書き出し自選・午前0時の５作品（午前0時）

昼行灯（以下、昼）「昼行灯です」
紅井りんご（以下、り）「紅井りんごです。２人合わせて」
昼・り「午前0時です！」
り「ということでね」
昼「どうしてもやりたかったことを済ませたところで本題へ」
り「はい。今回ですね、書き出し界〝期待の超新星〟みよおぶ君からバトンを受け取りまして、午前0時が書き出し自選を担当する運びとなりました」
昼「ありがとうございます」
り「ありがとうございます。午前0時はユニットということで、対話形式で本記事を進めさせていただきます」
昼「作品制作時の空気感も伝えられるかもしれません」
り「そうですね。ではさっそく午前0時の５選、１作目はこちらです」　
　
　
赤白帽のゴムが真冬の唇を叩いた。痛くて塩辛い。
（第２０２回　規定部門：ノスタルジー）

り「初採用作ですね」
昼「挑戦３回目で。結果が出るまでもっと時間がかかると思ってたから嬉しかった。作り方も手探りで」
り「たしか赤白帽のゴムがしょっぱかったよね、っていう話をわたしがして」
昼「引っ張ったゴムが指から滑って唇を叩く動きを加えると、アイデアがシーンになると思って、原型ができた。そこに、りんごさんの推敲が入って出来上がり」
り「小学生って色々味わうよね。キイチゴ、ツツジ……」
昼「茱萸の実、キン消し」
り「……えんぴつ」
昼「えんぴつの芯って、どの季節に舐めても冷たかった」
り「わかる。味って共通の記憶が多いのかな」
昼「地域とか年代で微妙な違いもありそうだけど」
り「赤白帽のゴムは今でもしょっぱいんですかね？最近味わった方、よかったら教えてください」
　
　
よいーん……
（第２０３回　規定部門：私的流行語大賞）

り「これは志村けんオマージュだね。書き出し作家さんたちの間で地味に流行ったのが嬉しかったなぁ。余談だけど、最近はレッツゴーよしまさのモノマネが熱いです」
昼「俺もレッツゴーよしまさの出てるＴＶ番組を観たことがあって、ドリフメンバー全員をやってて凄かった。 『飛べ！孫悟空』の馬の役の人（注：すわしんじ氏のこと）までやってて（笑）」
り「レッツゴーよしまさのおもしろいところは、 素の志村けんの完成度が高いんだよね」
昼「仕事の流儀の志村けんの回の再現なんて正に」
り「志村けんのモノマネっていうと、バカ殿とか変なおじさんに行きがちなんだけど、それこそ『アイーン』とか」
昼「モノマネの歴史も長いけど、まだこんなに凄い人が出てくる。モノマネ界の未来も明るいよねっ」
り「うん」
昼「うん」
　
　
私より背の高いヒマワリ畑を抜けると盗賊団のアジトがある。
（第２０６回　自由部門）
　
り「これは大喜利から生まれた書き出しだよね。ちゃんとは覚えてないんだけど」
昼「俺もうろ覚えなんだけど、俺が出したお題は『こんなきれいな花が、こんな所に咲いてたら台無し。どこ？』だったかな」
り「わたしの答えが『アジトを囲むように咲いている』だったかな……」
昼「大体で喋ろう（笑）答えを見た時、絵面が凄いきれいだなって思ったのは、ちゃんと覚えてる。花畑の真ん中に子供たちの手作りの基地があって、ジュブナイルが始まりそうで。きれいなつもりで書いたんだけど、打ち合わせで見せた時に笑われて『なんで？』ってなった」
り「始まりが大喜利だったのもあって、わたしは戦隊ものとかの悪者のアジトを想像してたから（笑）天久先生もコメントで『笑った』って言ってくれてたよね」
昼「そう。第２０６回では２作採用されててね。『さみしかったアジトに歯ブラシが一本増えた。 』これと、セットで『アジトもの』ってネーミングまでしてもらって嬉しいコメントでした」
り「歯ブラシは、打ち合わせで脱線をしてた時に思いついたんだよね」
昼「全然関係ないのに魚喃キリコって良いよねって話をしてて。アジト＋ダメ恋愛。ピースがパチンとはまる感じで、割とすんなり」
り「無駄話も大切ですね（笑）そういえば、大喜利から作ったのってこれくらいだったよね？」
昼「ちょうど良いお題を考えるのもセンスが要るなって、大変だなって、すぐ止めた（笑)この頃はまだ、ユニットとしての作品の作り方も定まってなくて、色々試してたね」
り「おもしろいやり方だと思うけど」
昼「おすすめはしない（笑）」
　
　
あの日ぼくらは、同じ空の下、違うチャーハンを食べていた。
（第２３０回　自由部門）
　
昼「ある日、書き出しの打ち合わせをしてたら、りんごさんが『今日のお昼、チャーハンだった』って言って」
り「昼さんが何か違う物を食べたって言って」
昼「すぐに次の話に移った」
り「うん、単なる中年のお昼ごはんの話だからね（笑）」
昼「『ふーん』以下だよね（笑）でも、ふと思い出したら、あまりに自然にスルーしてたのが面白くて、ためしに触ってみたらこの作品ができた」
り「誰かと誰かが同じ空の下で別々のものを食べてるだけだから、アオハルっぽく書いてるけど何も始まらないよね」
昼「『書き出し』だって言ってるのに、何も始まらない」
り「それも込みで笑ってもらえたら嬉しいです」
　
　
老犬が、光り終わった海をまだ見ている。
（第２３２回　自由部門）　
　
昼「これはまず、りんごさんの自由律俳句が原作にあって」
り「『老犬と並んで光る海を見ている』っていう句を、書き出しにできないかなって提案したんだよね」
昼「言われた時、けっこう困った。完成されてると思ったから。いじりようがない。最終的に、このシーンそのものを触るんじゃなくて、時間軸をズラせばいけるかなって。あと、主人公を老犬にした」
り「光る海を『光り終わった海』にすることで、原作の句より切なさが増したように感じる。この老犬が、自分に残された時間の少なさを分かっている印象」
昼「それっ」
り「うん（笑）陽が落ちても海にとどまりたい気持ちが、この世界への名残惜しさを表現しているように感じた」
昼「あ、そこは、俺はちょっと違う感じ方をした。老犬は自分に残された時間の少なさを分かりながらも、それを受け入れてると思う」
り「なるほど」
昼「どっちの読みもあり得るよね。老犬の表情自体は描き込まれてないし」
り「うん、なんか考えちゃうね」
昼「４０過ぎなりにね。読む年齢によって、俺らとはまた違った読み方をされるかも」
り「他にもわたしの自由律を原作にした作品は結構あるよね」
昼「沢山ある。さっき、りんごさんの自由律をいじるの難しい風に言ったけど、ココとココをおさえておけば良い作品になるって見えやすいから、その点はやりやすい」
り「いつも想像の斜め上を行くアレンジで脱帽でしたよ。原作どこ行った？　っていうのもあったね（笑）」
昼「クダラナイのとかエロへ走る時は原作者と作品のファンに申し訳ねーなって気持ちがあって、あえて別物に見えるように…」
り「それ、いま知った（笑）でも、台無しにされた意識はないよ」
昼「そう言ってもらえると助かります（笑）」
　
　
昼「午前0時の５選は以上です。振り返ってみて、りんごさん、いかがでしたか？」
り「はい。わたしたちは作家性も作風も違う２人だから、ユニットを組んだ当初はこんなに上手くいくと思っていなかったんですよね。でも奇跡的に良い化学反応が起こっておもしろかったです。刺激をもらえたし、勉強になることもたくさんありました 」
昼「良いこと言うなぁ」
り「良いこと言ってみました。昼さんはいかがでした？」
昼「確かに作家性も作風も違うけど、書き物に対する執着心は近い気はする。ここをここまで突っ込んだら引くかな？って所で引かないでくれる。だから、ユニットが成立してると思ってます」
り「楽しかったし、すごく良い経験になりましたね」
昼「まとまりましたね」
　
　
昼「それでは最後に、次回登場する作家さんの紹介です。頭の中を覗いてみたい書き手さんの１人、にかしど君です」
り「角作品を書かせたら右に出る者はいませんね」
昼「着眼点も膨らませ方も、独特の意外性が面白い」
り「どんな５選になるのか、今から楽しみです」
昼「楽しみです。にかしど君、よろしくお願いします」