ローゴdeフゴー（puzzzle）

　フカフカのソファーだ。上質の珈琲だ。酒も煙草も嫌というほど呑んできた。やめたら身体はこんなにも軽いよ。子供たちは三流大学を出て一流企業だ。嗚呼、勝ち組だ。あとはこのままゴールテープを切るだけだ。
「ちょっと君、今の俺を写真に納めてくれないか？」
　ソーサーとカップを手に取り、腹を引っ込めて脚を組みかえる。
「そうそう君だよ。君以外に誰もいないだろう。#逃げ切り世代 と添えてＸにアップしてもらって構わない」
　昔は団塊世代と呼ばれていたんだけどね。あの頃は誰しもモーレツサラリーマンだった。みんなを蹴散らして上り詰めたからこそ今がある。すべて俺の実力で成せたことだ。国税庁が発表する民間給与実態統計調査結果を眺めるのが堪らない。給与階級別給与所得者数・構成割合は度数分布表でなくヒストグラムで明確に見せてほしい。嗚呼この国は貧困に喘いでいる。俺はトップ五パーセントの男だよ。どれだけ貧乏人どもに嫌われようとも、総温室効果ガスの半分以上を吐き出しながら逃げ切るんだ。俺は片尻を上げて放屁する。
「ヨット？ヨットは持ってない。酔うから。車？娘がうるさいから免許返納したよ。サッカーチームのオーナーなんて、まさかそこまでの富豪じゃない。サッカーなんて観ないし。昔はみんな野球少年だった。趣味？」
　趣味ね。趣味がなんだとか聞かれるのが一番嫌いなんだよ。趣味は旅行です。結局わが家が一番だよ。モーレツサラリーマンに趣味なんているかよ。昼は働いて夜は酔いつぶれて眠るだけ。
「休日は嫁さんと買い物に行って。あとは寝て過ごす。だから、金があるのか？」
　基本的に行動範囲が狭いから温室効果ガスも出していない。妙な不安がこみ上げる。選ばれた世代の俺がそんなんでいいのか。車に飛行機にヘリコプター、ハイパーモビリティでガンガンＣＯ２を出してこその富裕層ではなかったか。
「いいの？かわいい？よしなさいよ。富豪はじっとしてろって？あんた言うねえ」
　後日、君はバズってると言ったね。誰が動画をアップしろと言った？なんとかして一〇〇枚埋めた『かわいい富豪の暮らしかた』は重版出来、講演依頼は途絶えない。こんな無趣味の俺になにを語らせたい。まるで中身のない爺さんが壇上ではにかむだけで笑いがおこる。芸がないから放屁する。とてもお金なんか貰えない。いいよ。君たち世代のために使いなさい。好々爺が流行語になったってね。