春の話(むあ)
避難所フレンドが増えた。
避難所フレンドとはその名の通り、避難所が同じで配給のときに一緒に並ぶ友達のことだ。
暇な時はトランプをしたりしりとりをしたりする、心強いフレンドなのである。
避難所フレンドは仕事先のお客さんだ。
20代で髪がサラサラでくっきりとした顔立ちの美人さんである。
彼女と釣り合うように避難所でも私はアイプチをしなければならない。
さて、彼女と避難所が同じということは知っていたが、家の特定までは至っていなかった。
それは相手も同じである。
「おねえさんのお家って、赤い屋根ですか?」
レジで釣銭を渡しているとき愛くるしい顔で問われた。
「いや、うちはシルバニアじゃないですよー」
彼女が帰ってからダダ滑ったことに気づいた。相手苦笑いだったじゃないか。消えたい。
そんなことを夕食中に主人に話すと、
「うちのアパート、赤い屋根だよ」
私は脱兎のごとく駆け出した。
外から見ると、7年間住んでいるアパートの屋根は確かに赤かった。
いつのまに赤くなったのか。
私はあんぐりと口を開けるしかなかった。
視線を少し下げると我が家のベランダである。
赤白黄色の貧相なブラジャーが揺れていた。
春だった。
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