幻の名著「現代写真の名作研究」吉村伸也著
この本は危険な本であります。写真評論社を創立し、「フォトコンテスト」「写真映像」という雑誌を刊行していた吉村伸也氏の書いた、現代写真に関する洞察に満ちた1冊。惜しくも吉村氏は夭折され、その活動はあまり知られることなく、現在に至っている。中公新書の「日本写真史」を読んでも、吉村氏の記述が何もないのがまことに残念である。いまや写真評論家として著名な飯沢耕太郎氏が、まだほんの駆け出しだった頃、早くも吉村氏は現代における写真表現について真摯に語っておられたのだった。
「カメラ毎日」の山岸章二氏(1930~1979)と並ぶ、日本のコンテンポラリーフォトグラフィーを育てた人物といえるだろう。
確か細江英公氏と都立隅田川高校での同級生だった、との記述をどこかで見かけたことがある。
「写真表現の”現代”ははじまった・・・・・」という吉村氏の前書きに続いて紹介された写真家は以下の通り。
ウイリアム・クライン、ロバート・フランク、ビル・ブラント、エド・ファン・デル・エルスケン、リチャード・アベドン、サム・ハスキンス、ジョージ・ケペシュ、ユージン・スミス、ルネ・グルーブリィ、エドワード・スタイケン(監修)、ウィージー、土門拳、浜谷浩、細江英公、奈良原一高、佐藤明、東松照明、石本泰博、高梨豊、川田喜久治、篠山紀信、森山大道
といった面々である。
吉村氏は、たぶん「フォトコンテスト」か「写真映像」での対談だったと思うが「写真史のなかで必ず見なければならない有名な写真集が、本当に手に入りにくいので、その写真も収録することにしました」と語っている。写真表現は「見ないと分からない」のだ。上記の写真家の代表的な写真集からの何カットかが、かなりの枚数で収録されているのである。
これはロバート・フランクの「アメリカ人」。
これはエルスケンの「スイートライフ」である。
1970年に出版されたこの本は、すべての表現がむたみやたらと熱かったあの時代を、いまだにビリビリと感じさせる。たぶん高校生の時に購入したこの本だけが、いまだに私の本棚に残っているのである。