褌と冷やっこ
いつもの時間に夕飯となった。いつものように褌一丁で上半身裸の旦那が、発泡酒のアルミ缶を3本目を開けていた。
妻はいつものように、何も注意しない。6本全部飲んでも、酒場の生ビールと変わらないほどの安さ。
とは言え、身体に毒なので、たまに警告をする。酔っているときには、そのまま機嫌良く飲ませる。警告をする時は、三日三晩連続で飲む時と決めていた。気が付けば、うだつの上がらない旦那と三十年も一緒にいた。
警告すべきは、褌一丁の方だと思うのだが、一向に注意しない。家の中とは言え、せめてタンクトップくらい着るべきだ。コタツの布団がないちゃぶ台に、茄子の漬け物と、常備菜の辛子味噌、のりの佃煮、ご飯、味噌汁、辛子明太子が、並んだ。食事に関しては、何も文句を言わない旦那だ。
塩と味噌だけでもアテになるような旦那に妻は、有難いと感謝している。まるで、江戸時代に戻ったような日常に、笑ってしまう。
猫の額位の庭に野菜を植えている。茄子、おくら、ミニトマト、シシトウ、大葉などが所狭しと植っている。野草菜園と名付け、雑草も生えている。それでも、ちょっとした時に重宝している。水を撒くのは、旦那の方だ。
この一家は、一人娘のアルバイトの収入と、旦那の年金で細々と暮らしている。
褌一丁も、まんざら嘘でなく、エコ生活のためにもなっている。冷房も使わず、炊飯もあまりガスを使わない。妻も娘も慣れたもので、扇風機一つで過ごしている。
貧乏だが、毎日楽しく生きている家族だが、酒が進むと気が大きくなるもの。コンビニに行って、サラミと冷やっこを買って来いと命令する。
素直に返信をする訳もなく、黙っていると、
「俺が買って来る」と叫ぶ旦那。
ベロベロで呂律も回らない。とても外などに行かせるわけにいかない。
とっさに、落語の穴どろの台詞が飛び出した妻
「お前なんか、豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ」
本来、気の弱い旦那。あまりに突然のことで布団の中に潜ってしまった。「こりゃ本当の穴どろだ。」と妻。