佐渡ジオパークの魅力を感じる旅【後編】
Author:高野丈(編集部)
日本海最大で、国内で2番目に大きい島、佐渡島。【前編】では佐渡ジオパーク推進協議会の相田満久さんに大佐渡のジオサイトを案内してもらい、佐渡ジオパークの魅力を体感しました。ただ、ジオパークの魅力は大地だけではありません。佐渡に来て鳥見しない手はない! ということで、後編では翌日に取り組んだ鳥見についてご紹介します。
広すぎて絞りきれない?
夏鳥が渡りをする春と秋は、離島での鳥見が人気。山形県の飛島、新潟県の粟島、石川県の舳倉島、山口県の見島などは多くのバーダーでにぎわいます。海を渡るさまざまな鳥が、島に降りて羽を休めるからです。多くの種を見ることができるうえ、ふだんなかなかお目にかかれないような鳥に出会えることも少なくありません。
佐渡島も日本海に浮かぶ島として、季節移動中の多くの鳥が羽を休めますが、それを目当てに集まるバーダーは多くないといいます。そのおもな理由は島の大きさ。人気の離島には周囲数キロの小さな島もあり、歩きまわって鳥を探すことができます。ある意味、限られた狭い場所に鳥が集中するので探しやすいといえます。対照的に佐渡島の面積は854.8㎡。東京23区の約1.5倍もの広さがあります。
岬を狙え
広大な島のどこを探せばいいのか。見当がつかないような気もしますが、じつは狙いどころがあります。それは半島や岬です。海を渡ってきて疲弊している鳥、十分に休息をとってこれから渡ろうとする鳥、いずれも半島や岬が玄関口になります。そんなわけで、私は大佐渡の北端にあたる鷲崎周辺に狙いをつけて、探求してみました。
映画やドラマのロケにも使われるという小学校跡地でアカハラを見つけ、幸先のいいスタート。その後、海岸近くの農耕地に隣接する疎林でキビタキがさえずっていて、さらに別の鳥10羽ほどの群れが。くわしく確認すると、オオルリとアオジ、カシラダカでした。冬鳥と夏鳥が同じ木に隠れている。これも春の渡りの一場面です。
その後、クロツグミやヤブサメも確認。渡りの鳥以外にウグイス、イソヒヨドリ、ホオジロなどの留鳥も観察しました。海にはコガモ数羽の群れが浮かんでいて、海岸から見える小さな島はウミネコの集団繁殖地になっていました。
最近は街で見かけるイソヒヨドリだが、やはり海が似合う
さえずりながら、近くを飛ぶ虫を素速く捕食するホオジロ
渡りには波があるので、その日によって見られる鳥は変わります。鷲崎では1日100種も夢ではないほど濃いときもあり、ヤマショウビンやヤツガシラ、シラガホオジロなど珍しいホオジロ類、コヒバリやヒメコウテンシ、ヤマヒバリ、オウチュウ、キマユムシクイ、ムジセッカ、ツメナガセキレイなど変わったセキレイ類、ギンムクドリやホシムクドリなどが見られることもあるそうです。今回は残念ながらそういう状況には当たりませんでしたが、渡りのシーズンにまた訪れてみたいものです。
トキはどこに?
渡りの波がさほどでもないので鷲崎での観察を切り上げ、トキを探すことにしました。佐渡に来てトキを観察しないで帰るなんて、あり得ない話です。
トキは大佐渡と小佐渡のあいだの平野部、国中平野の水田地帯とその周辺に生息していますが、どこでも見られるものでもありません。じつは相田さんにジオサイトを案内していただいた1日目の帰りに、飛んでいるところを一回だけ目視しました。でもそれっきりで、ほかには一切見つかりませんでした。
広大な水田地帯のどこを探せばいいのか。ここ佐渡でトキの仕事に関わっている知人もいますが、私は情報をもらって確認するような鳥見を好みません。予備知識や情報いっさいなしの自力で挑戦してみました。
地方の鳥見では、車をゆっくり走らせながら探すことが多いのですが、地域の方々の農作業の邪魔にならないよう、十二分に配慮しなければなりません。
私は野にいるトキを見たことがないので、「見え方」が頭に入っていません。最初のうちは、田んぼに点在するアオサギやダイサギ、コサギを遠くから見つけてそれかなと思い、確認することを繰り返していました。
広大な国中平野を走りまわり、ようやく1羽発見! 標識のついた放鳥個体で、婚姻色に「化粧」していました。このオスの個体をじっくりと観察。サギ類とは姿勢が異なり、首も短めです。そのままでも見えにくいうえ、採食のために頭を下げると、田んぼの畦に隠れてしまうので、見つけにくいことがわかりました。
またサギ類よりも警戒心が強く、近くを車が通っただけで飛んでしまう場合も少なくないことがわかりました。なんとなく、農作業している人のそばで採食しているようなイメージがありましたが、まったくの見当違いでした。これにより、広大な田園地帯の中で農作業を行っている面の周囲にはいないことがわかり、消去法で探すことができるようになりました。
その後、最大8羽の群れを発見し、その行動をじっくりと2時間ほど観察。でかいミミズを捕食したり、キジのメスを追い払ったりといった行動も見ることができました。このときの観察の結果については、写真と動画から標識の番号を判読して取りまとめ。環境省のモニタリングチームに写真と合わせて情報提供しました。
ちなみにトキ観察のマナーとして、必ず車の中から観察すること、農作業の邪魔にならないように最大限配慮すること、巣には近づかないことがあります。巣の行き来の飛行ルートで待ち構えるのも避けてください。マナーをしっかり守って、観察を楽しみましょう。
ツバメに手厚い酒屋さん
両津の街にある庄司屋さんは、地酒の品揃えがいいのはもちろん、お酒以外の地域の名産や海外のお菓子も売っていて、楽しく買い物できる酒屋です。
宿の紹介で訪ねてみたら、店内でツバメが子育て中でした。軒先ではなく、店の中です。何年か前から店内に入ってくるようになり、追い出すのではなく受け入れることに。ツバメの出入りのため、店の入り口は開放されています。フンで汚れてはいけないので、ビニールをかけて商品を保護。今シーズンは多くのひなが巣立ったそうです。
ジオパークの迫力ある大地から、悠久の時と地球の活動を感じる。渡りの野鳥探しとトキの観察を楽しむ。新鮮で豊富な海の幸と農家さんが丹精したブランド米に舌鼓を打ち、島の人たちのあたたかい心にふれる。魅力たっぷり佐渡島への旅、オススメです!
次は今回行けなかった小佐渡を回ってみたいと思います。
Author Profile:高野丈(編集部)
文一総合出版編集部所属。自然科学分野を中心に、図鑑・一般書・児童書の編集に携わる。2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家としても活動中。また、井の頭公園を中心に都内各地で自然観察会やサイエンスカフェを開催している。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。
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