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お手本でわかる! 野鳥撮影術〜カバーのカワセミはどう撮った?〜

新刊『お手本でわかる! 野鳥撮影術』のカバーを飾ったのは、ため息が出るほど美しいカワセミのショット。鮮やかな水面、飛び出しの水飛沫、くっきりとした水鏡と、まさしく「お手本」にしたい作品だ。この写真はどのようにして撮られたのか、撮影者である水中伸浩さんに教えてもらった。

カバーとして起用した美しいカワセミ
カバーの元写真

自分だけの、とことん納得できるカワセミ

Author:水中伸浩(野鳥写真家)

 カワセミと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、都市公園での人馴れした姿だろうか? しかし、人が集まるところで撮影するのを好まない僕は、いつか自分だけのポイントで、それもとことん納得のできるカワセミを撮りたいと考えていた。そんなある年、そのチャンスは唐突に訪れた、何年もアカショウビンの撮影地としてロケハンを続けていたポイントで。

撮影の現場

最高のコラボレーションを求めて

 例年のようにアカショウビンの飛来状況を確認していると、突然目の前にカワセミが現れた。アカショウビンを撮影するには抜群のロケーションと見込んで観察を続けていただけに、ここでカワセミが撮れるなら最高ではないか。沼の周りはほとんどが自然林の広葉樹。秋にはおそらく色づく木々を映した美しい水面とカワセミのコラボレーションが狙えるはず。そう考えた僕は初夏から紅葉が散る時期まで、ずっとここで撮影することに決めた。一年の半分をカワセミだけに費やすという事は、言い換えれば他の多くを犠牲にすることだ。しかし、このロケーションでカワセミ撮影ができるなら、その成果は犠牲を補って余りあるはず。そんな思いが迷う僕を後押ししてくれた。

アカショウビン

 山のカワセミは恐ろしく警戒心が強い。少しでも姿を見られたなら、かなり離れていても逃げられてしまう。撮影は自ずとブラインドの中からで、できるだけ長時間撮影するため、1日を通してなるべく逆光になることが少ない位置にブラインドを設置することにした。

ブラインドから機会をうかがう

 連日の観察でカワセミの行動パターンも徐々に絞り込めてくる。止まるところがわかれば飛び込む位置も推測できる。こうして得たデータを元に目指す絵をイメージし、最高の背景となるようにブラインドの位置を微調整していった。初夏にはアカショウビンやサシバなどの声に囲まれながら、緑映す美しい水面を眺め、あちこちにイシガメやモリアオガエルの姿を見つけたりもした。ブラインドの後ろでは繁殖期だったのだろうか、群れで絡み合うヤツメウナギの姿も見ることができた。

モリアオガエル
イシガメ
ヤツメウナギ
ヤツメウナギをとらえたアカショウビン

 撮影も順調に進み、絵にも少しずつバリーションが増えていった。ブラインドにもすっかり慣れてしまったのか、カワセミとの距離もどんどん近くなる。近すぎてフォーカスが合わずに眺めているだけということもあった。観察中に思いついたことを試したり、撮影した写真を確認して修正点を洗い出したり。様々なカット&トライをくり返しながら少しずつ作品の精度を上げていった。

コテングコウモリ

 お盆を過ぎる頃には渡りの途中なのか、ササゴイの幼鳥が姿を現し数日間楽しませてくれたし、晩夏の夕刻にはコテングコウモリの姿を見ることもできた。少しずつ木々が色づき始め、いよいよ撮影も終盤を迎えた。さあこれからという時、一つだけ想定外だったのは秋の風。とにかく山の風は強い。いい感じに色付いた葉が次々と飛ばされ、水面は落葉だらけになってしまう。期待していた写り込みも落葉に邪魔され、作品作りには程遠い。そんな日ばかりが続き、もうこれまでかと諦めかけていた11月の初旬、奇跡的に2日間だけ水面がスッキリとしてくれた!既に多くの葉が落ちてしまってはいたが、それでも6月に思い描いた絵を形にするチャンスにだけは恵まれた。今回のカバー写真はこの2日間で撮影した1枚だ。

 長期の観察で撮影対象の行動パターンを知り、望む絵としてふさわしい背景や撮影位置を決定する。ここまでくると、作品はほとんど完成したも同然。あとは撮影対象が現れるのを待ち、シャッターを押すだけなのだ。

 僕の作品は殆どがこうしたパターンで撮影されたものだ。“あとはただ待つだけ”に至るには、時間をかけた注意深い観察が必要だが、そうしなければ撮れない絵があると信じているからこそのこのスタイル。今回のカワセミ撮影も含め、その成果はBIRDER誌や写真集Art of Wildbirdでご確認いただきたい。

 野鳥撮影は楽しい。しかし、野鳥観察も自然観察も楽しい。観察は必ず撮影のプラスになるということを心に留め、できれば撮影前にじっくりとロケハン、観察に時間を割き、そのインプットがあればこその作品づくりを目指す人が増えてくれれば嬉しい。

Author Profile
水中伸浩

写真集『Art of WILDBIRD』『#ゴイサギはいいぞ』(青菁社),好評発売中。


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