春の水辺で楽しむ!シギチ探し
海での水遊びや潮干狩りなどのときにこんな鳥を見かけたことはあるだろうか?
彼らは主に水辺で暮らす、"シギ"の仲間や"チドリ"の仲間の鳥だ。この2つのグループの鳥をまとめて"シギチ"と呼んだりもする。
上の鳥はミユビシギといい、群れで干潟や砂浜を走る姿も相まって人気が高い。
長い旅をする「旅鳥」
シギチが日本でよく見られる時期は、主に春(3月末〜5月中旬ごろ)と秋(8〜10月ごろ)。「なぜ春に日本に来て、夏にはいなくなるのだろう?」と思った人もいるかもしれない。これには、鳥たちの「渡り」という習性が関係している。
ひと口に「渡り」といっても、夏に繁殖のため日本に飛来し、秋には暖かい南へ渡るツバメのような「夏鳥」、冬を越すために日本に飛来し、春には北へ渡るカモ類やハクチョウ類のような「冬鳥」など、さまざまな鳥がいる。そしてシギチの多くは、冬をオーストラリアや東南アジアなど暖かい南半球で過ごし、夏はシベリアやアラスカなど涼しい地域で繁殖する「旅鳥」で、その移動途中に日本などに立ち寄るのだ。
つまり今(4月ごろ)は、南から北へ渡るシギチたちが、長旅のための補給を日本の水辺で行う時期なのだ。
ちなみに、最も長い距離を渡るとされているシギチはこちら。
それはオオソリハシシギ。その名の通り反り返った大きな嘴が特徴だ。
ミユビシギよりは大きいが、それでも体長は40㎝ほど。ハトよりちょっと大きいくらいだ。この鳥は繁殖地の北米アラスカから越冬地のニュージーランドまで1万2000km以上を、11日間、ノンストップで渡った記録があるという。
こんなに小さな鳥が1万km以上もの距離を移動することに感動する。
シギチを探しに行こう
さっそく、シギチを探しに行ってみよう。
持ち物:シギチの観察には長靴を履いていくことをおすすめする。干潟など潮の満ち引きがある場所だと、観察に夢中になっているうちに潮が満ちてきて、いつの間にか足元に水が来ている……なんてこともあるからだ。ほかにも、アカエイやクラゲといったトゲや毒のある生きものから身を守ることにも役立つ。ほかにも、動きやすく汚れてもよい服や双眼鏡、飲み物など、準備するものはほかの場所での野鳥観察と同じだ。
場所:シギチを観察するならば、関東では千葉県の三番瀬や谷津干潟、九州では佐賀県の東よか干潟などが有名スポットだが、渡りの時期には海岸や田んぼ、遊水地などで羽を休めていることもある。有名な場所だけでなく、身近な場所でシギチたちとの思わぬ出会いを期待するのも楽しい。
時間帯:満潮時は、シギチたちは休んだり採食したりできる別の場所へ移動してしまう。一方,干潮時は探すのが広範囲となり、かなり歩きまわらなければならない。観察には満潮から干潮にかけて、潮が引いていくころがおすすめだ。
春に出会いたいシギチたち
ここからは、春に出会いたいシギチを紹介していく。
チュウシャクシギ
全長42cmほどで、嘴が下向きに反ったシギ。
カニが好物で、よく食べている。
キアシシギ
全長23〜27cm。その名の通り足が黄色いのが特徴だ。
こちらもカニが好物。
あまり出会えないため本記事では割愛するが、足が赤い「アカアシシギ」と、足が緑色っぽい「アオアシシギ」もいる。
ハマシギ
全長16〜22cm。
記事の最初に紹介したミユビシギと似た見た目で、実際にミユビシギの群れの中に混ざっていることもある。慣れていなければ識別するのは少し難しいが、ハマシギのほうが大きめで嘴も長いため、ていねいに観察することが大切だ。
ダイゼン
全長27〜31cm。
こちらはチドリ類。
冬羽と夏羽で大きく見た目が変わることが特徴だ。
上の写真は冬羽。全体的に白っぽいが、夏羽は……
黒を基調としたおしゃれな見た目だ。同じ鳥でも冬羽と夏羽とで大きく見た目が変化するのがおもしろい。
換羽(羽毛の抜けかわり)には個体差があるため、春は白っぽいダイゼンと黒っぽいダイゼン、どちらも見られることがある。別の鳥と間違えないためにも、図鑑を持っておこう。
識別だけじゃない、シギチ観察の楽しみ
シギチの観察をしていると、足に何かがついたシギチを見つけることがある。
これはフラッグといい、まだまだ謎の多いシギチの渡りルート解明のために山階鳥類研究所がつけているものだ。このフラッグは日本だけでなくアジア・太平洋地域で用いられており、フラッグの色や組み合わせ、位置でその個体がどこでフラッグをつけられたのかがわかるようになっている。
写真の個体のフラッグは東京湾でつけられたものだったが、筆者は以前、同じ場所でオーストラリア・クイーンズランド州でフラッグをつけられたメダイチドリを見たことがある。
フラッグは肉眼ではなかなか見づらいが、目の前にいる鳥がどこから来たのかわかるのはとても興味深い。
ヒモのようなものを引っ張っているシギチを見つけることもある。
ゴカイをびよーんと引っ張っている姿はとてもかわいらしい。筆者も子どものころ、こんな感じのお菓子を食べた記憶を思い出しながら観察した。シギチは種や生息環境によって、ゴカイだけでなくカニやエビ、貝類といったさまざまなものを食べている。
この個体は筆者が観察していると採食をしはじめ、最初は遠くにいたが、砂浜でじっと座っていると近くまで来てくれた。鳥を近くで観察したいなら、動きまわらずにじっと待っていると鳥のほうから近づいてきてくれることがある。気長に待ってみよう。
長い渡りの途中に日本に立ち寄るシギチたちの観察シーズンはまだ始まったばかりだ。
みなさんもぜひ、春の水辺でシギチ探しにチャレンジしてみては?
シギチ観察の注意点
・熱中症に注意
干潟には太陽をさえぎるものが何もないため、直射日光を浴び続けることになる。春でも暑い日はあるので、こまめに休憩をとる、水分補給をするなど、熱中症対策をとろう。体調の変化を感じたら引き返し、涼しい場所に移動することも大切だ。
・鳥に近づきすぎない
鳥と人とを隔てる遮へい物がないため、近づこうと思えば近づくことができてしまうが、近づきすぎると鳥は逃げてしまう。なるべく遠くから、できれば低い体勢で観察して、鳥がこちらに来てくれるまで待とう。
・鳥を見ている/撮影している人たちの前を通らない
せっかくの野鳥観察の場、人同士のトラブルを避けるためにも、周りの人のことも考えながら行動しよう。
シギチ観察のお供にこちらもおすすめ。
「シギチ」とはどんな鳥たちなのか?-BuNa
シギ・チドリ類ハンドブック
BIRDER2024年4月号