判決(伊勢崎おかめ)
窃盗被告事件
東京地方裁判所青梅支部/令和年(わ)第1067号
主文 被告人を無期懲役に処する。
理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人とA子は、職場の同僚であった。平成29年4月にX社に同期として入社して間もなくA子に好意を寄せ始めていた被告人は、同年11月、仕事で同じプロジェクトチームに配属になったことから、A子と互いの連絡先を交換することに成功した。平成30年3月8日、被告人は、チームの親睦と慰労を兼ねて、同僚B男宅にて、A子と仲の良い同僚C子、D子らを交えたホームパーティを開催することを計画し、そこにA子も呼び寄せた。被告人は、あらかじめ、C子、D子に根回しをし、「子供、犬や猫などの動物が好き」「家事が得意」「預貯金が相当程度ある」「二男である」などといった被告人についての有利な事実をA子に吹き込むよう頼んでおいた。その後、被告人はほどなくして、A子と週に数回程度、仕事外でも連絡を取り合うようになった。
第2 同年6月30日、東京都港区のレストランにて、被告人はついにA子に思いを寄せていることを伝え、A子との交際を開始するに至った。被告人は、週末にはA子の行きたいところに連れて行ったり、一緒に食事をしたり、仕事の愚痴を聞いたり、プレゼントを贈るなど、A子に愛情を注いだ。職場恋愛ということもあり、社内では思うようにA子とコミュニケーションが図れないこと、週末に会うだけでは物足りなさを感じたこともあり、被告人は次第に、A子と一緒に暮らしたいと思うに至った。
第3 被告人はA子に対し、令和元年12月30日、被告人の自宅マンションにて指輪を贈るとともに求婚した。A子はその場での返答を留保したため、被告人は、不安な気持ちのまま年を越し、令和2年1月3日、A子よりついにその承諾を得たものである。
(量刑の理由)
本件は、被告人が、同僚らと共謀の上、A子のハートを盗み、求婚した事案である。被告人は、A子の誕生日や交際開始記念日には必ずプレゼントと花束を渡す、週末にはA子に手料理を振る舞う、A子と同部署の同僚らから情報を仕入れ、A子が仕事でミスをして落ち込んでいる時などに励ましのLINEメッセージを送るといった犯行に及び、徐々にA子のハートにつけ入り盗み、また、交際を開始した後も盗み続けたもので、犯行態様は、組織的で、用意周到に計画された悪質なものである。また、犯行の手口も、A子の心情や隙につけ込む、巧妙で卑劣極まりないものである。しかし、被告人がA子のために費消した金員は、被告人の収入に照らして高額といえ、それだけA子を大切に思っていたこと、また、被告人は、A子と交際を開始してすぐ、スポーツジムとフットサルのサークルを退会し、スマートフォンの連絡先から他の女性の連絡先を消去するなど、A子と交際することへの真摯な態度が窺える。
以上に加え、被告人には結婚歴も、A子以前に女性との目立った交際歴もないこと、今後は、A子が被告人の監督を約束していることや、被告人のA子に対する交際態度を考慮しても、被告人の求婚責任には重いものがあり、本件は刑の執行を猶予するのが相当な事案とは言い難い。そこで、被告人に対しては、求婚のとおり、主文の実刑が相当と判断した。
以上、末永くお幸せに!
(求婚 無期)
令和2年11月17日 東京地方裁判所青梅支部刑事部 裁判官 伊勢崎おかめ