見出し画像

航路観察の強い味方『新海鳥ハンドブック』に増補改訂版登場!

Author:箕輪義隆(イラストレーター)

『新 海鳥ハンドブック』は2020年に初版が出版されました(以下、初版)。沖合いの海上で見られる海鳥に特化した識別ガイドブックです。初版から4年を経て、このたび『新 海鳥ハンドブック増補改訂版』(以下、増補改訂版)が完成しました。表紙がオオミズナギドリからシロハラトウゾクカモメに変わり、ページ数は全部で8ページ増えていますが、中身は何が変わったのでしょうか。大きく3つの変更点を見て行きましょう。

新海鳥ハンドブック初版(左)と増補改訂版(右)

国内で新たに観察された種を収録

初版が出版されて以降、国内で新たな観察情報が出てきた種がいます。このハンドブックでは各種を1ページで解説するのを基本としていて、増補改訂版ではマユグロアホウドリ、クロハラウミツバメ、セグロシロハラミズナギドリ、バヌアツシロハラミズナギドリ、ウスハジロミズナギドリ、ナスカカツオドリが追加されることになりました。
このうちセグロシロハラミズナギドリとウスハジロミズナギドリは初版で「今後、飛来する可能性がある海鳥」として簡潔に掲載、バヌアツシロハラミズナギドリはクビワオオシロハラミズナギドリの類似種として小さく掲載、2019年に観察されたばかりのナスカカツオドリは1/2ページで収録していましたが、マユグロアホウドリとクロハラウミツバメはまったくノーマークでした。

新たに追加されたクロハラウミツバメのページ。
上面・下面の姿以外に、特徴的な行動も図示しました。
右側は今回用に描きおろした原画です。

識別コラムの充実

類似種が多く識別が難しいグループについては、写真やイラストを交えて詳しく解説したコラムを載せています。初版ではオオハムとシロエリオオハム、ハイイロミズナギドリとハシボソミズナギドリ、ウミツバメ類、ウミウとカワウ、トウゾクカモメ類を取り上げました。
増補改訂版では新たにアホウドリ類の識別コラムを追加し、尖閣諸島で繁殖するセンカクアホウドリとアホウドリの比較、巣立ち直後で嘴がまだピンクに変わる前のアホウドリ幼鳥の写真など、まぎらわしい例を紹介しています。また、ハイイロミズナギドリとハシボソミズナギドリにアカアシミズナギドリを加えた3種の暗色ミズナギドリ類について、形態や飛び方による識別ポイントを解説しました。下の写真のように、遠くを飛んでいると細部がわからないなので、全体的なプロポーションや飛び方などに着目するのが有効なのです。ウミツバメ類はすでにコラムで一通りの解説をしてありましたが、特によく似ていて識別が難しいクロウミツバメとヒメクロウミツバメ、クロコシジロウミツバメとコシジロウミツバメの組み合わせについて追記しました。

航路で見られる“暗色ミズナギドリ類”。
ハイイロミズナギドリの中にアカアシミズナギドリが混じる。
暗色ミズナギドリの識別コラム。
初版(左)から増補改訂版(右)へ、2ページに増えて情報も充実しました。

『日本鳥類目録改訂第8版』に準拠

2024年9月に日本鳥学会から『日本鳥類目録改訂第8版』が出版されました。国内で出版される図鑑や書籍の多くは、分類や和名、国内での生息状況など基本となる情報を、日本鳥学会の鳥類目録に従っています。初版が出たときは『日本鳥類目録改訂第7版』でしたが、増補改訂版は第8版に則って種の配列や学名などを変更しました。ページをめくって鳥を探すときに、以前と違っているため違和感を覚えるかも知れませんが、これから出版される多くの図鑑は同様の配列になるため、早めに慣れておくのが賢明でしょう。

初版をお持ちの方へ

増補改訂版がどのように変わったかを書いてきましたが、初版に書かれた識別点自体がひっくり返るようことはないので、これまで通りお使いいただくことができます。新たに追加されたマユグロアホウドリなど国内初記録の鳥は極めて稀な迷鳥で、実際目にしたり識別に悩むことなど、まず無いと言っても良いでしょう。それでも、いざというときのため識別点を知っておきたい人、コラムの識別情報をアップデートしたい人には、増補改訂版を強くお勧めしたいと思います。ほかにも新しいイラストを加えた種(クビワオオシロハラミズナギドリなど)、ページ構成を変えた種(アカアシカツオドリ)があり、初版より少し使いやすくなっているはずです。

海鳥入門者の方へ

実際に海鳥を見るには、海辺に出かけるか、できるなら外洋を行くフェリーに乗ることをお勧めします。海鳥には姿が似ている種が多く、一般的には識別が難しいグループなので、船の近くを飛ぶわずかな時間に、素早く観察して特徴を捉えることが肝心です。常に移動し続ける船上では同じ鳥を長時間観察することが困難で、ハンドブックと見比べる余裕などありません。できれば、乗船前に予習して、見られそうな鳥を頭に入れておくと良いでしょう。
そして下船後はたくさん見ることができた“普通種”を中心に、復習するのが肝心です。普通種とそれ以外の種を仕分けできるだけで、識別はぐっと楽になるはずです。もちろん写真に撮っておくのも有効ですが、やみくもに撮っては整理が大変になるばかり。ちょっと高めのハードルと思われるかも知れませんが、まずはハンドブックをもとに普通種の攻略に挑戦しみませんか。

“普通種”の代表格、オオミズナギドリ。
何が普通種になるかは、海域や季節、その日の状況で異なる。


Author Profile
箕輪義隆(みのわ・よしたか)
1968年、新潟県生まれ。科学イラストレーターとして、鳥類を中心に生物の図版を描くほか、絵本の制作や定期的に作品展を開催している。千葉県の水辺を中心に野鳥観察やカウント調査を続ける。著書に『鳥のフィールドサイン観察ガイド』(文一総合出版)、『見る読むわかる野鳥図鑑(共著)』(日本野鳥の会)、『あたらし島のオードリー(共著)』(アリス館)などがある。

いいなと思ったら応援しよう!