの回答を載せていきます。それでは、山本先生よろしくお願いします!


Q1:野生動物研究の本で、専門家向けではない、おすすめの本はありますか?

A1:長谷川真理子先生の『進化とはなんだろうか』(岩波ジュニア新書)は非常にわかりやすく、一般の方にも理解できるように書かれた本です。また、拙著『はじめて学ぶ哺乳類』の183ページには、いくつかの本(専門書も含む)を列挙いたしましたので、そちらも参考にしてもらえればと思います。


Q2:クマの捕獲はどうやっているのですか?

A2:野生動物の捕獲に用いるトラップは大小様々ですが、基本的にはトラップの中に誘引物をおいて捕獲する仕組みになっています。ツキノワグマの捕獲に用いるバレルトラップはドラム缶をつなぎ合わせたもので、クマの体が完全に中に入ったところでトリガーが作動し、入り口が閉まる仕組みになっています。『はじめて学ぶ哺乳類』の140ページに掲載されているので、ぜひご参照ください。

クマ捕獲用のわな:バレルトラップ

Q3:最近、人間を恐れないクマが出て来た理由はわかりますか?

A3::原因はいろいろあると思いますが、年によっては餌が十分ではなく、その結果として山から人里へ出没することがあります。一昔前に比べれば個体数も増加傾向にあると考えられており、餌不足になった際に出没するケースが多くなっているのではないでしょうか。

Q4:クマなどの野生動物が街中に降りてくる原因は複数あると思いますが、一番の原因は山の中に食べ物が減ってきているということなのでしょうか?

A4:要因は複数あると思いますが、例えばツキノワグマでは、餌資源が不足したときほど市街地に出没する傾向は、多くの地域で見られます。私が調査している軽井沢でも、餌資源量とクマの出没数は強く関連しています。さらには、出没する場所も変わってきており、餌資源が乏しい年ほど市内に近づいている傾向があります。
また、里山にはクマなど野生動物がすぐに町中に出没しないようなバッファー(緩衝体)の役割があったと思われますが、それらが整備されなくなり、森林と市街地の距離が近づいていることも指摘されていることです。

『はじめて学ぶ哺乳類』の4章 哺乳類と人とのかかわりでは、野生動物管理は「個体数管理」「生息地管理」「被害対策」の3本柱で成り立っていると解説しています。クマなどの野生動物との共存には緩衝地帯となるような環境の整備(生息地管理)も重要になります。

Q5:野外でクマと出会ったときの対処は「静かに離れる」がよいのでしょうか?

A5:クマが本気で走れば時速50kmくらいは出ますので、走って逃げても追いつかれてしまいます。ここでは、背中を見せることが最も良くないので、目をそらさずに静かにゆっくりと後ずさりすることが最善策とされています。とはいっても、慌ててしまうのが人間の性ですよね。私自身も、何度クマを見ても(距離が離れていても)独特の緊張感が常にあります。ふだんからシュミレーションしておくことが大事なのかもしれません。

ツキノワグマ


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