紅葉狩りはもっともっと楽しめる
Author:髙野丈(編集部)
9月に入っても猛暑酷暑が続きますね。こう暑いとなかなかイメージしにくいのですが、いよいよ今年の紅葉シーズンが始まります。北海道の大雪山旭岳では、そろそろ紅葉が見ごろを迎えると予想されています。本州でも標高の高い山では今月下旬ごろから、全国の行楽地では10月から11月にかけて、紅葉が楽しめるようになります。
色とりどりの紅葉を眺めながら散策するだけでも楽しいものですが、紅葉狩りをもっともっと楽しむ方法があります。あざやかに紅葉しているのはなんの木だろう。この控えめな黄色の落ち葉はなんの葉? そういう視点でよく観察してみると、野山の木々がじつに多様で、それぞれ葉の色づきが異なることがわかります。「わかる」ことは楽しいもの。夢中でいろいろ調べているうちに、いつの間にか今まで見ていた景色が違って見えてくることでしょう。そんな楽しい紅葉観察の手引きとして最適なのが、『新 紅葉ハンドブック』です。
著者は、植物図鑑作家の林将之さん。葉で樹木を見分ける手法のスペシャリストです。本書は、2008年に刊行した『紅葉ハンドブック』を大幅に改訂した新版。掲載種数は約300種と、旧版の2.5倍にもなり、以前は掲載しなかった植物を多数紹介しています。林さんは、葉の色づき始めから落葉までの変化や、その植物の個性を解説。主観たっぷりに美しさや地味さも語っています。さしずめ、葉っぱソムリエといったところでしょうか。
紅葉に関するコラムを10本掲載している点も新版の魅力。そのテーマも「紅葉しない木」「常緑樹の紅葉」「春の紅葉?」といった、林さんらしい発想で興味深い内容です。もちろん最新の分類と情報に更新し、できるだけ多くの写真を更新、追加しています。これだけ内容を充実させたことで、総ページ数は80ページから160ページへと倍になりました。野外で使うのに重宝するビニールカバー付きです。
本書の特長として強調しておきたいのは、新規掲載種です。公園など身の回りに生えていてなじみ深い樹種、例えばコブシやホオノキ、イイギリ、イヌシデ、ヤマグワ、エゴノキは、旧版には掲載されていません。野山の散策や自然観察を楽しむ人なら、どれもよく知っている木ばかりですから意外に思いますが、色づきが地味なのですね。80ページという限られた紙幅の中で、紅葉の美しさという視点で見たとき、一軍選手には選ばれなかったわけです。私自身も紅葉という視点では、これらの木に注目してこなかったかもしれません。そういう地味な色づきの植物にも光を当てたのが、今回の新版です。この機会に、今まで紅葉を見ていなかった木々にも注目してみると、きっと新たな発見があることでしょう。
美しい葉、それなりの葉、地味な葉。調べてよく観察すれば、それぞれ個性と魅力があって親しみ深いものです。本書を供に、公園散策や各地の行楽を楽しんでいただければ幸いです。