【ニッケル・サンダース 1/3】 なかなか夕立たない (井沢)
雷雲の上、高木と中本とニッケル・サンダース会議中
「夕立ちっつってもさ、最近早いからねえ。暗くなるの。」
「タイミング逃すと、夕立ちじゃなくてただの夜の雨だからね。」
「♪秋の夜長を~ アレ?今日十五夜?」
「じゃない。」
「かあ。」
「中秋の名月だよ。」
「っかあ~。じゃあやっぱ夕立ちぐらいで切り上げないと恨まれるんでないの?早めに雨雲ごと退散してさ、こう、一杯。」
「お いきますか。」
「いきたいねー。」
「おい、それだとこんな会議してないで仕込み始めないと全然間に合わない。」
「えー今すぐ?」
「えー今すぐ?」
「や、俺は別に中秋の名月ぶちこわしたって恨まれたって構わないんだけど。」
「まあ、雷だしね。」
「いや待て待て。それだときな子いじめられちゃうんだよ。」
「いじめられるのか。」
「ただでさえ俺、雷だから。クラスで微妙みたいで。」
「あたりさわりないようにしたいわけね。」
「お前の父ちゃん、腰にトラの布巻いてるくせに!とか」
「強制してないからさ。いいよズボンくらい履いて。」
「お前の父ちゃん、いつも太鼓持ってて変なの!とか。」
「オフの日も持ち歩いてるのか?」
「お前の父ちゃん、頭トリの巣みたい!とか。」
「…」「…」
「お前の父ちゃん、いっつもウクレレ持ってんのな!とか。」
「太鼓もウクレレも持ち歩いてるんだな?」
「つらいよ。重いし」
「置いてていいよ。せめて太鼓はさ。ウクレレも弾く時だけでいいよ。」
「ウクレレは趣味ですけど?」
「なんかムカつくな」
「わかったよ。とりあえず夕立ちにするか夜にするかなんだけど。」
「あんまり帰り遅くなると、寝てるきな子起こしちゃうんだよな。」
「きな子ちゃん大事にしてるのな。奥さんも幸せだろ。」
「鞄や傘もユニクロだけどな。」
「あら。」「あら。」
「じゃあもう軽めのを夕方前にやっちゃう?」
「いや!あんまり早いとあんこの散歩させられちゃう。」
「何だよあんこって。」
「犬。ポメラニアン。」
「お前が近寄ると静電気ですごいことになるだろ。」
「もっふもふだよね。威嚇かぁ~?よ~しよしってもっふもふ。うふふ。」
「はいはい、じゃあ夕立ち稲妻コースでいきましょう」
「はーい。」
「はーい。」
「すぐ準備にとりかかろう。…何テレビ欄凝視してんだ?」
「やった!これならピノコに間に合う。」
「ブラックジャックか?」
「ブラックジャックさ。」
(*昼下がり出動待機中の雲上にて)
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