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佐渡ジオパークの魅力を感じる旅【前編】
Author:高野丈(編集部)
佐渡島と聞くと、金山やトキをイメージする人が多いのではないでしょうか。でも、佐渡の魅力はそれだけではありません。少し前の話になりますが、2022年3月発売の『よくわかる佐渡ジオパーク 自然とひとの暮らし』(佐渡ジオパーク推進協議会 編)の出版をお手伝いした縁で、佐渡を訪ねてきました。
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新潟港からジェットフォイルに乗り込み、約1時間で佐渡島の両津港に到着。お出迎えしてくれたのは『よくわかる佐渡ジオパーク』の執筆を担当した相田満久さん。本の中で紹介している、島内のジオサイトを案内してくれました。
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佐渡島は日本海に浮かぶ島で最大ですが、じつは沖縄本島に次いで国内で2番目に大きな島。1周が約280kmもあり、1日ですべてのジオサイトを見て回ることは困難です。今回はチョウのような形をしている島の北側、大佐渡と呼ばれる地域を案内していただきました。
景勝地の見え方が変わる。ただの石が宝石になる
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景勝地として有名な大野亀。シーズンにはトビシマカンゾウが岩を彩り、多くの観光客がこの地を訪れます。スケールが大きく、島内では最大の一枚岩。少し移動し、違った角度から観察してみると岩が黒っぽく見えるのに気づきますが、これはドレライト(粗粒玄武岩 そりゅうげんぶがん)と呼ばれる結晶の密度の大きい岩石。玄武岩質のマグマが、地表近くでゆっくり時間をかけて冷え固まってできたもの。大野亀の近くに二ツ亀と呼ばれる景勝地もありますが、いずれも姿が「亀」に似ているほか、神様(カムイ)として崇められているのも名前の由来だといいます。
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相田さんはとてもわかりやすく解説してくれました。かつて理科の教員を務め、今は小学校の学習行事や市民講座など、老若男女を問わず、ジオサイトの案内をする機会が多いといいます。こうしてくわしくお話を伺うと、ただの観光名所でしかなかった景勝地の見え方が変わってきます。
大野亀西側の海岸は多様な岩石の宝庫。相田さんは石を選び、おもむろにハンマーで割りました。石の断面の色や模様はさまざまで、中には結晶が輝くものも。どの石にも宝石のような美しさがあり、変形菌好きの私としては興味を強くするものでした。
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また近隣には、大理石(石灰岩)が露出している岩も。手に取れる位置や大きさではありませんが、双眼鏡で観察すると、キラキラ輝いています。大理石は石灰岩にマグマの熱が加わって変質したもの。佐渡島ができるよりもはるか昔、古生代の生物の遺骸が積もってできた石灰岩がもとになっているといいます。
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豊かな海の幸に舌鼓
昼食は食事処「みなと」で刺身定食をいただきました。佐渡が海の幸に恵まれていることはわかっていましたが、1600円とは思えない大ボリュームにびっくり! 舟盛りには分厚い刺身が何種類も載り、それ以外にも焼き魚、煮魚、小鉢が数種類。ご飯はもちろんブランド米のコシヒカリです。この内容を東京で食べれば、5000円はくだらないのではないでしょうか。さすが佐渡です。
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体験型のジオサイト、映えるジオサイト
昼食後、興味深い体験ができるジオサイトにも案内していただきました。岩谷口の海食洞(いわやぐちのかいしょくどう)は、海と反対の山側から波の音が聞こえるふしぎな場所。山側の崖が絶妙な曲線を描き、パラボラアンテナのように集音、反響すると考えられています。この崖の地形はノッチと呼ばれ、長年にわたって荒波に削られてできたもの。ここには竜の伝説のある洞窟もあります。
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次に訪れた平根崎は、壮大な景観で大迫力。今までに観てきた景勝地は遠くから眺めるものが多かったのですが、ここは迫力ある地形の上に自分の身を置く感覚に興奮します。その日本離れした景観は、本州の平野部では決して見られません。まさに「映える」ジオサイト。地球が活動していることを直接感じるような迫力です。
平根崎の波打ち際には波食甌穴(はしょくおうけつ)と呼ばれる、円形の凹みが多数見られます。岩の凹みに石がはまり、打ち寄せる波で回転することで、長い年月をかけて彫り込まれたといいます。平根崎にはこうした甌穴が150強もあり、全国的にも珍しいことから「平根崎の波食甌穴群」として天然記念物に指定されています。これも「映える」景観だと思いました。
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次に案内していただいたのが景勝地として有名な尖閣湾。荒々しい断崖で、縦方向のしま模様が目立ちます。尖閣湾は、大野亀、二ツ亀と同じように、地下から上昇したマグマが地表近くで冷えて固まってできた岩石。流紋岩と呼ばれる、白っぽくて珪質(ガラス質)な溶岩が固まったもので、溶岩が流れた方向にしま模様(流理構造=りゅうりこうぞう)を形成。この模様に沿ってはがれ落ちやすい性質があるため、冬季の荒波によって削られて断崖になったといいます。
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福井県の東尋坊も断崖の景勝地で一見似ていますが、似て非なるもの。黒っぽい安山岩からなり、岩体が冷えて収縮するときにできた柱状のひび割れ(柱状節理=ちゅうじょうせつり)から形成された断崖です。
最後に相川金銀山を案内していただきました。世界遺産登録を申請している「佐渡島の金山」で最大の鉱脈を誇った鉱山で、見学できるよう整備されている史跡です。施設では鉱山の歴史をくわしく知ることができ、大地の恵みであるさまざまな鉱物を工夫して利用した先人の知恵に感心させられます。同時に遺構や多くの痕跡から、徹底的に利益を追求しようとする人間の欲望をまざまざと感じさせられました。「映える」スポットとして人気のある北沢浮遊選鉱場、そして日本最大級の鉱脈を誇った青盤脈を眺め、大佐渡ツアーの締めくくりとなりました。丸一日お付き合いいただき、懇切丁寧に案内していただいた相田さん、ありがとうございました!
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佐渡ジオパークについて、もっとくわしいことを知りたくなったらこの一冊。
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ジオサイト(と豊かな食)を堪能した翌日は、やはり鳥見です!【後編】でお伝えします。