圧(哲ロマ)
幼い頃、ゴミ収集車を見るのが好きだった。
「ごみブップ」と幼い頃の俺に呼ばれていたゴミ収集車は、何曜日だったのかまでは覚えていないが、家の目の前のゴミ収集所に停まり、ゴミ袋をたくさん詰め込まれてはパキパキパキ、ぐしゃっ、ぼふっ、と色々な音を立てて飲み込んでいった。
あの感じ、たくさんのゴミ袋がぎゅうぎゃうに詰め込まれて、重たくゆっくりと回転する、何?ゴミ収集車の後ろの、なんて言うのですかアレは、歯?あの潰すやつ、正式名称が分からない。ゴミ収集車の後ろで回転する鉄の、何?決めよう、話が進まない。ここだけでも勝手に呼び名を決めよう。なんだ、ゴミが潰されて中に引きずり込む歯「ゴミー歯サウェイ」でどうだろうか。挟まってる感もあるし、歯っぽいし「ゴミー歯サウェイ」に決めよう。
あの感じ、たくさんのゴミ袋がぎゅうぎゅうに詰め込まれて、重たくゆっくりと回転するゴミー歯サウェイに潰されていくあの感じ。あの感じがたまらなく好きで見ていた。
実家は母親が経営する美容室と住まいとが一緒になっていて、ゴミ収集所は美容室側の目の前にあった。母親はもちろん俺がゴミー歯サウェイファンなのを知っていて、ゴミ収集車が来ると美容室の方から俺を呼んでくれた。
ごみブップ来たよー
美容室のガラス窓にへばりついて見る。恥ずかしいからなのか、外には何故か出ない。ガラス窓にへばりついて内側からごみブップのゴミー歯サウェイを見る。たくさん詰め込まれてぎゅうぎゅうになればなるほど、高揚し、たぶん幼い頃の俺はうっすら笑みを浮かべていたのだろう。
ゴミ袋をどんどん投げ入れられ、かなりのぎゅうぎゅう具合で、それでも回るのかな、歯サウェイ、え、それいけんの歯サウェイ、結構ぎゅうぎゅうですけど、それ回るの?回るのゴミー歯サウェイ?うわわ!わわ!いったー!!ぐふふふ、、、みたいな、そんな笑みを浮かべていたのだろう。可愛らしい子だ。
圧縮
圧縮が好きなんだと思う。今でもそう。この、ごみブップのゴミー歯サウェイを思い出したきっかけが最近買ったホットサンドメーカーだった。
休みの日の朝、ホットサンドを作っていた時に思った。高揚するのだ。幼い頃のように。
最初はホットサンドなんて作った事もなかったのでテキトーに8枚切りのパンとパンの間にハムとチーズをのせて、閉じて、焼いた。難無く閉じた。こんがり焼き目も付いてチーズもあつあつのトロトロでハムとの相性も少年とナイフの相性以上にめちゃくちゃ抜群で120%!すごく美味しいホットサンドで素敵な休日の朝食だった。素敵な休日の朝食だったけれど、手応えが無いな、と物足りなさを感じた。そして次のホットサンドは作り方を変えようと決めた。圧縮したい。もっと圧縮がしたい。
6枚切りに変更
6枚切りのパンとパンの間にハムとチーズをのせて閉じてみた。いくらか前回より手応えがある。圧がきてる。でもまだだ、まだ圧が足りない。冷蔵庫を漁る。千切りキャベツがある、挟もう。ベーコンがある。ハムあるけど挟もう。カニカマか、カニカマかあ、カニカマは合うのだろうか、いや、味などもうどうでもいい、より強い圧縮が欲しい。挟もう。カニカマを挟む。だいぶ厚い。少し高揚して来た。そして俺は閃く。
もう一枚パン挟もう
6枚切りを3枚。その間と間にハムとチーズとキャベツとベーコンとカニカマ。閉まるのかなホットサンド。それでも閉まるのかな、ホットサンド、え、それいけんのホットサンド、結構ぎゅうぎゅうですけど、それ閉まる?閉まるの堀田さん?堀田さん?!うわわ!わわ!いったー!!ぐふふふ、、、可愛らしい子だった幼い頃のように、俺は笑った。
カニカマはやっぱりちょっと合わないですね。
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