古都の思い出
京都というと古都と言うイメージがある。ところが、近代建築やマンションが続々と建ってしまう。それじゃダメじゃんと言う訳で、古都保存法ができた。古都保存法の指定地域内に住んでいる人達は、むやみに洋館に改築したり、庭を西洋風に変えたりできない。あくまで、純日本の家屋、庭を維持すると言う厳しい法律だ。
そんな古都の屋敷に招かれた田中哲弥は、主人の丹羽泰次郎に手ぶらで来たことを恥じた。娘婿の利彦に連れられ、妻の恵と共に屋敷の周辺を散策した。寺や道祖神などがあり、説明を受けながら一時間ほど、優雅な時間を過ごした。
「こんなお屋敷ばかりのところ、初めて見ました」
「これがこの辺では、普通の生活みたいです」
古都に住むと言う事は、大金持ちしか住めない特権でもある。意外に治安がいい、安全地帯でもある。
屋敷に着くと、美人が三人が出迎えてくれた。ブティックの綺麗どころばかりだから、田中のテンションも上がる。丹羽は、全国にブティックを持つオーナー社長だ。田中は、この店舗のコンサルタントをやつている。
「田中さん、ブティックなどいくら持っても、駐車場の利益には、敵わない。ブティックと言う
お荷物を持ってしまいました」
と近江の出身だから、経営能力の高さと、接待の上手さは天下一品な所を見せた。琵琶湖に別荘があり、今度そちらに招待すると言っていた。
驚くことばかりで、料理人を家に呼んで、調理する事に度肝を抜かれた。御家老のような老人が身のお世話をするらしく、この屋敷の全てを管理しているようだった。
料理は、和食で、肴が出され、メインも刺身や焼き魚や京都らしいあっさりとした煮物や焼き物など、食べきれないほど出てきた。美女たちも一緒に食事をしながら、歓談した。
地下は、保存法の適用外なのです、ヨーロッパのようなワインセラーや応接間があって、異空間を醸し出している。そこに会長が招き入れてくれた。
「好きなワインを持っていってください」と言われ、田中は、遠慮なく年代物のボトルに入ったワインを一本頂いた。
帰りは、ハイヤーが用意されて、京都の高級ホテルに泊まった。至れり尽せりとはこの事だと思った。
田中は、人を喜ばすことの本質を丹羽泰次郎から学んだ。近江商人の三方良しと言う教えがある。『売り手によし、買い手によし、世間によし』自分の利益より、地域や人のために貢献する精神が大事だという教えだ。そして二代三代と続けて、善人にならなければならないとも。
田中は、了見が狭くなり過ぎて、その場その場で儲けようとし過ぎる自分たちへの警鐘と悟った。長く長く続けることの大切さを教えてもらった。
だからと言って、そのまま上手くいかないのが人生。二代、三代に繋がるような根性がない。トホホと、沈む田中であった。
「俺、近江じゃねえし」と捨て台詞。
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