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ハチハンドブック増補改訂版でたどる,ハチの進化の道 ~毒針はいつから?~
Author:藤丸篤夫
ハチハンドブック(ハチHB)の増補改訂版が刊行されました。皆さんが抱く「ハチ」のイメージはやはり,「蝶のように舞い,蜂のように刺す」でおなじみの毒針でしょうか?でも,ハチには最初から毒針があったのではなく,その用途も進化の過程で変わったそうです。そして,このハチHBを前から読んでいくと毒針の歴史をたどることができます。今回は著者の藤丸篤夫さんに,ハチHBのひと味違う見どころを紹介してもらいましょう。
毒針をもたないハチ
じっと地上を見つめ,時には草に寝転がり腹ばいになって狩りバチを観察したアンリ・ファーブル,そして「日本のファーブル」といわれハチの習性を生涯研究した岩田久二夫,彼らの著書を通して私のハチのイメージはがらりと変わりました。ファーブルや岩田ほどの鋭い観察眼や考察力はなくとも,写真の力で少しでも多くの人にハチという昆虫の面白さが伝わってほしい,ハチに興味をもってほしいと作ったのがこの本です。
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多くの人が抱くハチのイメージは「刺す虫・危険な虫」かもしれません。残念ながら一部それは事実ですが,ハチ毒と毒針こそが,ハチの多様性と繁栄をもたらしたといっても過言ではありません。
ハチが誕生したのは2億年以上前といわれています。始まりは幼虫が植物の葉や材を食べる植物食のハバチやキバチでした。その中から幼虫の食物としてより栄養価の高いほかの昆虫の幼虫を選ぶハチが出現します。この転換がその後のハチの進化に大きく影響します。
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「くびれ」は強力な武器に
最初は材などの閉鎖空間にいる幼虫などをターゲットにしていたようですが,それでも植物と違って動くし,抵抗されるかもしれません。ハチ毒と毒を注入するための毒針は,そんな相手をおとなしくさせる方法として生まれます。この画期的な方法をより有効に使えるよう,ハチの体も大きく変わります。それがハバチやキバチでは見られない,腹と胸の間の「くびれ」。このくびれができたことでより自由に腹部が動せるようになり,確実かつ的確に相手に毒針を刺し,卵を産み付けられるようになります。
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やがて獲物のターゲットは地上で活動する昆虫やクモなどに広がり,今日,これらの天敵として知られる「寄生バチ」が誕生します。寄生バチ類は,変態という独特な成長パターンをもつ昆虫の各ステージ(卵ー幼虫-さなぎ)を利用できるよう,それぞれ独自の寄生方法を発展させた結果,姿形や大きさが多様になり,種数も増えていきました。現存するハチの半分以上がこの寄生バチです。
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狩りの道具から巣を守る武器に
寄生バチが登場した後,さらに巣を作って幼虫の食物となる獲物を蓄える「狩りバチ」が誕生します。寄生バチの毒針は,卵を産む産卵管も兼ねていましたが,狩りバチの毒針はより確実に,すばやく相手をしとめるための狩り専用の道具になり,卵は針の付け根から産むようになりました。
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ハチの進化は止まらず,さらに「社会性の狩りバチ」といわれるスズメバチやアシナガバチ,翅を落として地下に進出したアリが誕生します。そして最後に,花粉や蜜を食物に選んだハチ,ミツバチを頂点とする「ハナバチ類」が誕生します。狩りの道具だった毒針は,社会性のスズメバチ類やハナバチ類では巣を守る武器になりました。こうして今見られる多様なハチの世界は完成したのです。
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春,ウメの花が咲きはじめるとミツバチが見られます。花から花へと飛びまわって蜜を吸い,飛んでいる間も忙しく足を動かして体についた花粉をかき集め,花粉団子を作って巣に運びます。サクラの花が咲くころになると,さらに多くのハチが冬の眠りから目覚め,春を彩る可憐な花々に飛んできます。花粉を運ぶ虫はチョウなどほかにもたくさんいますが,花をつける多くの植物はハナバチを頼りにしています。もしハナバチがいなくなったら,春の彩りはとても寂しいものになってしまうかもしれず,さらに農作物の生育にもハナバチは活躍しているので,私たちの食生活も貧しくなってしまう心配もあります。むやみにハチをこわがらず,時には足を止め,ハチの活動を観察してみるのも,すてきな時間の過ごし方ではないでしょうか。
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