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高尾山4号路を歩こう

Author:山田隆彦(社団法人日本植物友の会)

高尾山(標高599m、東京都)は植生が豊かで、四季折々さまざまな植物の観察を楽しむことができます。今回は、秋におすすめの散策路について、『新版 高尾山全植物』の著者・山田隆彦さんに紹介してもらいました。

白い小さな花の咲く植物の見分けにチャレンジ

高尾山の散策路マップ。『新版 高尾山全植物』6〜7ページより。
続きのページでは、各コースの見所や、周辺の観察路も紹介されている。
本文最後からPDFをダウンロードできるので、
秋の散策に活用してください。

4号路で多く見られる秋の花は、キク科(モミジハグマ属)のオクモミジハグマです。白色の小さな花ですが、8月中旬ころから10月ころまで咲き続けます。この花は一見ひとつの花のように見えますが、実は細かい花が集まった花房で、「頭花」と呼ばれています。キク科には頭花をつける植物が多くあります。葉のほうは大きく規則的な切れ込み(鋸歯といいます)のある単葉で、4~7枚を輪生状につけます。

オクモミジハグマ
葉は大きく、大きな切れ込みがある。

よく似た花で、同じキク科(コウヤボウキ属)のカシワバハグマも多く見られます。花だけでぱっと見分けるのはむずかしいですが、葉を見ると簡単にわかります。カシワバハグマの歯は縁に不規則で粗い切れ込み(歯牙といいます)があり、長楕円形をしていますが、オクモミジハグマの歯は大きな鋸歯があり腎心形をしています。花の見分けに迷ったら、目立つ花だけでなく、葉や茎も様子なども比べてみると手がかりがつかめますよ。

カシワバハグマ
葉は長くて縁に不規則なぎざぎざがある。
花がいくつか集まってついているので大きく見える。

この時期は、コウヤボウキやナガバノコウヤボウキも咲いています。カシワバハグマと同じコウヤボウキ属ですが、姿形がずいぶんと違います。カシワバハグマでは、頭花は穂状につきますが、コウヤボウキやナガバコウヤボウキでは、頭花は枝先に一つだけつきます。一見すればすぐわかります。
コウヤボウキとナガバコウヤボウキはよく似ています。両種の違いは、2年枝(去年伸びた枝)に花をつけること、枝や冬芽に毛がないことです。コウヤボウキは1年枝(今年伸びた枝)に花をつけ、枝や冬芽に毛があります。この2種はつる草のように見えますが、細い茎を持った木なのです。カシワバハグマは草本です。

コウヤボウキ
ひと株がわかりにくい(じつは樹木で、枝分かれしているため)。
枝に毛がある。花は葉に囲まれない。
ナガバノコウヤボウキ
ひと株がわかりにくい(じつは木で、枝分かれしているため)。
枝に毛はない。花は葉に囲まれた中央に着く。

このルートでは、このほかにもキッコウハグマやキバナアキギリ、ヤマホトトギスなどが楽しめます。キッコウハグマはオクモミジハグマと同属の植物です。しかし、サイズや姿はずいぶん違います。見つけて見分けてみてください。

キッコウハグマ
葉は小さくてあまり切れ込まない。

ノササゲの黄色い花も目立ちます。珍しいものでは、ツルギキョウの花が10月ころまで見られます。

ヤマホトトギス。
ノササゲ。
ツルギキョウ。

吊り橋の上で樹木観察

4号路は、1号路にある淨心門の横から頂上まで、高尾山の北斜面を歩くコースで、途中に吊り橋があり、ここからは木々の葉の様子が身近に見られます。観察してみましょう。
葉には、単葉と複葉とがあります。複葉は完全に独立した小葉の集まりからなる葉、単葉は1枚の葉だけのものです。ヤツデの葉のように深く切れ込んでいると、一見複葉に見えますが、完全に独立していないものは単葉です。一枚の葉の切れ込みが極端に深くなって、葉が分離してしまったように見えるのが複葉というわけです。ですから、単葉の葉の軸(「葉柄」と言います)は枝につきますが、小葉の軸(こちらは「葉軸」と呼ばれます)は葉の中央の太い葉脈(「主脈」といいます)についていることが理解できます。それを知っていれば、小さな単葉と小葉の区別は秋なら簡単。葉の軸のつけ根に冬芽ができていれば単葉、なければ小葉です。

フサザクラの葉。
切れ込みはありますが、単葉です。

吊り橋を渡り始めると、すぐにフサザクラの葉が目につきます。これは単葉です。樹木ではありませんが、アサギマダラの食草であるキジョランやツヅラフジの単葉の葉も観察できます。複葉の樹木ではカラスザンショウが見られます。

同じく単葉のツヅラフジ。
複葉のカラスザンショウ。夏には花も見られます。
虫媒花なので訪花昆虫も観察できます。

4号路では、春にはタチツボスミレやコミヤマスミレ、ナガバノスミレサイシン、ヒナスミレ、エイザンスミレ、ニョイスミレ、タカオスミレなどの花に出会えます。スミレの葉にも単葉と複葉があり、エイザンスミレは葉が3全裂する複葉です。他のスミレは単葉なので、花が咲いていないときでもエイザンスミレを見つけられます。複葉と単葉、どちらが生存に適しているかはよくわかりませんが、単葉の植物のほうが複葉の植物よりはるかに多いです。

カエデのなかまのさまざまな葉

高尾山の紅葉は、11月の中旬ころ。4号路では、イヌブナの黄色の紅葉、カエデの仲間の赤や黄色の紅葉が楽しめます。カエデ属はカエデ科に属していましたが、DNA情報に基づいてつくられた新しい分類体系ではカエデ科は消滅し、ムクロジ科に編入されました。

イロハモミジ。
「カエデ」といわれて連想する形。
紅葉が美しく、公園などにもよく植えられている。
エンコウカエデ。縁が波打っていて特徴的。
葉がサルの手に似ているから「猿猴」という名がついた……そうだけど、似てる?

4号路では、カエデ属はイロハモミジ(紅葉)、エンコウカエデ(紅葉)、吊り橋ではチドリノキ(黄葉)、頂上近くの1号路との合流点では、カジカエデ(黄葉)が見られます。カエデ類には深い切れ込みの入った単葉が多いのですが、チドリノキには切れ込みがありません。

チドリノキ。
カエデの仲間には珍しく切れ込みが少ない。
カジカエデ。
五角形のような形で、切れ込みはあるが、
いわゆる「カエデ」のイメージとは違う。

カエデ類にも複葉をつける種類があります。メグスリノキは3小葉からなる複葉で、鮮やかに赤い色に紅葉します。メグスリノキは4号路では見かけないので、手前の権現茶屋の前とケーブルルの高尾山駅近辺を探してみてください。

メグスリノキ。
珍しい複葉のカエデ。小葉が3枚ある。
4号路では見られないが、
ケーブルカーの高尾山駅周辺で見つかる。

紅葉は葉の老化現象の一つです。植物は葉を落とすとき、葉のつけ根の細胞を変化させて「離層」をつくり、葉をからだから切り離していきます。それまでに、葉に残った光合成で作った糖分をできるかぎり吸収するのですが、糖分が吸収しきれずに葉の中に残ると、クロロフィルと反応して、アントシアニンという色素がつくられます。
この色素によって葉が赤く見えるのが紅葉です。また、葉のクロロフィルが分解されて、クロロフィルの緑に隠れていたカロチノイドという黄色い色素が目立ってくるのが黄葉です。同じ葉の中に赤い部分と黄色い部分ができるのは、葉のなかで糖分が残っていた部分とそうでない部分とがあったからと考えられます。

紅葉するとこんな感じ

イロハモミジ
メグスリノキ

新版 高尾山全植物

新書判、厚さ約1.7 cmのハンディサイズに、高尾山で見られる草木からシダ類まで1500種を網羅したびっくり図鑑。主な特徴や似た植物との区別の決め手になる部分を写真で示していて,名前調べに活躍します。2018年刊行の旧版に18種を加え、さらに学名索引も追加して利便性を高めた最新版。
「高尾山」と銘打ってはいるけれど、他の場所でも活躍してくれます。高尾山はとにかく植物の多様性が高いので、関東地方の平地〜低山の植物はだいたい入るのです。1冊ザックに入れておくと便利。

Author Profile
山田隆彦(やまだ・たかひこ)
社団法人日本植物友の会 会長。スミレを愛し、『スミレハンドブック』を執筆。スミレの種類が多い高尾山をホームフィールドに、植物観察で全国を飛び回る。2024年9月刊行の『新版 高尾山全植物』ほか、植物の見分けや観察法についての著書多数。


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