観て、食べて、ハーブ王子と一緒にヨモギを堪能するイベント
Author:髙野丈(編集部)
6月9日の朝、井の頭公園前駅に颯爽と現れたのは山下智道さん。「ハーブ王子」と呼び親しまれる野草研究家だ。忙しい合間を縫って、ブンイチ主催のイベント「ハーブ王子イチオシ ヨモギ推しのひととき」の講師として駆けつけてくれたのだった。
みんなで草餅作ったら?
王子の著書『ヨモギハンドブック』が書店に並んだのは4月。恒例の出版記念イベント、ブンイチ サイエンス・トークはオンラインで実施した。でも、せっかくヨモギなのだから草餅づくりのイベントでもやってみては、というアイデアが社内で提案された。そうだ、身近に生え、香りや風味が馴染み深いヨモギなのだから、五感で楽しむリアルイベントがよい。提案に感謝しつつ、企画を考えた。
王子の案内で井の頭公園のヨモギと野草を観察する。野外観察のあとは、公園に隣接するこの日だけの一軒家カフェ「森の食卓」でヨモギについてお話を伺う。講演のあとは、ヴィーガン対応・野菜イタリアンで定評のある吉祥寺「モメント」の有本シェフ、井上シェフに腕をふるってもらい、ヨモギを使ってアレンジした料理を楽しみながら歓談する。よし! これぞ、ヨモギ尽くしのリアルイベントである。
週間予報では当日の天気は100%雨。しかも、観察会を予定している午前中は大雨が予想されていた。でも、わたしも王子も晴れ男。2022年4月に稲村ヶ崎に行ったときは、火傷しそうなドピーカンだった! だから今回もきっとなんとかなると信じて、準備を進めた。雨は朝までしっかり降っていたが、下見の時間には空がかなり明るくなって、やんだ時間帯もあった。観察会中も多くの時間はやんでいるか、傘がいらない程度の降りで、びしょ濡れになることもなく、暑くもなく、進めることができた。やはり晴れ男!
公園内の野草や樹木について、王子が解説していく。ヨモギは公園内のどこにでもあるものではなく、たまに見つかるくらいだった。カズザキヨモギしかないだろうと思っていたら、オウシュウヨモギかそれとの雑種も見つかった。
18人の参加者は、野草について学びたいという意欲が強くて熱心な方ばかり。日ごろからハーブに関わる仕事や活動に携わっている方、学んでいる方が多くを占め、ハーブスクールで教えている有名な先生にも参加していただいた。一同熱心にメモを取りながら、王子の案内を楽しんだ。王子は知識と話題が豊富すぎて、道端の一木一草について話を始めると、会の一行は前に進まなくなる。とくに感心したのは、分類や生態だけでなく、利用方法や薬効についての知識が豊富なこと。身近な公園に生えている野草で食べられる、あるいは使えるもののいかに多いことか。さすがは「ハーブ王子」、90分の観察会はあっという間だった。
なかなか見られないヨモギを披露
森の食卓に着くと、王子は4月に開催したブンイチ オンライン・トークのさわりと、国内外での野草旅の話を紹介。さらに、この日のために準備した十数種のヨモギの葉を、参加者に披露した。参加者は『ヨモギハンドブック』をテキストのようにして、熱心に話を聞いていた。日ごろ見かけない各種のヨモギに参加者は興味津々。講演が終わると、しばし「おさわりタイム」となった。とくに和名にインパクトのあるクソニンジンが人気を集め、参加者はその不思議な香りを楽しんでいた。
ヨモギ尽くしのスペシャルランチ
講演が終わり、食事の準備ができたところで、ヨモギ尽くしランチが供された。ヨモギを使ってスモークしたポルケッタや、佐渡島産サーモンのヨモギマリネなど前菜数種、そしてヨモギを練り込んだパスタを参加者一同堪能。さらにデザートまで。料理のお供にはヨモギを使ったクラフトコーラ、ニガヨモギを白ワインに漬け込んでヴェルモットで割ったソーダなど、料理だけでなくドリンクに至るまでさまざまな工夫が施され、王子と参加者の会話、参加者同士の交流が促された。
今後もブンイチでは、山下智道さんはもちろん、個性豊かな著者や研究者、自然写真家を講師に招いてのリアルイベントを開催していくので、期待していただきたい。
次回のオンラインイベントのテーマは「冬虫夏草」。ゲッチョ先生こと盛口満さんと安田守さんにお話を伺います。
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髙野丈
文一総合出版編集部所属。自然科学分野を中心に、図鑑、一般書、児童書の編集に携わる。その傍ら、2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家として活動中。自然観察会やサイエンスカフェ、オンライントークなどでのサイエンスコミュニケーションに取り組んでいる。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。著書に『世にも美しい変形菌 身近な宝探しの楽しみ方』(文一総合出版)、『探す、出あう、楽しむ 身近な野鳥の観察図鑑』(ナツメ社)などがある。