硬い無料(哲ロマ)

『ご自由にお持ち下さい』


ショッピングモールの館内マップだったり、ビジネスホテルのロビーにある新聞だったり、ATMの横にある封筒だったり、ご自由にお持ち下さいはまあまあ、だいたい紙だ。

なんの手続きもなく、誰かに頼むわけでもなく、無人で置いてあるだけのタダでもらえる物、そんな物はだいたい紙だし、紙も大切な資源ではあるけれども、ポイッと捨ててしまえるような、べつに心踊らない紙。タダでもらえる紙。

そんなタダで簡単にもらえる物が硬いと、良いんですのコレ?と思ってしまう。ポイッと捨てられない感じの、何というか、まあ、それでも心踊りはしないのだけれど、良いんですのコレ?タダが硬いとそう思ってしまう。

例えば郵便受けにチラシと一緒に入っていたりする水道トラブル解決屋さんのマグネット。磁石だぜ?磁石がタダ。良いんですのコレ?でも心踊らない。

服屋の店先に置いてあるご自由にお持ち下さいのハンガー。刑事が両手に持ったら武器になるぜ?ハンガーがタダ。良いんですのコレ?心踊らない。要らない。

普通の民家の前に置いてある手書きの良かったらどうぞだの書いてあるメタルラック。粗大ゴミだぜ?良いんですのコレ?心踊らない要らない。

牛脂。牛の脂だぜ?良いんですのコレ?心踊らない。すき焼きの時しか要らない。

コンビニのレジ横に置いてあるポイントカード。

はい来た。これはちょっと待て。牛脂で一呼吸おいてからこいつに一言物申してやりたかっただけなんだ。来やがったなこの野郎。
コンビニのレジ横にご自由にお持ち下さいのポイントカードが置いてある。紙じゃない、硬いカードが置いてある。あ、

紙じゃない、硬いカードが、置いてある。

はい。季語は紫陽花です。そう、あれはなんだ。硬いカードを持つという事はなんらかの手続きが必要でなんだったら後日郵送でなんだかんだと不在で受け取れずなんやかや音声ガイダンスに従ってやっと手に入れるのが硬いカードではないのか。
スキャンだ。スキャン。スキャン出来る硬いカードは持つ事でなんとなく、大人になったな、俺、と思ったもんさ。牧瀬里穂のテレカぐらいしかカードが入ってなかった財布に、初めてスキャン出来る硬いカードが加わった中学生だかの頃、大人になったなと思ったもんさ。
そんな硬いカードがごっさり置いてあって、しかもそれをご自由にお持ち下さいと言っている。牛脂じゃあるまいし。
違和感。硬いカードがご自由にお持ち下さいなのはすごく違和感なんだ。

硬いカードはそんな簡単に持てたらいけないと思う。もっと、大人になったら持てる物として、硬いカードには子供の手の届かない存在であってほしい。お子様の手の届かないところにあって欲しい。あんなレジ横にごっさりご自由にお持ち下さいじゃ、いたずらっ子がごっさり持ってってなんか色々やるよ、メンコとか。
スキャン出来る硬いカードをごっさり持っている子供、考えただけでもハラハラする。

ご自由にお持ち下さいが硬い。それは違和感。そんな違和感だけあって心は踊らない自由は要らない。
「そんな違和感だけあって心は踊らない自由は要らない」
なんだこの歌詞は。ボツだ。
スポンジだ。スポンジがちょうどいい。ご自由にお持ち下さい。スポンジ。助かる。少し心踊る。踊るのか?踊る。踊ろう。違和感もなく持っていける。柔らかいし、財布に入れても大人になったとも思わないし、メンコ遊びも出来ない。硬いタワシじゃダメ。スポンジが良い。ご自由にお持ち下さいはスポンジが一番相応しい。スポンジ下さい。


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