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タネまく動物のつもりになって絵を描く

Author:きのした・ちひろ(イラストレーター、農学博士)

本のカバー。

この本のイラストを担当した、きのしたちひろです。イラストを描くために調べ物をしたり、著者のみなさんと交流したりすると、全然知らなかった……と思うような発見がたくさんありました。気がつけば、タネをまく動物やタネの気持ちになって絵を描いていました。今回は、そんなイラストができるまでのプロセスをご紹介します。

良いサクラの木を探すクマの気持ちになって

昔、クマの調査へ同行させてもらったことがあって、そのときの様子や空気感を思い出しつつ、できるだけクマの気持ちになって描きました。サクラの木は、初夏にたくさんの果実を実らせますが、クマにとってはごちそうです。クマは良さそうなサクラを見つけると、木に登って果実を食べます。しかし、どんな木でも良いわけではありません。鳥が食べちらかした後や、実りの悪い木には見向きもしないそうです。イラストには、そんな良さそうな木と、そうでない木を描き、木に登るべきかどうか吟味しているクマを描きました。

サクラの果実を食べながら山を移動するクマ。

お腹が満たされたクマは、そこかしこでフンをしながら山を移動。出たばかりのフンには、「待ってました!」とばかりに生き物たちがあつまって……
121ページのイラストへと続きます。

順位の低いサルになったつもりで

ニホンザルの種子散布のお話です。群れの中で低い順位のニホンザルになったつもりで描いてみました。というのも、順位の高いサルはガマズミなどの良い果実を食べ、順位の低いサルはノイバラなどの栄養価の低い果実を食べるらしいのです。右側のイラストは、ガマズミの果実を食べる順位の高いサルたちをうらやましそうに見上げる、低順位のサル目線をイメージしています。なんだかガマズミが美味しそうに見えてくるではありませんか。

ガマズミの実をおいしそうに食べるサル(右側)。

ラフを描いている時は、ガマズミの木をもっさりと茂らせていたのですが、このイラストの舞台となる金華山(宮城県石巻市)では、シカの食害で木の下の方が刈り上げられているとのことだったので、その様子がわかるようにイラストを調整しました。また、低順位のサルが、高順位のサルに威嚇をされると、尻尾が下がるということも教えていただいたので、最終版ではそのあたりも表現してみました。今度、ニホンザルを観察するときは注意して見てみようと思います。

ラフのイラスト。ガマズミがもっさりして、
威嚇された低順位のサルのしっぽが上がってしまっている。

タネを吟味するアカネズミになって

アカネズミは一度にひとつのタネしか持てないので、どのタネを選ぶかが大事です。中身を虫に食われていたりすると残念ですから……。ドングリを運ぶアカネズミは、シギゾウムシの幼虫がドングリの中に入っているかどうかを区別することができるとのこと。中に幼虫がいないドングリを選んで遠くまで運ぶ習性があるため、結果的に発芽率の高いタネを散布していることになるのです(スゴイ)。

幼虫がいるドングリ、いないドングリ、何をヒントに見分けているのか?

このイラストでは、クマがサクラの果実を食べる様子や、アカネズミがタネをくわえる時の姿勢などについて、とても丁寧なフィードバックをいただけました。自分の生き物に対する理解の低さには毎回絶望しますが、たくさんのコメントをいただけるおかげで少しずつ解像度が上がっていく過程に幸せを感じます。少しずつ勉強しながら、より動物の目線に近づけるよう、がんばります。

アカネズミの姿勢やクマの食べ方がたどたどしいラフ。

本書では、全部で19カット+αを描かせていただきました。哺乳類に限らず、鳥類、爬虫類、魚類、無脊椎動物にいたるまで幅広い分類群の動物たちが紹介されています。秋はタネたちが大移動を始める時期です。動物を観察しながら、一緒に移動するタネたちの大冒険に思いを馳せてみるのはいかがでしょう?

Author Profile
きのした・ちひろ
東京大学大学院 農学生命科学研究科卒業後、イラストレーターとして活動。農学博士。『タネまく動物』(文一総合出版)のイラストを担当。ほかにも『生きもの「なんで?」行動ノート』(SBクリエイティブ)などがある。

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