書き出し自選・マークパン助の5作品(マークパン助)
マークパン助と申します。
女子プロ時代の先輩、スージー菅原さんからバトンを受け取りまして、今回やらせていただきます。
自選とは言っても、自分にはそんな立派な作品は無いんですよね。解説するにも、どうしてこんなの書いたのかよく覚えて無いんです。菅原さんの起こしてきた数々の奇跡に比べたら鼻クソみたいなもんです。申し訳ない。
ではどうぞ。
全身に青海苔をまぶして国立公園の一部になった
(74回 自由部門)
昔から公園は様々な変態が集まる場所ですが、その中には覗きを趣味にした者もいます。前に聞いた話では、景色に溶け込む為に細心の注意を払い、音を立てず、服装に気を使い、覗く場所にも縄張りがあるとのことでした。ホウキを持った公園職員風の男が実は覗き魔とかあるそうです。その変態が言ってたのが「公園の一部になる」です。
それでこの書き出しですね。
単行本にも載ったので思い入れある作品です。
二枚組のベスト盤を最後に活動を休止したような顔で母が昼寝している。
(78回 自由部門)
何年か前のフジロックで、あまり興味が無いバンドを隣のステージへ向かいがてら横目にチラ見してたら、メンバー全員、風呂上がりみたいにサッパリした顔して余裕の演奏、それでいて圧倒的な貫禄だったんです。
そのとき一緒にいた友達との会話で
「活動休止明けみたいな顔してるよな」
「休止前に二枚組のベスト盤とか出してそう」というのがあって、後で調べたら本当にベスト盤を最後に活動休止してて、そのときのフジロックが復活のライブでした。余裕の充電期間というか、ツルッとしたあの顔は、その顔なんだと。
ハンドル以外は全て妄想である。
(97回 自由部門)
文字数の少ない書き出しはカッコイイですよね。キレがあって。僕もそこを狙って、バカっぽい一コマを想像する書き出しにしただけなんですけど、今ではハンドルがあればボディやエンジンなんて要らないんじゃないかと思い始めてますね。ハンドル以外は自分次第かなって。
ヘッドフォンを外し、焼香を済ませた。
(82回 自由部門)
音楽関係の仕事をしているわけでもないのに、生き方がロックというか、全局面ロックンローラーみたいな人っているんですよね。ある先輩なのですが、葬式にギター背負って革の上下にサングラスで現れる人がいます。それが、友達のお父さんの御通夜とか、妹の彼氏の職場の同僚の葬式とか、直接関わりの無い人の葬儀にまで出没するんです。こっちは笑いを堪えるのに必死ですが、本人は大真面目の正装で神妙な面持ちです。ギターを置いてサングラスを外し、お焼香を済ませる後ろ姿はまるで、仲間がバイクで死んだかのようです。でも他人です。焼香を終えてターンして席に戻るときの顔はサングラスから涙が溢れています。そんな無職の先輩に捧げた書き出しです。
居るはずのない人が写り、あるはずの金がなかった。
(81回 自由部門)
これは実際にあった怖い体験を元ネタにして考えた作品です。ある友人の家に泊まると、必ず財布から一万円が消えるという噂がありまして、真実を確かめるべくその家に遊びに行ったときの話なのですが。仲の良い友達なので、盗みをしているのなら、何か事情があるのかと心配していました。深夜になり、今日は泊まっていくと伝えてソファーで寝たフリをしていると、人の気配を感じました。暗闇のなか、薄目を開けて見ると、その友達のお父さんが俺のリュックを漁っていました。見ていない事にして寝ました。
書き出し小説は65回辺りから投稿したと思います。当時の書き出しレギュラー陣の作品を読んで見事だなあと思い、試しに自分でも投稿を始めたのですが、レギュラーの人らは自分じゃ逆立ちしても出てこないような面白い書き出しを、一度に2本も3本も採用されたりしてて。これは敵わんと思いましたね。
僕は実体験を元にした書き出しが多いのですが、菅原先輩の作品の多くは霊視だと聞きます。書き出し小説は様々な作風の人がいて面白いですね。
次の書き出し自選は、同じ時期に書き出しを始めた同期ともいえる、ビールおかわりさんにバトンをお渡しします。おかわりさんの書き出しは「あ、なるほど!」と思わせる書き出しが多くていつも感心しています。
それでは。
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